26話
翌日。今日も今日とて金策だが、今日からはしばらく騎士団に通う。
騎士団というか騎士学校か。
街の中でも外側に当たるところに、騎士学校が建っている。
ここら辺はギルドに近いハンター養成校とは違う。
騎士とハンターに違いはあまりない。が、よく言われるのが騎士は集団戦に強く、ハンターは個々人が強い、という話だ。
騎士見習いとして騎士学校に入ったものは、卒業後すぐに騎士となる。引退まで怪我やトラブル、引き抜きなどがなければずっと同じ領地を守り続ける事になるのだ。
スクロールなどの特別品ではない限り、戦利品はなし。代わりに給料はかなりになるし、武器防具道具も支給。
2〜4人行動だけでなく、有事の際の百人規模での戦闘すら行えるのだ。
とりあえず、騎士学校の入り口まで来て、守衛の人に声をかける。
「すみません、ココノエ ハルキと言うのですが、イエト ナズナさんの知り合いで……手伝いに来たと伝えて欲しいです」
朝から来た甲斐があったのか、5分もしないうちにナズナさんがやってきてくれた。まだ街だからか、小筒は付けているが大盾は持ってきていない。
「おはよ!ありがとなあ来てくれて。手伝ってくれるんよな?」
「はい。1週間ほどパトロールのシフト入ります。2日間ほど代わりに一緒して欲しいです」
「んん?それじゃあハルキ君が損やろ。ウチが1日手伝う代わりにハルキ君は1日パトロールでええのに」
「良いんですって。明らかに釣り合いませんし、ならその分オオサカに恩返しできたらなって」
これは俺自身の信条でもあり、ナズナさんの心象はできるだけ良くしておきたいという打算でもあり、ハンターとしての心構えでもある。親や先生、相棒といった特別な相手でもない限り、1人前のハンターが無闇に人に借りを作らないというやつ。
一方騎士は人助けを好む人がやや多いため、そこら辺は今回のようなうまいやり方で精算するのがスマートなマナーとされているらしい。
「おお……めっちゃええ子やなあハルキ君は!よしゃ!一緒に頑張ろや!あ!あとそうそう!ウチの事はタメでええ、同い年やし、もう友達やろ!」
「そう……だね。ありがとう!これからよろしくね、ナズナ!」
まずはお仕事の前に、互いの装備とスキルを改めて確認する。ミユキとも最初やった様に、現地で即興のチームを組むのではない場合ある程度互いの実力を把握し合う必要がある。
「俺はこの刀と炎魔法で戦う。基本刀で戦いながら炎魔法を織り交ぜる感じ」
「ウチは盾メインやな。基本大盾殴るわけやけど、逃げられそうやったり遠い相手は小筒がある」
「すごい盾だよね、あれ……特注品じゃない?」
「せや。ウチのスキルがわかって、騎士学校行く時に親が奮発してなあ……かなり高かったんやけど、ウチも完全にこいつに並ぶ強さにならんとな」
ハンターや騎士が不相応の装備を使っている事は、あまりいい顔をされない事もある。装備に甘えて死んだり、仲間に甘える様な人間になられても……という前例から来るそうなのだが、彼女の様に騎士学校なんていうエリート組で、かつその中でも上位層となれば全く問題視される事はないだろう。
甘ったれるような人間ではないよね?というやつだ。相変わらずこの世界は変な所で弱肉強食というか、求道僧じみてるよな……。
「じゃあ今回はナズナが前に陣取りつつ挑発、俺は遊撃しつつ距離を置いた敵をってやってこうか」
「せやな!お互いの相性も良さそうやし助かるわあ」
次は説明。
今回は変則的だが、依頼主はナズナと言うことになる。ここは報酬がナズナの助けという事で、0である。
別に日給くらいは出すでーとの事だったが、代わりにお弁当と道中で倒した報酬は自分のもので良いとの事。
「まあハンターの子もおるし、このパトロールは騎士団の子も獲物は自分のものにしとる。そんな大したもんやなし、それでええならええんやけど……」
エンキさんの依頼だが、★2が集まるかは分からないが、★1に関しては回るうちに集まるんじゃないだろうかという予想でやっている。集まらなかったらまた別日にやろう。
