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38話

午前座学、午後は座学か実習。

そんなサイクルを繰り返して、ようやくの休日になった。


ツェルニ先生はゆっくり休む様に……と言っていたが、寝て1日過ごす様な真似はできない。俺には課題が山積みなのだ。


やっておきたいものは3つ。


フェアリーである桜の進化。

ルージュ、ヒヲリとの関係改善。

そして父さんから頼まれた用事だ。


最後のはまだ全然余裕がある、というかいつでもいい筈だ。

今のうちに俺の生死に直結する2つを済ませておこう。


というわけで桜を呼び出しておく。


「マスターマスター!どうしたの?」


ふわふわと肩に乗り、ジャンプする桜。赤ちゃんくらいの大きさはあるため、地味に重い……。


「あー!今あたしの事重いって思ったでしょ!レディーはそういうの分かるんだからね!」


肩を思いっきり踏みつけてくるのはやめてくれ……。


「ごめんごめん、桜が可愛いからついからかいたくなるんだ」


「え!?そうなの……?やっぱりマスターはあたしにメロメロなのねえ」


いやん♪と古典的な照れ方をしている桜を落ち着かせて、本題に入る。


「今日は桜を戦闘に参加させるために、ハイフェアリーに進化させようと思う」


「お……おおおっ!ついにあたしはレディの道を歩み始めるのね……!マスター!早く早く!」


「ちょっと待ってね、まず素材を……」


集めた素材を出す。

★1の魔石や素材。そして★2、木の葉天狗の魔石を出す。


「このあたりに立っててくれる?」


「はーい、どうなるのかしら、新しい私は……」


サモナーのスキルで進化と念じる。

3種類の進化先から、ハイフェアリーを選ぶ。

頭の中に浮かぶ赤青緑の球体から緑を選び、掴み取るイメージ。


それと同時に、一瞬桜が煌めき……。


その姿はフェアリーから、より格を増したハイフェアリーとなっていた。


「これが私!ちょっと大人っぽくなった?」


髪は腰まで伸びたものを編み込んだような髪型に。

服は背中が大きく開き、代わりにヒラヒラとした装飾が各所に為されている。トレンカの様な脚部の意匠は変わらない。


「うんうん、大人っぽくなった。綺麗だよ」


相変わらず赤ちゃんくらいのサイズだが、見た目の印象としてはオシャレに目覚めた年頃……という感じだろうか。可愛さと綺麗さが同居していてとても目に優しい。


「やっぱり!後はね、胸もちょっとでっかくなったかも!」


「レディ失格」


「んんんんんー!!!!」


空中で地団駄を踏みながら飛び回る桜を適度にからかい、膝に乗せて髪をいじりながら色々聞いてみる。


「飛行スピードも上がったね、多少はこれで回避もできる?」


「うーん、マスターくらいの速さじゃなければ……あと遠ければ逃げられると思う」


フェアリーが歩くくらいの速さでしか飛べない(それゆえの★1判定だ)のに比べ、ハイフェアリーは餓鬼や小鬼程度は軽く引き離せるくらいのスピードを出せる。その上飛べるのだ。


「じゃあ魔法は?」


「前から使えたスリープと、あとマジックアローが使えそう!」


フェアリーは1〜2種類、ハイフェアリーは2〜3種類の魔法をそれぞれ覚えているとされる。

桜は数が少ないが、スリープもマジックアローも別用途で使えるため全然気にならない。


「マジックアロー、ちょっと撃ってみてもらってもいい?」


「うん!どこに?」


適当に★2魔物の素材を出してやってみる。

頑丈な河童の甲羅で試してみよう。


「マジックアロー!」


彼女の言葉と共に、光る矢のようなものが突き刺さる。

そのまま何回か撃ってもらうと、2発でヒビが入った。


「すごいな……」


「でしょ?もうマスターの役に立ちまくるんだから!」


胸を張る桜を見てこちらも笑う。

マジックアローは無属性魔法。格としては俺のファイヤーアローと同格。


しかし威力は明らかに桜の方が上。

ここはバランス型の俺と、魔力に特化したハイフェアリーである桜の違いだろう。


「次の進化先は………多いな!?」


「いくつ?いくついくつ?」


「6」


「うわ!すごい……」


これは流石に……図書館で調べたり、ツェルニ先生に聞いたりするしかないな。

要求される素材は分かっても、次がどうなるかまでは詳しく分からないようになっているから……気を付けよう。


「スーパーウルトラハイパー桜に早くなりたーい、マスター、早く私をもっと大人にするのよ!」


その言い方はまずいって。





「今日は〜ハンターランクについてです〜。東西大陸共通の特別な仕組みなので〜、しっかり確認しましょうね〜」


翌日はツェルニ先生の担当。1学期はほぼ俺たち低学年に付きっきりだったから、週数回しか彼女の授業がないのには違和感を覚えてしまう。


「皆さんは〜、ハンターランクが1です。学校のカリキュラムに沿ってそうなっている訳ですが〜……一般のハンターさんを例に挙げてみますね〜」


強さに関しては常々聞いているが、確かにハンターランクについてはあまり知らない。俺達が学校のカリキュラムに合わせて、最終的に★3〜4くらいになって卒業する事は知っているが……。


