44話
「ファイヤーボール!ファイヤーボール!」
まずは群れに接敵する前に、ファイヤーボールを連射。
回避術を存分に活かして、ルージュは時間稼ぎに徹しているが攻撃に転じられていない。少しでも注意を稼ぎ、そして頭数を減らす!
一つ目小僧や砂かけ婆、髪鬼には当たらない。適当に狙ったもので当たるわけがないが、今まで1人だった敵が2人になったのだ。餓鬼に至っては適当に放った火魔法に当たり、何匹かやられている。
「まずは……」
主な脅威は★3、髪鬼。
名前しか聞いた事がないが、ヒヲリ曰く物理耐性有。火に弱い。
髪の毛のようなものをルージュに伸ばして戦っているようだが、本体はおそらく人型になっている髪の毛の塊。アレだ。
こいつが一番の脅威だが、ルージュとシフトする余裕が……!
「微妙、だな!」
こちらにロックオンしてきた一つ目小僧と砂かけ婆の攻撃を躱し、引き気味に火魔法を撃っていく。髪鬼の分を残す事も考えなければいけない。
「っと、4匹目」
砂かけ婆の砂は当たるだけで視界が塞がる。かすったり、防具で対策してもぼやけたりする可能性もあり、だからこそ集団戦である今は厄介だ。
とりあえずまずは餓鬼だけでも殲滅して……!
そう思っている間に、背後からモンスター達に向かって何本かの矢が射かけられる。
★2の2体を狙ったそれは、当たりこそしなかったものの一気に2体の勢いを削いだ。
後ろをちらと振り返れば、簡素な鎧を着た2体の髑髏が弓を放っている。
「ヒヲリ、サンキュー!」
聞こえているか分からないが、礼を言って髪鬼にファイヤーアローを撃つ。
気付かれたものの、ルージュとの戦闘中。そして何より、髪のような肉体を無尽蔵に伸ばしていた事が仇となり、火が髪に燃え移る。
「弱点とはいえ、流石に一撃は無理だよな……」
怯んだ隙にルージュに声をかける。
「ルージュ!こいつは物理耐性持ち、火が弱点だ。相性的に俺がやるよ」
「……分かった。残りは私が」
一瞬悔しそうな顔をするも、頷いて他のモンスターに向かう。
2人で髪鬼を倒すより、他を先に始末してもらった方が護衛対象の安全が確保できるはずだ。
他がやられるまで足止めしてもいいが……。
「折角の相性のいい相手だ、やらせてもらうぞ……!」
お返しとばかりに、拳のように固められた髪の毛が3つ飛んでくる。
1つにファイヤーボールを当て、1つを躱し、最後を刀で防ぐ。
「!? これは……」
防いだ刀に巻き付くように髪の毛が絡みつく。
急いでファイヤーボールを撃ち込み、その隙に髪を断ち切る。
「なるほどな、回避した方がいいか」
ルージュは回避術を持っていたからこそ得物で攻撃を防がなかったのだろうが、もし防御主体の前衛がこいつを相手にしたら相当苦労するだろう。
だが……これは利用できる!
「ファイヤーボール!」
ボールを牽制に撃ち込む。向こうが引き気味に攻撃してきた所を刀で防御して、わざと絡め取られる。
得物である刀を手放せない俺は拘束されたようなものだが……。
「そこ!ファイヤーアロー!」
俺を拘束できるチャンス。そう思って髪の毛を増やして締め付けようとする髪鬼も、咄嗟に避けられるような耐性からはかけ離れている。
俺の意図に気付き、髪の毛を戻そうとする髪鬼。しかし間に合わず、ファイヤーアローが直撃。
痛みに悶えているうちに2発目、3発目を撃ち込む。
「これは相性勝ちだな、流石に……」
猿鬼の方がよほど強かったが、これを俺の実力と慢心するのは流石に無理だ。
とはいえ勝ちは勝ち。
魔石と素材を確認しようとする頃には、他のモンスター達も全滅していた。
そこそこ魔力消費がキツイな……桜を出した方が良かったか?
