30話
「うん、お腹もだいぶ平気になって来た。大丈夫!」
「ほんまに?」
「ほんまだよ」
「……ほれ」
「いだだちょっと!?指で突かないでよ!?」
ナズナとじゃれあいをしつつもう一度中層に向かって行く。
帰るかチャレンジするか悩んだが、ナズナもいる事だしと欲に負けて中層に向かう事にした。ただし、先程より更に浅層に近く。下手な相手の場合、逃走を優先して、だ。
これくらいの怪我ならハンター基準ではまだ戦闘や探索が行えるレベルだと思うんだが、ナズナも俺も★3を相手にするからこそ慎重に行こうという話になった。
「ほんまに安全優先やったら帰ってもいいけどな……」
「そうだけど、軽く狙うくらいで、無理そうなら帰るよ」
「当たり前や」
送り犬2匹を素早く倒す。送り犬は素材に変わっていくが、普段ならば絶対に落ちない肉がドロップする。
ここまで来る途中に「なんかして欲しい事ウチにある?なんでもしたるで!命の恩人か怪我分の恩人さかい」と言われたため、食材ドロップの効果を使って★2の敵を倒してもらっているのだ。クロさんに賄賂として渡そうと思う。
ちなみに本当になんでも?と詰め寄ってみたら変な反応をされた。ちゃんと謝りました。ごめんねからかって。
「どう?」
「うん、来るんやないかななんか……先から音がする」
★1や★2の相手をしつつ、なるべく音を立てながら戦闘をしていた。
★3を誘引するためで、俺達の狙い通り、
「「来た!」」
目の前の木から何かが飛び出して、こちらにのしかかろうとする。
奇襲を察知していたため当たる事はないが、地面に転がり落ちて来たそいつの姿をしっかりと見る。
角の生えたデカい猿!分かりやすい。
しかし特徴はその手に持った棍棒。キョンシーほどではないが、こいつもある程度の武術を使えるという。
猿鬼。★3の中でも登竜門として扱われる事が多く。
同時に実力差を把握していないパーティーがこいつに壊滅させられる事もよくある事例なんだとか。
慎重に行く!
即座にナズナさんが前に出る。こちらは牽制にファイヤーボールを放っていく。
避けるまでもない攻撃。そう判断して棍棒でファイヤーボールを打ち払ってくれているが、そこはチャンス。
「おら!目回せや!」
盾で殴られた事で軽くふらつく猿鬼。
複数体で群れることもある猿鬼だが、その分単体ではやや弱め。モンスターとしてもバランスタイプといった感じで、俺達の得意分野を押し付けてしまえば倒せる……!
「ファイヤーアロー!」
ボールからアローに切り替える。ここがチャンスだ。俺1人ならばアローと一緒に俺も猿鬼に向かい、刀でトドメを刺しに行く。火魔法とはいえ★3モンスターの息の根を止めるまで魔法を撃っていては疲れるからだ。
しかしここにはもう1人。
鬼熊にすら致命傷を与え得るアタッカーがいる。
「ナズナ!」
声に応えて彼女が猿鬼に密接。
パン!と弾けるような音を立てて、猿鬼の上半身が吹っ飛んだ。
「1回で済んで助かったね……」
「せやなあ。鬼熊はノーカンなん?」
2人でゆっくりとオオサカの街を戻って行く。周りもだいぶ人だらけになって来たな……祭りが近い。
「楽しみだなあ!お祭り!3日間もあるもんな」
「ウチは初日パトロール、2日目闘技大会やで3日目に迎えに行くな、金の招き猫亭に」
「いいの?っていうか闘技大会出るんだ……じゃあ応援しに行くね」
1年という事もあり、多分優勝は1個上の養成校か騎士団見習いの先輩になると思う。
が、逆転できる可能性は充分にあると思うし友達なんだ。出るなら応援くらいするのに。
「水臭いな、行くに決まってるじゃんそんなの」
「な、なんか恥ずかしいし悪いやん……せっかくのお祭りやのに、外から来とるんに色々回りたいやろ?」
「興味はあるよ!地元のオウミ領ではなかったから。それにナズナのカッコいいとこ見たーい」
冗談気味に囃し立てると、彼女も気持ちのいい笑みを見せる。
「言うたな?後で惚れても知らんからな?」
「楽しみにしてる」
お互い拳をこちんと鳴らし合い、またねと別れる。
うーん。祭りが終わって、ちょっとしたらハチマンに戻らないとな。段々と惜しくなって来たが、やれる事をやって、楽しむだけ楽しもう!