「皆さんは〜、ここに入った時点で★1になりますが、まずハンターになろうと思った人は★0から始まります〜」


んん?★0?いや、確かに村の寺子屋で聞いたような気もする……。


「餓鬼を1人で狩れるからと言ってハンターになられても〜どうせすぐ辞めそうな人達まで管理してたら大変ですよね〜?」


この世界では、特にモンスターを狩る事に許可はいらない。そういう意味では、ハンターギルドに登録する人材は自ずと「ハンターとして成り上がりたい」人間に限られる。


父さんが今いる自警団とかもハンターとは関係ないし、騎士団は強さの目安、あるいは副業として殆どがギルドカードを持っているが、それでも意外と「モンスターを狩る人間」に比べてハンターの数は少ない。


なんとなくの印象を抱いていたが、実際本当に少なかったのか。


「★0の子達は、大体1〜6ヶ月ほどギルドの簡単な依頼を受けます〜。餓鬼や小鬼の討伐。狩場浅層の薬草採取ですとか〜。その辺りを安定してやれるとギルドが判断すれば★1に上がります〜」


大体ここで1〜2割が専業ハンターとしての道を諦めるらしい。

非戦闘スキルは戦闘スキルに比べて数が少ない。スキルを持たずとも、その門戸は広いのだ。


「では皆さんと同じ★1になるのですが……大体パーティーで行動してますね〜、★1入りたての子達4人パーティーだと……」


少し考えた後、のんびりと黒板に「餓鬼10匹」と書き込む。


「これくらいですかねえ。★1なりたての討伐できる最低ラインは」


それは……今までの俺の狩りを思い出す。それくらいの数に相対できるようになったのは、ちょうど……。


「皆さんが★1のギルドカードを受け取った時にできるような事を、彼らは最大半年ほどかけて学ぶのですね〜」


うん、特に俺達子供はスキルの数が物を言うんだろうな。

スキルを取るために0から努力する者もいるにはいるが、それには年単位で修練が必要だ。子供によっぽどスパルタな教育でもさせない限り、厳しいだろう。


……倒せるなら、3〜4人でパーティーを組んで餓鬼を狩りながら練習した方がまだ有意義か?


「★1が4人のパーティーで、★2を倒せるようになる所も出てきます〜、そこが★2に……なんて、そんなわけないですよね〜」


まあ確かに……俺達は1人1人が★2と1対1でやりあえる強さを持っている筈だ。

★2を倒して★2ランクになれるのならば、とっくに俺達がなっていてもおかしくない。


「はい、ここから大事な所ですよ〜、ちゃんと覚えてくださいね」


ツェルニ先生が黒板にいくつか書いていく。


「これからランクアップを行うに当たってですが〜、基本的に判断材料は個人の実力になります〜」


最低限★2に上がるために必要なのが、★2を単体で討伐できる事。


「もちろん特別なスキルを持っていれば戦闘能力がなくても上がれますが〜、皆さんはそうでないためここでは割愛しますね〜」


言った通り、戦闘力は最低基準。

必要なのはある程度の人格、そしてある程度の汎用性。


「ただモンスターを狩れるだけの人をハンターとは言いません。護衛、採取、間引き、調査、教練……色々できる人が尊敬されるんですね〜」


少なくとも★2に於いては、ある程度そういった多種多様な依頼の知識や経験があるといい……とされる。

戦闘能力だけで★2に上がるには、★2のモンスター複数体をソロであまり苦労せず狩れるくらいが必要だと先生は説く。


「最終的に★が上がっていくほど何かに特化したハンターになる傾向はありますが、★4くらいまでは2〜3種類の業務はできないと困るというわけですね〜」


「皆さんにやってもらう依頼もそういうわけです〜、来週は間引きの班が半分、採取の班が半分ですね〜」


俺達は確か採取だったか?

ルージュが面白くなさそうな顔をしていたのを覚えている。


「言った通り★2に上がるにはそれだけの実績と実力がいるので〜、★1で終わるハンターが……3割くらいでしょうか〜?」


思ったより多いと取るか、少ないと取るか……微妙な所だな。


「★5……6まで行けば、この街ではトップクラスでしょうか〜?パーティー単位なら深層に行けるかもですね〜」


笑顔を崩さない先生に、生徒の1人……というかゴウが、緊張した面持ちで質問する。


「先生は……ランクいくつなんですか?」


ゴウ、やるな。

ツェルニ先生の強さは、よく分かっていない。格上なのは間違いなくわかるんだが、なんとも……あのぽわぽわした感じが余計聞きにくさを上げていた。


クラスメイト達の興味深そうな質問に、ツェルニ先生はそんな事ですか〜?と呟く。


「先生は★8ですよ〜。昔の所属パーティーは★9でしたが〜、パーティーランクは一番ランクの高い人が基準になるので〜」


……絶対強くなってもツェルニ先生の前で強さ自慢とかしないでおこう。

楽しそうに"宿題"を出されそうだ。

ツェルニ女史の強さはオウミ領においては頂点といっていいレベルですが、世界全体で見れば上の下程度になります。

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