肩で息をしている所にルージュが声をかけてくる。
「そこそこ骨のある戦いだったわね。……東大陸の道って、こんなに群れでモンスターが出るものなの?」
2人で素材を回収した後、馬車に戻ってカズマさんとナミエさん、ヒヲリに声をかける。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、ありがとう。こんな群れも撃退してくれるなんて、本当に優秀なのね」
「だけどこの群れ……あまりにもおかしい。ひょっとすると……」
「あ、あの……気付いた?敵が……結構、傷、あって……」
カズマさんとヒヲリの懸念。
ルージュはあまり東大陸に詳しくなさそうだったが、今の群れは本来出てくるような数と質ではない。狩場の浅層でも不幸な事故が起き得るレベルだ。
ツェルニ先生は難しめの依頼と言ったが、俺達だけでなくカズマさんとナミエさんの命もかかっているのだ。これは流石に予想外の筈……。
そして傷。群れ同士で争った訳ではないのなら、他のモンスターか、あるいは……。
「カズマさん、次行く村って、ここからあと1時間くらいですよね」
「そうだね……素材と魔石は回収できたかい?先へ急ごう。嫌な予感がする……」
「ああ……酷いな」
馬車で村に辿り着く。
予想通り、村は酷い有様になっていた。
まず目につくのは、門や防護柵。
1方向だけだが、全く使い物にならなくなっている。酷い破壊痕だ。
「モンスターの襲撃、ですね」
「そうだね……この規模はおそらく百鬼夜行」
「スタンピード……」
百鬼夜行。西洋ではスタンピード。
この世界において、村や町が壊滅する1番の原因とも言われている。
普段は群れないモンスターまでもが徒党を組んで村や町を襲撃する。おおよそその規模は町の規模に比例して、撃退できるかできないかの瀬戸際になりがちだとも聞く。
「これは勝った……んですよね?」
村人は浮かない顔をしているものの、壊滅とは程遠い状態だ。
とりあえずという事で、カズマさんが代表として村人に話を聞くことになった。
「そこの方、私はオウミ領、自警団補正予算委員会の者だが」
「自警団!?他の村ですか!?お、お願いします!こちらへ」
「あ、ああ……じゃあとりあえずみんなで行こう」
困惑しながらもカズマさんを先頭に、大きめの家に案内される。村長の家か公民館か……。
中に入ると、そこにいたのは村人達……奥にいる壮年の男性と、若い男性がまとめ役だろう。
案内した村人に「他の自警団の方で……」と言われると、僅かに顔が綻ぶ。
「いえその、私は自警団補正予算委員会の……」
「ああ、なるほど、お役人の方でしたか。この時期はそうですものな……私はここの村長です、こちらが自警団の副隊長、ジュウゾウです」
2人して頭を下げる。
それにカズマさんが答える。
「先ほど言った通り、我々の仕事は自警団の予算調整と足りないものの支給なのですが……どうやらあまり芳しくない状況の様ですね。詳しくお伺いしたいです」
「はい、実は……」
村長の言うには。
昨日の昼、百鬼夜行の兆候があったため自警団を主軸に防衛体制を取った。
あまり近くはないが、いくつか付近にある村に昼中に使者を出し、万が一の時の援軍を要請。
援護を得た事もあり、百鬼夜行の頭を討ち取り、見事に撃退……。
「ん?ならどうしてここまで村がボロボロになっているのだ」
「村人の1人……が」
村長は苦悩するかの様に言い淀み、そしてポツリと、禁忌の言葉を呟く。
「人鬼になりました……そのまま暴れ出し、この様な事に」
人鬼。
百鬼夜行より尚恐れを持って語られる怪物が、俺達の前に立ち塞がる瞬間だった。




