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16話

「も、もう無理……」


あれから数時間。俺とミユキさんは無事依頼を終えて女の子に白鳥花を渡した。

あれをどうするかは不明だ。妹が本当に助かったのも不明。そもそも妹がいるのかも不明なのだが、俺もミユキさんもそれを気にすることはなかった。

俺達がやれる事はやったし、ミユキさんの目的は達成された。

まあ、それ以上に俺とミユキさんが疲弊してお見舞いどころじゃなかったのがデカい。

重傷こそないものの体中擦り傷打撲の俺、俺ほど攻撃は受けていないものの機動性を重視しているために装甲が薄めのミユキさん。両者共に保健室に向かう事になった。


保健室の先生には「回復薬を使うほどじゃないから良かったね」と笑われたが、緊張の糸が切れた今、手持ちの回復薬を使ってやろうかと思ったくらいにはグロッキーだった。


とりあえずと言う事で、ベッドに2人して寝かされているのだった。


「私は帰るが、何かあったらとりあえず大声で叫びなさい、誰か来るから」


とても雑な指示だけ出して保険医さんは帰って行った。いいのかそれで。


隣を見る。同じくベッドに寝かされているミユキさんと目が合う。


「……あの」


「ん?」


「今日はありがとうございました。私のわがままを聞いてくれて」


頭だけを器用に動かして、横になりながらもお辞儀をするミユキさん。律儀な人だ。


「いいよいいよ。言ったじゃん、相棒なんだからって」


死線をさまよいはしたが、結果的には大満足の成果だったし、ユニーク個体との遭遇がなければ多分そこまでボロボロにならなかったんじゃないかなって。

ユニーク個体自体はどこの浅層にも出ると聞くし、こればかりは完全に運だ。仕方ない。


それに言った通り、ミユキさんははじめての相棒なのだ。やれそうな頼みくらい、引き受けるのが相棒だろう?

あとミユキさん、かわいいし。


最後以外を伝えると、ミユキさんは照れた様に毛布で顔を隠した。


「そ、それでですねハルキ君!ちょっと話は変わるんですが、私たち相棒じゃないですか!」


「え、うん。どうしたの急に」


「その……いつまでもミユキさん呼びだと、他人行儀じゃないですか!?い、嫌じゃなければ、呼び捨てで呼んで……いただけると……」


これはもしかして、好感度が上がったってやつか!?ちょっと嬉しくなって、呼びかける。


「じゃあ今度からミユキって呼ぶね。ミユキさんも呼び捨てで呼んでくれていいから」


「え!?ちょ、ちょっとそれはまだ、心の準備がその」


えぇ……?

ベッドで悶えるミユキさん……もといミユキを見て、照れとか可愛さより面白さが勝ってしまった。笑っていると、ミユキもそれに気付きつられる様に笑い。しばらくの間、2人でくすくすと笑っていた。





翌日にはなんとか2人とも退院できる様になり、授業にも参加できた。

所々湿布や包帯が巻いてある俺やミユキだが、クラスメイト達から特に心配される事はなかった。たまに無茶したやつがこうなっているからね……入学して3ヶ月なのに、変な順応の仕方をしてしまっている。


「と、言うわけで〜、スキルにも取得条件があるとされるものがあります〜」


「個々人で微妙に差があるというのが研究者さん達の見解で〜……………」


ツェルニ先生の授業を聞きながらも、周りを見渡す。

殆どの生徒は興味深そうにツェルニ先生の話を聞いている。授業を聞く余裕がある生徒達だ。

しかし一部の生徒達は、授業を聞きながらも、どこか焦った様な雰囲気を察せられる。恐らく彼らはまだ★2モンスターを倒せていないか、まぐれで1匹倒した程度なのだろう。


(脱落者は5人以上10人以下、くらいかな……?)