というわけで。
「集まりました!エンキさん」
翌日もナズナと廃棄街道に行き、2日かけて目標の素材を入手。
こちらは特に怪我もなく済んだ。俺とナズナのスキルと動きを見て、両者とも行けると判断したのだ。獄門街の時とは違う。
…………凛風の事を抜きにしても、今の実力でナズナが付いても獄門街のアレはもう一度やりたいとは思えないけど。
★3の素材を見せると、エンキさんはニヤリと、とても嬉しそうに笑う。
「おいおいやるじゃねえか。★2までは狩れないとお話しにならんと思ってたが、★3は最悪金かあの女のツケかなんかにしてやろうかと思ってた所だ」
「あ、あはは……」
本当にナズナがいたのがデカい。
彼女も彼女で多分、同学年かつ同格の相手だからここまで親切にしてくれたんだろうな、というのは分かるんだけど。
流石にナズナレベルの子が0という事はないだろうが、残りはみんな養成校の方に行ってるのかな。騎士団より養成校の方が人気になりがちだし。
閑話休題。
再びモンスターハウスの中に入り、フェアリーに会う。
暇ですとばかりに籠の中で突っ伏して寝ていたが、俺がこんこん、と籠を叩くとハッと目を覚ましこちらに近寄ってくる。
「お!おお!おおお!サモナー!待ってたよ!どうどうどう?」
「それが……君を迎える事はできなくなった……」
「え!?!?」
なるべく悲壮な顔を作り、拳を握り締める。
「一目惚れだった。愛してたのにっ!俺は勝てなかったんだ……モンスターに……!」
「そうだ。こいつは負けた。お前は……もう、闘技大会行きだ」
突然始めた小芝居に乗ってくれるエンキさん。この人も結構愉快な人だよな。
「そ、そんな〜あたしに惚れたなんてじゃないよ!?闘技大会なんて死ぬ!?死んじゃう!?」
「新しいフェアリーを探しまーす」
「本当に!?あたしバイバイなの!?」
「全部嘘」
「キーーーーーーー!!!!!!!!」
空中で地団駄を踏んで飛び回るフェアリー。ごめんな、なんかボケて欲しそうな気がしたんだ。
このフェアリー、初回も思ったがノリが良く、揶揄いやすい。
でもレディを目指してるんだから、程々に褒めてやらないとな。
「ごめんごめん、可愛かったからついいじっちゃった」
「も、もう!そんなんじゃ誤魔化されないけど!でもあたしはレディを目指してるわけだから?許してあげる!」
「ありがとうね。じゃあ契約しようか」
「うん!私を立派な女の子にしてよね!」
響きがやらしいぞ、この妖精。
確かに人間大ならなあ……じゃなくて。
「契約前に、君に名前を付けたいんだけど、いいかな?」
「うーん……名前って考えた事もなかったけど、あなたがそうしたいなら。ちゃんとした名前にしてね」
「メ・バチス・バ」
「なんか怖い!ヤダー!」
「冗談。君の名前は桜。この東大陸でも一番綺麗な花の名前だよ」
「わかった!サクラ……ありがとう、マスターのお名前を最後に教えて?」
まさに花開くような笑顔で、彼女はこちらに聞いて来た。
「分かった。俺はココノエ ハルキ。これからよろしくな」
「こちらこそ!」
こうしてようやく、俺はのサモナースキルを使える時が来た。桜……彼女の事も大切に育ててやりたいと思う。
エンキさんにも祝福され、俺はオオサカでの最優先目標を達成したのだった。




