42話
護衛当日となった。
あれからヒヲリとは前よりスムーズに話せる様になったし、ルージュも難度の高い任務という事で最低限連携訓練には付き合ってくれた。
情報収集もこなしたし、持ち物も用意してある。
「ハチマン北門が集合場所だったよね」
「ええ。30分前には着くわね」
「緊張する……」
「何かあったら私に言いなさい」
「あ、はい……」
班としてやってきて1ヶ月半。ルージュの性格もやや分かってきた。
自他共に厳しく、弱い者に優しい。良く言えばリーダーシップのある子、悪く言えば自分基準で動く子だろうか。
注意されてヒヲリが半泣きになったりしているうちに態度が軟化したが、おそらくヒヲリの事を同格の相手ではなく、格下だから守るべき相手、とみなしている様に見える……。俺の考えすぎだろうか。
僅かに心配だが、それでも前よりはよほどまともに連携できる筈。1人気を引き締めているうちに北門に着いた。
事前情報通り、馬車の前で待っている男女に話しかける。
「おはようございます。ハンターギルドから派遣されました、養成校1年のルージュ メルファリオです。こちらはココノエ ハルキとイデ ヒヲリ。パーティーメンバーになります」
ルージュの言葉に2人で軽く会釈をする。役人さん達は微笑ましそうにこちらを見て、自己紹介を返してくれる。
「俺はカズマ。こっちはナミエ。今日から数日よろしく頼むよ」
「養成校の中でも優秀な子達と聞いているわ。期待してるわね」
2人とルートの確認を改めてした後、それぞれのスキルを確認し合う。
ナンバ領行きの弾丸馬車ではなかったが、普通の護衛依頼はあって当然のものらしい。
「俺と彼女……ヒヲリが召喚系なので、いきなりモンスターが増えても驚かないでください。お二人は戦闘は?」
「俺は馬術3経理2。彼女は剣術3馬術1だよ」
「馬の練習を続けてやっと最近1が出たの……」
つまりローテーションで馬車を動かしつつ進むわけだ。ナミエさんの剣術3はありがたい。
細かい確認を終えた所で馬車に乗り込む。
馬車の前に護衛1人と御者1人。後ろの荷台に残りだ。
「じゃあ、まずは俺が」
「よろしく」
カズマさんと一緒に乗り込む。
馬車が出発し、まずは第一の村に進んで行く。
馬術3というだけあって、彼の手綱捌きは安定している。
ハチマン近郊はほぼ安全だからか、カズマさんが積極的に話しかけてくれる。
「緊張とかしてないかい?聞きたい事とかあったら俺に聞いてくれてもいいよ」
「いいんですか?護衛中ですけど……」
「大丈夫。ずっと気を張ってたらむしろ疲れるよ?」
それもそうか……初めての護衛という事で、緊張していたのかもしれない。
カズマさんに感謝しつつ、折角だから色々聞いてみる。
「この護衛依頼って、やっぱり毎年養成校と提携してやってるんですか?」
「そうだよ。養成校の先生方と、うち以外にもいくつかの機関、あと地元との商会さんも受けたりしてくれてるんだよ」
俺達養成校の生徒は実戦をメインに経験を積んできた……とは言え、じゃあ護衛もやれるねとなるとそうは行かない。
オウミの養成校は当然オウミ領の傘下と言える。今回報酬が少ないとツェルニ先生が言っていた様に、半分演習に付き合ってくれる様な感覚らしい。
「まあ、とは言え気楽にされすぎても困るけどね。6年くらい前かな……?死人も出た年とかあるし」
「あ、やっぱりあるんですね」
「9割9分問題ないルートを毎年練ってるんだけどね……こればかりは先生や俺の上司とかでも予測しきれないから」
6年くらい前にユニークに襲われ護衛の生徒が2人死亡。
10年ほど前に生徒が1人逃走。役所の人間が1人死亡。
……中々犠牲が出ているものだ。
「俺達は今回の中では危険な方のルートを通るから、厳しかったら言う事。君達の評価は多少下がるけど、できないものをできないと言えるのは大事だよ」
「はい、ありがとうございます」
学園と合同で行っているという事は当然、ある程度の評価は護衛対象である2人の手によってされる。
なら俺も先に手持ちの札を切っておくか。
「カズマさん、テイムモンスターを出します。時間制限もないので」
「了解。馬車は止めなくて良いかい?」
「はい。……桜、おいで」
膝元に桜を召喚して座らせる。
結構なスピードなので、並走……並飛?してもらうにはやや厳しい。
「わ!マスター!馬車馬車!あたし初めての馬車!」
「可愛らしいモンスターだな……見た事ない」
「★2、ハイフェアリーの桜です。挨拶して」
「私は桜!」
元気良く挨拶して、周りを興味深げに見る桜にカズマさんも挨拶を返す。
