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29話

夏祭りまで残り後わずか。

ようやくナズナと2人で★3モンスターを狩る時が来た。


「すまんなあ、待たせてしもたやろ」


「依頼の締め切りはまだ先だから大丈夫」


朝は金の招き猫亭まで迎えに来てくれた。ここの朝美味しいんや!と言って一緒に朝からトーストを食べていた。


「そっちは騎士団の子ニャ?2人にサービスニャ。おにぎり、お昼にどうぞニャ」


「ありがとうございます」


「おおきに!」


気合いの入っている俺達に、クロさんも即席でサービスしてくれた。心遣いがありがたい。

食材系の素材が余ったらこちらもサービスで渡しといた方がいいかな、これは。


今日はちんどん獣道の中層に入る。いつでも浅層に戻れる様にするためだ。念の為に。


奥の方にはオオサカ行きの馬車で見た牛頭鬼や馬頭鬼もいるだろう。流石にどう切り札を切りまくっても今の俺とナズナではキツすぎる。


互いのコンディションを確認がてら浅層の敵を薙ぎ倒していく。もう随分と前に感じるが、ミユキと一緒に獄門街を抜けた時より遥かにペースがいい。

俺自身の成長、そしてナズナが養成校の生徒と比べてなお優秀な事が伺える。


「そういやさ!ナズナ!」


旧鼠を焼き払いながらナズナと雑談をする。気になっていた所がある。


「装備変えたの?足のほら、気になるんだけど……動きにくくない?」


「ああ!これ?」


彼女も小鬼の頭を大盾でぶん殴り撲殺し、トントン、と下駄で地面を叩く。


そう、下駄なのだ。裸足に一本歯の下駄。明らかに戦闘には不向きだが、★3相手と聞いてこの装備なのだ。大抵こういうのには面白いギミックがあったりする。気になるので聞いてみたが、仲間なのだから許されるだろう。


「大型とやり合う時はこっちのがええねん。この下駄な、特別なモンスター製とかやないんやけど、この鬼面盾のゼロ距離砲撃とか、大型モンスターの攻撃の衝撃に耐えれる様に作られとるんよ。ウチが足に力入れて踏ん張れば下駄が地面により食い込むってな」


「へえ……じゃあ普段履いてないのは?」


「機動力が落ちるからや」


あー………そっかあ。





ともあれ中層に来た。

一度来たが、中層に入るとやはり起伏が結構あるように思う。山谷というほどではないが、傾斜があるなあと思ったり、そこそこの穴があったり。


「目標は猿鬼やろ?なら森がある方言ってみよか」


「うん」


先頭はナズナ。大盾を持ち、正面から対峙した時にタンク兼アタッカーとなる。

後ろに俺。刀術・炎魔法どちらもナズナの火力に及ばない分、機動性でカバーできる。


中層になってから★2とは何回かやり合っているが、雰囲気が……お?


「ナズナ、右になんか」


「うん、おるな。プレッシャーからして★3単独やけど、向こうもこっちに気付いとる……!来るで!」


茂みを掻き分けてやって来たのは、ある意味因縁の相手。

鬼熊。鬼の文字を持つが鬼とは関係ない。それほど強いと恐れられているからこそ付けられたあだ名なのだ。


「ゴォオ!」


「させへん!」


振られた腕を妨害する様にナズナが盾で防御する。

衝突音は体を揺らす様だったが、それでもナズナは耐えている。凄絶な笑みすら浮かべて。


「ファイヤーアロー!」


盾を鬱陶しく思ったのか、そのまま押し潰そうとする熊鬼に魔法を放つ。顔面に直撃して、多少怯んだ所でナズナが盾を押し込む。


「おんどりゃあ死ねえ!」


怖い。

叫び声と共に盾が押し込まれ、彼女の盾の真骨頂、盾の鬼面部分。その口から凄まじい破壊力が叩きつけられる。


煙が消えると、腹に大穴が空いた鬼熊が立ち尽くしており……肩で息をするナズナに爪で一撃叩き込まんとしている!


「ヤバい!」


刀を構えたまま、とにかく鬼熊に間に合うようにと走り続ける。周りの景色がスローモーションに見える中、鬼熊の手をなんとか刀でいなし……切れずに腹を切り裂く。


「いっ………」


痛い。ものすごく痛いが体は動く。最早致命傷の鬼熊、その首を切り飛ばす。気合いで動いていたのだろう。普通こんな簡単にスパッと行かないものだが、思いの外簡単に切れてしまった。


「ハルキ!?大丈夫なん、え、えっと」


「大丈夫、いででで、ごめんちょっと待って」


獄門街に行った時に備えとして買った回復薬を取り出す。傷にかければ、ひとまず出血は完璧に止む。30分と経たずに傷は塞がる筈だ。

皮が繋がるだけで、完全に治る訳ではないが……ここまで行けば充分。あとは多少痛む程度で済む。内蔵までやられてたら騎士団借金コースだったかも……。


「回復薬なんて高いモンもっとったん?よかったわあ……ちょっと待ってな」


一旦2人で浅層まで戻り、安全そうな場所を見つけて2人で座る。


「ほれ、頭乗せて」


盾を外し、片手で小筒を持ったまま膝をぽんぽんと叩く。


「え?」


「美少女の膝枕!これなら傷も早う治るって本に書いてあったんや」


自分で言うのか……そっと頭を膝に乗せる。

柔らかいがしっかりとしてるというか、筋肉を感じるという言い方はまるで俺が変態みたいだったので言うのを控えた。代わりにどうでもいい疑問について話してみる。


「どんな本に書いてあったの?」


「先輩にもろた本。ほら、ハルキが前会った」


騎士団ってヤバいのかもしれないな……。黄昏る俺の頭を、くしゃくしゃに撫でながらナズナが話しかけてくる。


「いや流石にウチもそんなに信じとらんけど。か、かっこよかったし?ウチを助けてくれた時のハルキ。だから膝くらいご馳走したらんとあかんなぁと思って」


「確かに美少女の膝枕は嬉しいけど」


「び、美少女って褒めすぎやわ!」


頭叩かないで……最初に美少女って言ったのナズナじゃん。


「ウチはほら、騎士団の同学年では成績トップやし、んで武器が武器やろ?毎回誰かを守る側やったから、命を賭けて守られるのってこんな気持ちなんやなあ……」


ちょっと照れつつも嬉しそうにしてくらる。逆に俺はナズナの高火力がないとあそこまで★3に速攻はかけられないからな……適材適所ってやつ。


そう言うと、ナズナは真剣な顔でこっちを見てくる。


「なあハルキ、うちの騎士団に来へん?今なら可愛い美少女のおまけ付きやで」


「流石にそれはなあ……まだ学んでないこともいっぱいあるし、ナズナの事は好きだけど」


「すっ好き!?えへへ照れるなあ、でもまあせやろな。言ってみただけや!でも、ハルキとはまた一緒に狩りに行ったり、遊んだりしたいなあ……せや!夏祭り、ウチと回らへんか?パトロールがあるから全日は無理やけど」


「喜んで!」


照れている彼女を見ながら、オオサカ旅行の一番の財産は彼女との絆かもしれないな……と思った。

こんなお人好しで可愛くて強い同世代、早々いないからね。

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