彼らの中でも宿題をクリアできる者はいるだろうし、それくらいが脱落人数になるのではないだろうか。

俺も未だに魔石の納品数2だが、残り1つならまだ2ヶ月でなんとかなるだろう。


授業の終わり際、ツェルニ先生に声をかけられる。


「ハルキ君〜、しっかり動ける様になったら〜、私の部屋に来てください〜」


「? はい」


返事をして自室に戻る。

スキルボードでも一度確認したが、自分の力と、今回のリザルトについて確認しよう。

まずは今回の戦利品と失ったものから。


戦利品は沢山ある。

★1の死体粉と魔石については、まとめて売ってミユキと半々に分けた。

餓鬼の素材と比べても安いくらいだったが、それでも数だけはあったので多少のお小遣いにはなる。

★2は10体弱分のコンシー素材と一つ目小僧の素材。

こちらも等分とした。前回一つ目小僧の素材を手に入れても使い所がなかったので、こちらはミユキに。コンシーは札と、レアドロップらしい剣を手に入れている。札は陰陽術に使えるが、剣は……刀術に反応しなかった。

一身札を一枚もらう代わりに、札を全て渡し、剣をもらった。売るなり使い道はあるだろう。

★3素材は2つ。キョンシーの札と魔石。手負蛇の牙と魔石。

前者はミユキが、後者は俺がもらった。売れば今の俺達にとって良い値段になるだろうが、これは流石に最後まで取っておきたい。

そして★3を超える、本日の目玉がこれ。

ぐるぐる巻きにされた、巻物の様なもの。上下の部分は青く塗られている。


スクロール。スキルを自発的に手に入れる数少ない手段。誰もが羨むそれが、俺の手の中にはある。


スキルの入手方法については、大きく分けて2つある……と言われている。

1つ目は努力。身も蓋もないが、スキルとは突然与えられるだけのものではないというのが通説だ。

剣を毎日振っていれば、遅くとも何年かでスキルレベル1の剣術を手に入れられるし、ずっと農業をしていれば、スキルがなくともいつの間にか農業が生えている。

とはいえ、あまりにも効率が悪いため、特に戦闘職であるハンターや騎士はこの様な手段を滅多に取らない。

ではどうするか。もう一つの方法がこのスクロールだ。

スクロールを消費する事で、スキルを1つ手に入れる事ができる。使うまでどのスキルが手に入るかわからないがある程度法則性は決まっていて、赤色が物理系、青色が魔法系、緑色が特殊系の筈だ。これは青色だから、何かしらの魔法スキルが手に入る。

ただし入手難易度も相当高い。ユニークモンスターやその上のネームドモンスターを倒すか、狩場の最奥部に稀に置いてあると言う。


これ一本売るだけで、下手したら家が建つかもしれない。★5や★6の素材より価値が高いと言ってもいい。使うのにかなりの躊躇いがあるが……。


スクロールを持ち、「読みたい」と念じて握りしめる。スクロールは粒子となり、俺の身体に染み込んでいく。


「火魔法……」


頭の中に浮かんだスキル名を呟く。

オーソドックスだが、基本の魔法属性の中では一番の攻撃力を持つと授業で習った。刀を投げつけるしか遠距離攻撃手段がなかった俺にとっては最適かもしれない。


ちょっともったいないという気持ちも、ないではないが……。

ミユキも若干羨ましそうにしていたが、「キョンシーと戦ったのはハルキ君ですから。あ!でも売りたくなったら売ってくださいね!実家からお金を……」と言っていた。

現役のハンターだけでなく、子供を一流のハンターにしてやりたい金持ち等にも需要がある分、お金があったとしても簡単に手に入らないのがスクロールなのだ。そう考えれば、キョンシーと出会えたのは幸運だったのか……?


