21話
夏祭り編、始まります。
夏休みが始まった。
俺の目標はナンバ領で、テイムできるモンスターを見つける事だ。
ツェルニ先生からは店の紹介状をもらったし、あの後「お店と移動手段の予約もしましたよ〜」と教えてもらった。私なりの激励です〜という言葉は怖かったが、断ったら断ったでそれも怖いためお礼を言っておいた。予約金とかどうなってるのか聞いたら、心配しなくていいですよ~との事。明らかに何かある。一応お金は多めに持っておいてあるが、既に怖い。
「ナンバ領行き大型馬車は……これか?」
「への3・特割乗車券」と書かれたチケットを頼りに馬車乗り場を進む。
一応魔石で動く列車のようなものはあるし、車のようなものもある。が、高価すぎるため金持ちしか持てず、ならばと複数の領主が協力して鉄道を引こうとした時は、モンスターの妨害に次ぐ妨害で工事どころではなくなり、頓挫してしまった。
というわけで、特に長距離移動では護衛付きで馬車複数移動が一般的だ。
……と、いうことを数日前に知った。
特別乗車券を見せると、こっちねと言われ馬車を紹介される。
所々にモンスターの素材を使われているようで、これなら襲われても集中して狙われない限りは壊れないだろう。
中に入るとそこには5人のメンバーが。
男女のペアと男性1、女性2のペアだ。
「おや、随分若いな」
「大丈夫なんですか?」
揶揄うように言ってきたのは前者の男性。不安そうに聞いてきたのは後者のグループにいた女性。
正直、何の事なのか本当に分からない。
「えっと、俺……養成校の生徒なんですけど、ナンバ領に行くという話をしていたら、先生が私が取っておいてあげますね〜って……」
「教師が?意味が分からないんだけど……」
もう1人の男性も心配そうな顔でこちらを見ている。敵意をぶつけられている訳ではなく、むしろ心配されているのは分かるのだが、このままだと居た堪れない……。
そう思っていると、3人組のグループにいた女性……黙っていたうちの1人が、こちらに憐れむような目線を向けて聞いてきた。
「えっと……ツェルニ先生にこれに乗らされてるの?」
「君もかわいそうに……まさか先生の差金とはね」
「は、はあ……」
気に入ったように俺の頭をぽんぽんとして遊んでいるのは、ミレイさん。
なんでも俺の先輩で、学園の卒業生だとか。
パーティー「三本の剣」を率いているそうだ。
ちなみに男女ペアの2人は恋人で、「虹の光」なるパーティーを率いているそう。
そのミレイさんに「嫌じゃなければ、みんなにカードを見せてみればいいよ」と言われ、カードを見せる。
「へえ!坊主学園生って事は12?13?その辺りだろ!それで合計スキルレベル7とは相当じゃねえか!」
「なるほど……ミレイの後輩だけあるのね」
スキルを見て、周りはどこか安堵したような様子だ。心配が消えたかのような……。
「折角の後輩なんだ、私が説明するね。基本的に近くの村に行くならともかく、よその領へ行くならかなりの確率でモンスターが襲ってくる。ここまでは分かるよね」
「は、はい」
前戦った大蝦蟇や髪切りの様に、狩場以外にもモンスターは出る時は出る。
だから、基本的に移動距離が長いほど護衛を多く雇う……待てよ!?
「も、もしかしてここって!?」
「そう、半分護衛、半分客。戦闘と最後尾にこういう馬車を置いて、護衛の手が回らないとこをやるって訳」
ああ……ツェルニ先生。
せめて事前に説明してくれませんか?
多分普段の装備とアイテムでやらせるために何も言わなかったんだろうな……。
と、いうわけでオウミ領からナンバ領まで、凄まじい勢いで10両の馬車は走っている。
周りの人に聞けばこの馬車の馬はモンスターの血も混じっている様でタフ。
馬車もモンスター素材で加工済。
その性能に任せて通常の半分の日数……4日でナンバ領に着くことになるそうだ。
当然ながら馬が多少良くなった所で、日数を半分にするのは無理がある。
そう、この馬を選んだツェルニ先生(鬼)の企み通り、この馬車群は最短ルート、狩場に突っ込みながら戦っている!
