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45話

古来。この世界にはモンスターが溢れかえっており、残虐に殺し合っていた。


ある時人間が生まれた。時空の狭間からやってきたとも、突然現れたとも、モンスターから生まれたとも言われている。


彼らは無力で、モンスターに食われるだけの存在でしかなく、しかし心があった。美しい文化があった。仲間を守ろうとする誇りがあった。


それは女神の心を震わせ、彼女は我々に贈り物をした。


「勇気ある人間達よ。私はお前達のその心に敬意を表して、力を授ける。その誇りのままに戦いなさい」


そうして人間達は、スキルを手に入れた。

それはモンスターを討ち払う剣。

仲間を守る盾。

そして同胞を……自らの欲望の為に殺す凶器にすらなった。


授けたスキルで殺し合い、盗み合い、騙し合い犯し合う。その様な姿に女神は嘆き、そして怒り言った。


「仲間を守る為に授けた剣で仲間を刺し殺すとは。人でありながら魔に堕ち鬼に堕ちた者に人である資格などなし」


女神の呪いは、世界を覆い、そして全ての罪ありきとされた者は、人鬼へと変貌した。

欲望のままに人間を殺戮し、嘲笑う者。人類の大敵として。


…………所々端折ったりしているが、これがこの世界の神話だ。人類がスキルを手に入れ、そして力を悪用した者が人鬼というモンスターへと堕ちるという話。


寺子屋でも聞いたし、村の悪ガキなんかも「悪い事すると人鬼にされるぞ〜」なんて脅される。


しかし脅しではない。この世界の人間は、殺し、盗み……様々な条件を満たすと、人鬼というモンスターに変貌してしまう。


西大陸では人魔と呼ばれるものになるらしいが、共通する特徴はいくつかある。

人間に対し無条件に敵対的である事。時間が経つほどモンスターの自我が元の人間の自我を削って行き、理性を失っていく事。

そしてその全てがどれだけ低く見積もっても★4以上の脅威度になる事だ……!


罪に手を染め、モンスターに堕ちる事をこの世界の人々は極端に嫌う。悪い事をしなければまず変貌しないため、人鬼にならない様人々は誇り高く生きる様にしているのだ。


他のモンスターと違い明確に集落を狙う人鬼は、いわば人類全体の大敵とも言えるモンスター。

険しい顔でカズマさんが村長を問い詰めようとするが、まず頭を下げたのはジュウゾウさんだった。


「すみません。自警団の……私のミスで、この様な事に」


「どういう事ですか?」


「スタンピードの首魁であるモンスター、邪魅と戦っていた時の事です……アレの瘴気ガスに村人達もやられてしまい、理性の弱い者が混乱してしまいました。その中でもイブキは……我々自警団の金を盗んで逃げようとしたんです。それで……」


今回の人鬼は"盗み"で成ったのか。

人鬼になるかどうかの判断は俺たちではなく、スキルを授けた女神が行うとされている。

多分、転生の時にあったあの神様だと思うが……。


「百鬼夜行は★4の邪魅が首魁。★3も3匹いましたが、こちらは邪魅を自警団団長が討伐。★3も2匹は討伐。一部★3の髪鬼というモンスターが逃走してしまいましたが……」


「ああ、そちらはこの護衛の子達が先ほど討伐してくれました」


「なんと……」


ジュウゾウさんは俺達の姿を改めて確認して目を見張る。

俺達班員に傷もなし。見た目も12〜3歳。護衛とカズマさんが言った事から、本当に子供3人だけで★3率いる群れを討伐しつつ護衛しきったという事になる。


村長は戦闘員でないのか頷くだけだが、ジュウゾウさんは意を決した表情でこちらに頭を下げてきた。


「頼む……頼みます。お役人様、3人の若きハンター様、どうか人鬼討伐を手伝っていただけませんでしょうか……!」









「……どうしような」


とりあえず相談の時間をもらう、という事で俺たちは一度馬車に戻り、5人で話し合う事となった。


「じゃあまず……賛成の人」


上がった手は2つ。ルージュ、ナミエさん。


「相手は人魔なのでしょう?人類の大敵相手に逃げ出すなんて許されないわ」


「ルージュさんと同じ気持ちもありますし、我々はオウミ領、ひいては騎士団傘下に当たる訳です。養成校の生徒さん達を逃しても、私と先輩は残るべきかと」


「過激だな……反対の人は?」


これも2つ。

カズマさんと、そしてヒヲリ。


「俺達が正規の騎士団員なら無理矢理残らざるを得なかったけど、帰ったほうがいいな、これは。自警団団長もやられてるみたいだし、勝てはしても5人全員生きて帰れるかは怪しい気がするな……」