桜を召喚した事で、図らずも一気に話が膨らんだ。というか桜が質問をしまくりカズマさんや俺が答えるという感じで、数時間ほど経った頃。
「カズマさん、止まってください」
「……オッケー」
道の先に何かがいる事に気付き、馬車を止める。
そもそも街道にはあまりモンスターが現れない。現れても餓鬼単体だったり、数匹だったり。その程度なら馬車を止めずに俺の火魔法で焼き払えるし、ルージュやヒヲリでも1人で対処できるだろう。
しかし……これは別だ。
「★2が3匹、★1が7匹……争ってますね。こっちに気付いたな」
正確には、餓鬼7匹を★2、人面犬3匹が狩っている所か。
人間の使う道とはいえ、3〜4時間も走っていればこんなこともある。
桜を護衛兼砲台として残し、俺は戦闘中の所に突撃する。
少し遅れてルージュが後ろから追撃の態勢に入る。……ヒヲリは護衛に残したか。
接敵前に桜のスリープが1体に当たる。眠気でよろめく個体にマジックアローを連射するよう指示を出して、人面犬を袈裟懸けに切り付ける。
「ギャァ!」
「うげ、人っぽい悲鳴がキショい……」
気持ち悪さは感じるものの、ファイヤーアローを2連射。どちらもかわされるが、それをかわすのに精一杯である相手に対して、俺はもう一度刀を振るう。
前足を2本まとめて切り飛ばした所でまともに動けなくなった人面犬にトドメを刺す。
「こんな所か……」
「私1人でも充分だったわ」
桜もルージュも、1匹ずつ始末していてくれたみたいだ。餓鬼も同じく殲滅。
ヒヲリが骨らしきモンスターを戻すのを見て、前より連携ができている事に満足感を覚えた。
「着いたよ、ここが1箇所目の村」
ちょうどお昼頃。オウミから東に進んだ村に俺達は到着した。
ちなみに村の名前は特にない。俺の故郷の村も「真ん中村」とか地元で言われてただけだし……。東西に村があって挟まれてたからだ。
これには理由がある。
この世界、結構な頻度で村というものは壊滅しやすいのだ。
何もモンスターに蹂躙されて、というだけでなく。畑が襲撃で駄目になり、食糧を維持できなくなったとか。モンスターに襲われて撃退したけど戦える人員が消えたとか。
安定して町レベルの都市に発展する事で、初めて名前が付くらしい。
「役所としては村に数字を振ってるけど、97番村とか言われても嫌でしょ?」
「それはまあ……そうですね」
「それにお役所が記さないってだけで、大体の村は何かしら現地の人の呼び名がある。ここは竹村。近くに竹林があるから」
カズマさんとナミエさんは今回の村……竹村の自警団員達と話し合いに行ってくるらしい。
ここで俺達は3時間の休憩。護衛の2人の休憩・昼食時間も兼ねている。
「私は狩りに行ってくるわ」
「早めに戻ってきてね」
「ええ」
ルージュは狩りに……と言ってもすぐ近くに狩場もない。野生動物か餓鬼あたりが成果になるだろう。
こちらをチラチラと見るヒヲリと雑談でもしていよう。
「ヒヲリはどこか……村とか見なくて良いの?見たい所あったら、俺も付き合うけど」
「ううん、大丈夫。し、しばらくゆっくりしてたいかな……」
「じゃあ俺もそうしてようかな」
そう言うと僅かに嬉しそうな表情に変わる。前世のハムスターとかウサギを思い出すな……最初の警戒心がすごい生き物。
2人でぼうっとしていると、ヒヲリがふと漏らす。
「ハチマンに来てから……買い物とか、なんでもあるから……」
「あー、確かに……」
前世で言うなら県庁所在地的な?
生活水準は魔法やモンスター素材のお陰で現代並みだから、娯楽も結構大きい町だと豊富なんだよな。
意外な所だと映画なんかもあったりする。
「……ヒヲリのその服もハチマンで買ったやつ?」
「え、えっと、これはお母さんが作ってくれたの……」
やや照れた様に説明してくれるヒヲリ。
「ほんとはね、もうちょっと地味なのが良いんだけど、ネクロマンサーに有利で……」
「え?補正がかかるとか?」
「な、なんかね。雰囲気とかも大事で、お墓とか暗い所だとやりやすいとかあるの。服も……そういう服にして、雰囲気を出してあげてるんだ」
「へぇ……そういう効果もあるんだ」
「へ、変な服でごめんね。私だけ悪目立ちしちゃって」
少し悲しそうに詫びられたが、全然そんな事はないと思う。
大体可愛いし。こういう服って着こなすの大変そうだが、様になっているし。
と、言う事を伝えたら、しばらくフリーズしてしまった……。でも嬉しそうだから良いか。
この世界に来てから、気持ちのいい性格の人間ばかりに出会えている。世界自体は修羅道みたいな所だが、色々な出会いには感謝したいものだ。