「んで最後に、これ付けてな」
「これは……腕章?それに札?」
「そうそう!簡単には壊れん様に出来とるから。怪しいもんだと思われたらこれ見せて騎士団に連絡するよう言ってくれればええから」
「へえ……」
「オオサカの人間てかナンバ領の人間なら大体はこれ見せれば分かるから。外から稼ぎに来るのも大体ベテランやし、早々怪しまれる事はないで」
つまり俺みたいなのは珍しいわけか……。
「ちなみに札は?」
「それは本当にヤバくなった時に破って欲しいやつ。光が上空に浮かぶから、したらなるはやで近くの子たちが時間稼ぎの増援に来るし、ちゃんとした騎士やハンターの人も来てくれる。ハルキもこれ見つけたら向かったってほしいで」
「オッケー……ちょっと緊張してきたな」
「早々ないしあってもすぐみんな飛んでくさかい、あんま気にせんといてな」
打ち合わせを終えて、ナズナと一緒に狩場に向かう。パトロールを行うのはナズナに会った「ちんどん獣道」ともう1箇所、「廃棄街道」である。
俺の担当は「廃棄街道」1箇所。
森と草原の獣道だとルートを把握するのに時間がかかるが、こちらなら問題ないだろうとの事。
俺も初めて回るが、廃棄街道は寂れた廃村……の様な光景が続くらしい。
建物や道も浅層に関しては比較的シンプルで、ハルキは1ルートだけ覚えてくれたらええで、と言われた。
「いやあ助かるわあ。ハルキみたいなやれる子がおると1グループ分丸々のカバーができるわけやし……ありがとなあほんまに」
「良いって、こっちこそ★3は格上の相手なのに、本当に助かるよ」
「ええってええって。本来うちの戦い方は大物とやり合うのが一番合うやり方やし……さ、行こか」
こちらもちんどん獣道同様かなりの広さで、そのうちハルキに回ってもらうのはここからや、と指示された入り口に入って行く。
なるべく他のハンターと近づきすぎない様に、ハンター達は音や気配を確認しながら常に歩く。が今回は別だ。獣道の方は分からないが、こちらはなるべく視界に入りやすい道を選びながら音を拾って行く。
「基本歩き回りながら道中のモンスターの相手をしてくれればええ。午前1回、午後1回。なんもなければ余裕もできるし、終わって余裕があれば狩りに行くなり休憩するなり上がるなり自由や……っと、ハルキ」
「了解」
前に現れた餓鬼を2匹まとめて切り飛ばし、ゴミに擬態していた唐傘を斜めに叩き割る。
ここは廃村の様な場所で……最大の特徴は、捨てられているゴミや家の中にある家具の中にモンスターがいる事だ。奇襲の確率が高く、慣れないハンターにとっては命取りになりかねない。
故郷の村ではレアだった唐傘も、ここでは普通に出てくる。新人にとって、狩りの獲物である★1でもここの唐傘は中々キツい。ちんどん獣道の方がまだ安定して狩れるんじゃないだろうか。
「せやけどなあ、これがおるねんで、バカな奴が……」
呆れた様に彼女は溜息をつく。
この半自主的なパトロールが毎年伝統的に行われる様になったのは、トラブルが毎年の様にあるからだとか。
「ウチは今年初やけど、他の班で1回死にかけのパーティーを救っとる。報酬金に目が眩んで送り犬に挑んで……挙句の果てに言い訳がなあ、単体なら勝てると思ったやで?普通群れでおる相手の中から、どうやって依頼期間中にはぐれを見つけるんやっちゅう話やほんまに」
「まあ……適当に探すのと依頼で探さなきゃいけないだと全然違うね」
「やろ!?まあそれくらいならええねん。大抵ウチらが助けなアカン相手は★1の群れに囲まれるヘマしたパーティーか、★2に無謀にも挑むアホや。助けられそうなら助ける。無理そうなら遺品……カードだけでも回収できるとええな」
話しながらもナズナは小鬼を盾で撲殺し、怖気付いて逃げかけた唐傘を俺が切る。
餓鬼や小鬼はいくらでもどこにでも出るな……。
1周ルートを回り、確認をする。