スキルボードに再度触れに行き、自室に戻る。


ハンターカードに魔力を通して、自分のステータスを見る。


ココノエ ハルキ

★1

刀術3

火魔法1

サモナー2(キョンシー)


さらに見れば、こんな文字もあった。

●転生者(1)


転生者の運命変転を見れば、相変わらず(1)の所に説明と、そしてこんな事が書いてあった。

「ユニークモンスターを倒す」

「エラー:ユニークモンスターの撃破を確認できません。再度討伐を行ってください」


キョンシーを倒した様な倒していない様な、微妙な判定だったという事だろう。

運命変転が1回分無駄になったわけでは無さそうだし、これは良しとする。


次に刀術。レベル3になった。

どこで上がったかは分からないが、激戦に次ぐ激戦だったのだ。刀は最初から最後まで使っており、余計上がりやすかったのかも。

レベル3のスキルといえば、ハンターとしてこれを持っていれば駆け出し卒業くらいだろうか?レベル3のスキルが有れば★3に届くなんて言われるが、届くだけで実際に勝てるかと言われるとかなり怪しい。


続いて火魔法1。

ファイヤーボールという、火の球を前方に向けて撃ち放つ魔法のみ使う事ができる。何回か撃っても魔力が枯渇しそうになる感覚は感じられなかったが、これは一度どこかで検証すべきだろう。

刀を投げなくて済む様になったのはとても嬉しい。


最後、サモナー2。

キョンシーと書いてある通り、あのユニーク個体を仲間にした。

が、問題がある……!

見てみれば(契約により戦闘使用不可)と書いてある。


「絶対カッコつけてお前を倒すなんて言ったからだ……!」


いや、ああやって言わなければ着いて来てくれなかった……様な気もする。だから俺は悪くない。むしろ契約相手と誠実な約束ができてとてもえらい。そうだよな?


「ふぅ……おいで」


サモナーのスキルを使う事自体はできるので、キョンシーの事を念じて呼び出す。

すると、目の前にふっ、と彼女の姿が現れる。勿論五体満足だし、傷は回復している。


「えっと、今までの事は覚えてる……?」


こくり、と頷かれた。意思疎通ができる相手で良かった。


「じゃあ、俺がもっと強くなったらお前を倒して、従ってもらうから」


そういうと、先ほどと同じく頷かれる。心なしか嬉しそうだ。

うーん、この性格……。

前の戦闘もあって、かなりこちらに好意的な様子ではあるが、折角だしもうちょっと仲良くなりたい所だ。念願の美少女モンスターだし!死体だけど。


「ちょっと立ってて」


「?」


頷かれたのを見て、じっと彼女を観察する。

前戦った通常種のキョンシーは、肩から先を露出していた気がするが、この子は袖から指が見えるくらいの長袖となっている。袖がフリルになっていてかわいい。

一方スリットは脇腹辺りからあり、なんというか……目の毒だ。脇腹から臀部にかけてはスリットを紐で縛っているが、これ逆に青少年のなにかに危なくないか?

あとは厚底ブーツの中華風サンダル?と言うのだろうか。これでよくバランスを取ってあんな蹴り技を放っていたものだ。

そして最後に……。


ぺらり


お札を剥がして、お団子ヘアーの彼女の顔をじっと見る。

本来ならば可愛い系の顔のはずなのだが、無表情のせいか冷たい印象を受ける。


「美人だな」


「……」


黙っているが、なんとなく分かる。照れてる……。なんだこの可愛い生き物!ってそうじゃない。

顔を近付けて、目を合わせる。

サモナーとしてやらなければいけない儀式を行う。


「お前の名前は……今日から凛風(リンファ)だ」


名前を考えるのに時間がかかって、今日まで呼び出せなかった。この世界に中国語はないから、完全に当て字という事になるが……そこはまあ、俺が意味を分かってればいいと思う。


「戦ってた時の凛風が、一陣の風みたいで綺麗だったから……気に入ってもらえると嬉しい」


その言葉に、彼女は近付いていた顔を更に近付け……っていうか抱きしめてきてないか!?

なんか冷たい!死体だから冷たいんだけど柔らかいせいで感覚がおかしくなる!


「ちよ、ちょっと待って凛風!あっ柔らか……もといそれ以上は俺が……」


「!」


「何その閃いた顔は、え、ちょっとそれは生理現象で、あっちょっと脱がさないで……お前が脱いでいいとは……!」

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