「ハルキ君!右!」
「はい!ファイヤーボール!」
ミレイさんの指示に従って、とりあえずファイヤーボールを数飛ばしていく。
ここは姥捨谷。
オウミ領をナンバ領方面に行くと入る事ができる谷だ。入った事のない狩場だが、とりあえず見えるのは餓鬼や動死体。まだ突入してすぐだからか。
10体ほどの群れを抑えつつ、緊張をほぐすためかミレイさんが雑談をしてくれる。
「ハルキ君はサモナーが使えないんだっけ?」
「はい。使えないというか、使えるモンスターが見当たらないというか……契約してる子は1人いるんですけど」
「呼び方的に人型?どんなモンスターか聞いてもいい?」
「キョンシーですけど、完全に従うのに条件があって」
「へぇ、そんなのもあるのね……私のは倒して魔石を使うだけだからね」
そう。このミレイさんは弓術5、風魔法4、そして召喚系、シーラー5を持つ。
後輩ということ以外に、同じ召喚系ということもあってこうして世話をしてくれるのだと思う。
シーラーは文字通りモンスターをシール(封印する)スキルだ。
倒したモンスターの魔石を念じる事でカードにし、それを消費して同じモンスターを呼び出す。
カードなのにシーラーなのか……とずっと思っているのは内緒だ。
この戦闘中も彼女は木の葉天狗を数匹呼び出し、前の馬車と併走させながら護衛させている。
最後尾の馬車にいるのは俺とミレイさんだけで、他の4人は経験値が欲しいから4人までで行動しよう!と言い出し4人で7列目の馬車あたりにいるようだ。
「あー、それにしても退屈ねえ。前のが当たりだったかしら、今回は」
「当たりって……」
そう言いながら話していると、やってきた火鳥が5匹ほど。それらを天狗と矢で俺が手を出す間もなく狩り尽くし、なんでもないかの様に言う。
「いやほら、私のスキルは消費が激しいから、なるべく魔石は確保しておきたいの。サモナーが羨ましいと思ってたけど、ハルキ君を見ると隣の芝ってやつだったのかなあ」
魔石を取るだけ……最悪買うだけでもテイムができるシーラーだが、もちろんデメリットもある。
1戦闘ごとに使役したモンスターが消える上、カードは戻ってこないのだ。
しかし召喚数がサモナーやテイマーより緩い事もあり、シーラーは質より数を重視する戦い方をするそうだ。
質より数で★2の魔石を複数消費できるのは羨ましいな……。
いずれそうなりたいものだ。
「真ん中当たりにそこそこの気配があるね、★3かな?」
「え?浅層で?」
「そりゃこれだけ爆走してモンスター殲滅しまくってたらこんなもんだよ。この狩場は中層まで行くけど、★4は確実、運がいいと★5が見れるかもね」
嫌どす……。という心の声が顔に出ていたのか、ミレイさんはけらけらと笑った。
「みんなはスキルを見てそこそこに信用してるって感じだけど、アタシはハルキ君がやれるって信じてるよ。あの先生の見立てだからさあ……外れないよ……」
どこか遠い目をしているが、見なかった事にしよう。なんかツェルニ先生を見る目が怖くなりそうだし。
「まあそんなわけだから、聞きたかったら色々聞いてよ。私も現役の後輩と話すのは久しぶりで、姉御肌吹かせたくなっちゃった」
「じゃあ遠慮なく……こういった移動って一般的なんですか?」
「そんな事ないよ!でも夏祭りの前と後はこんな弾丸便がある事が多いよ。後はルートによるね」
「へえ……やっぱ無茶なんですね、これ」
「その分普通券はかなり割高だよ。私たち特別乗車組はスキルの確認とかがあるんだけど、多分ハルキ君は先生がそこら辺をなんとかしてるんじゃないかな」
「ですよねぇ……」
「まあ、ハンターの強さによっては沢山素材と魔石を手に入れられるボーナスチャンスだからさ。ハルキ君も頑張って」
「は、はい!」
一番最初に「虹の光」のお兄さんに教えてもらったが、こんな乱戦で正確に分前を判別する事はできない上に、馬車が進んでいくため落とすものもある。
回収できる分だけ回収、大物だけはしっかり判別、大物も取り合いになる様なら他の(前列や本来の護衛の)ハンターに仲裁してもらう。仲裁役のハンターにも素材を分けなければいけなくなることもあり、ここまで争われる事は滅多にない。
他にも旅の仕方や、強かった敵との経験、今後のルートを教えてもらい、1日目は更けていくのだった。