この建物が目印、とかナズナが教えながらやってくれた事もあり、まずルートは問題ない。午後ももう一度回る事もあり、それも含めれば迷う事は無くなるはずだ。
そう告げれば彼女は安心した様に笑った。
「じゃあ2周目や。ウチは次何も言わんから、普通に回ってみてや」
「オッケー、困ったら聞くよ」
さて、というわけで2周目だ。
入り口付近にいた餓鬼4匹をささっと掃除して、まずは奥に。点在していた建物が近くに固まって現れた所で右。
ここは★2が比較的多く出やすいらしく、狩れる者にとっては美味しい場所だが、実力不相応の状態で入ると最悪死ぬとか。
そこには入らずに右を進んでいく。多少道が整理してあるのか、比較的ルートらしきルートがこの辺りは分かりやすくなっている。
浅層の中間くらいまでは多少道の整理ができなくもない……と聞いたが当然危険なわけで。それでもある程度は道の整理をしているここは、それだけ事故が多発しているのだろう。
真っ直ぐ進み続け、いったん出口に出る。他の入り口から再び入り、真っ直ぐスタート地点まで突っ切る。午前同様、何事もないと信じたかったが……。
「ハルキ!正面から……!」
「ああ、明らかにヤバそうだな、こりゃ……!」
遠くから聞こえる声は、ここからでも分かるほど恐慌状態にある。
走ってすぐさま向かい、敵を確認する。
唐傘3!提灯2!
提灯は前世で言う提灯お化けだ。
飛行はできないが器用に低空を浮遊する。さらには体当たり以外にも炎を吐き出す、面倒な★2だ。
「ハルキ!唐傘を!ウチが提灯!」
「了解!」
パーティーをチラリと見て視線を戻す。
重傷1、麻痺1、無事なのが1。
腰を抜かしてるあたり戦闘は無理だ。
ナズナが3人を庇う位置に立ち、小筒を撃ち続ける。提灯は回避しているが、移動のスピードはさほどでもない。すぐに当たりそうだ。
こちらも群れているのか、強気の唐傘達に立ち向かう。
飛んできた麻痺針を刀で叩き落とし、或いは避ける。未だに俺に麻痺の耐性はない。無難に避けるのが良いが……。
1匹2匹と切った所で、捨て身の3匹目が逆に近づいてきて、こちらに麻痺針を射出。今避けるには無理な耐性だが、問題はない。
体をわずかに傾ける。針は鎧に弾かれ、そしてそのまま唐傘は叩き切られる。
麻痺に対する耐性も、何か麻痺を治すアイテムもある訳ではないが、俺の防具は既に唐傘の針程度なら通さない。ある意味防具で対策ができていると言えるだろう。
使い捨てのアイテムは高いし、麻痺に対するスキルもない。残るは装備だが、これは頑張れば卒業までにはなんとかなるかもしれない。来年に期待だ。
そうして唐傘を片付けた頃に、同じくナズナも提灯を倒す。
「ハルキ!重傷の子持ってくれる?ウチが先導する。2人はウチの後について!ハルキは最後尾で見張りや」
「わかった、急ごう!」
俺達はすぐに入り口に向かい人を呼んだ。幸い重傷の子も命は助かる様だ。後遺症が残るのか、回復の為に借金をしたのかまでは知らない。命があるだけマシだろう。
騎士団の人にはナズナ共々褒められた。
「その歳でそこまで鍛えてるとは……やるな!ナズナが褒めちぎるだけはある」
「せやろ先輩!これから1週間廃棄街道のBルートを回ってくれるんや」
「君のスキルなら問題はないだろう。……ああ、これは言われてないかもしれないが、無理だと思ったら逃げるんだぞ。このパトロールはあくまでボランティアという体でやっている。格上に強制的に突っ込ませるものではない」
この先輩も疲れた様な表情になっていた。
ナズナといい、やはり騎士団は善人や他人思いな人がなりやすい一方、気苦労も背負いがちになるのだろう……。
ちょっと可哀想だった。
聞くに、★3あたりも出る時は出るから、勝てない相手が暴れていると思ったら速やかに逃亡、通報する方がよほど犠牲を減らせるとか。
「5年前なんかはあの人鬼が出て……んん、すまないね、気分の悪い話になったかな、これから1週間頼んだよ」
「はい、ありがとうございました」
そうして今日はゆっくりとお風呂に入り、凛風と遊んで寝た。