「じ、人鬼って、怖いので……」


賛成2、反対2。

残った俺はと言うと……どちらとも言えないのが正直なところだ。


「どちらもある意味正しいので、もう少し情報が欲しいです……」


人鬼・人魔は人類の大敵とされ、全てのハンターや騎士は命を賭して戦うべきだ。というのは確かに言われる事だ。

だが、そのためなら死んでも構わないと言うのも極端な意見とされる。

自分より格上の相手に挑んで犬死にする事は、この世界でも馬鹿扱いされる行為だ。


この辺りを現実的に解釈して言われるのが……「勝てる見込みがある戦いなら、身を賭して人鬼を討伐すべき」というもの。

今回は人鬼が出た事しか知らないが、どうだろうか……。


そう言ってカズマさんに問うと、悩んだ末にこう絞り出した。


「そうか……いや、うーん。確かにそうだな……分かった。じゃあこうしよう」


「今からジュウゾウさん達に情報を聞いて、勝てる見込みが十分なら参加する。そうでないなら逃げる。……どっちにしろ俺は非戦闘員だから戦えないよ、いいんだね?」


「ええ!」


ルージュが大きく頷く。


ヒヲリが目を伏せるのを察して、そっと手を握り締めて目を合わせる。


「う、うん……ありがとう……」


「俺も、とりあえずそれでお願いしたいです」


俺達班員は人鬼の情報、カズマさんナミエさんは防衛体制の情報を集めるという事で、1時間後に集合となった。








村を3人で並んで見て回る。

そこそこの大きさの街の様で、木の柵で所々を囲んでいる。

……人鬼が暴れたであろう跡か、民家が幾つか焦げつき、柵も外側に向かってひしゃげている。


「こ、ここで……人が……死んでる、4……5人?」


ヒヲリがぼそぼそと情報を言う。

ジュウゾウさんには既に人鬼についての内容を聞いている。


「あの時、イブキの妻がモンスターの攻撃で怪我をしてしまい……それで精神的に弱っていた所に、ガスを受けて禁忌を……」


「人鬼となったイブキは雷を放ち、★3ランクのハンターでもあったリーダーを奇襲し殺害。その後もう1人同格の方がいたのですが、その方がかろうじて撃退しました……今は片腕をもがれて、意識不明の重体です」


★3ランクのハンターを奇襲で撃退。

もう1人★3ランク相応の相手とは痛み分け程度の実力。

雷を放つ。


「相性が悪くなければ、行けるか……?」


分からない。1対3で相手ができれば勝てそうではある。人鬼・人魔の強さは元になった人間による。イブキという人が非戦闘員だったのなら、恐らく★3相応の実力。


「と、取り巻きとか。なにか、いないかな」


ボソリと呟くのはヒヲリ。

ルージュが言い聞かせる様に言う。


「そこまで多くはないはず……だわ。百鬼夜行を一度前日に壊滅させているから、今配下を集めていても数は揃わないはず。……餓鬼くらいはいるかもしれないか」


餓鬼は何処にでも湧くと有名だからな……。


「ヒヲリ、まだ行ける?」


ルージュの言葉に、ヒヲリは頷いてしゃがみ込み、焼けた家の跡を見る。


「も、もう少し……潜ってみる……」


ネクロマンサーに加え、シャーマンを死霊特化で保持しているからこそのヒヲリの隠し札。死者の声を読み取る、霊媒師じみた真似ができるらしい。


「あ……人鬼。見た目は人に鬼の角が生えてるみたい……雷は2本の角から出してる……?★3にしてはかなりの出力、かも……破壊力だけなら、★4相当……?」


「得物とか、物理は何か特徴ある?」


「ちょっと待って……多分ない?パワーは凄い、得物はない……ごめん、なさい……休憩させて」


直接戦闘を見て、追体験したヒヲリの顔は青い。彼女を支えて座らせる。


「ありがとう、ちょっと休んでて」


「う、うん」


ここまで消耗する様な技を打ち明けてくれたのだ。ヒヲリには感謝しかない。


「ルージュ。どう思う?」


「倒せると思うわ。私なら」


「ルージュ……」


確かに俺も行けるかな?と思えてきた。が、彼女の受け答えは……なんと言うか、倒せるかどうかではない。倒すべきだという答えが、頭の中にすでにある様な気がする。


「あの、ね……ルージュ」


俺が何も言えずにいると、ヒヲリが上目遣いでルージュを見る。


「死んでもいいの?」


「ッ……私は」


言外に、お前では死ぬと言われたルージュは怒りに顔を赤く染め、そして冷や水を浴びせるかの様に、ヒヲリは平坦な声で言う。


「私はルージュに死んで欲しくないから……3人で倒そう」


「…………」


「ルージュ。俺達はパーティーだ。そうだろ?ルージュが、俺達の事を信じてくれるなら……俺はこの戦い、勝ちに行きたい」


「2人とも……」


ルージュはどこか悲しそうな瞳で俺たちを見ると。頭を下げ、言った。


「お願い。私と一緒に人鬼を倒して。私はアレに勝たなければいけないの。最低位の人鬼すら討てなければ、私は……誇りを持って生きていけない」


「勝てる見込みのある相手、なんだろ?ヒヲリの霊視を信じるし、ルージュの実力も信じるよ」


「駄目そうなら引きずってみんなで逃げるからね……」


ヒヲリ……。

いや、俺も村の自警団が壊滅してたら流石に逃げる事を提案するか。

そこら辺はカズマさん達に聞いてみよう。


「ありがとう。……今度、全て話すわ」


「うん」


「わかった」


何か事情があるのは、会った時の張り詰めた雰囲気からなんとなく察していた。

それを解決する糸口が人鬼討伐なら、尚更俺もやる気になると言うものだ。


「3人で人鬼を……討つ!」

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