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安らぎの家で

作者: あ3for

4年半ほど前に開設された、合法自殺幇助ごうほうじさつほうじょ施設安らぎの家X市店には毎日そこそこの客と自殺を手伝う客の知り合いが来る。

今日も待合室で、二人の若い女性が座っていた。

「ねえ幸子、本当に死んでいいの?」

「何よ町子いまさら・・・」

「いくら結婚したばっかりの旦那が死んだからって死ぬことはないんじゃ。」

「もうその言葉聞き飽きたわ。私は一人っ子で親ももう死んでるから家族がもういないのよ。」

「そうよね・・・ごめんなさい。」

重苦しい空気に耐えきれなくなった石川幸子が口を開ける。

「ごめんね、私を殺すなんて残酷な役割を押し付けて。」

「いいわよ。高校からの縁だし。」

「ありがとう。」

再び沈黙が訪れたところで幸子はふと今まで当たり前だと思っていたことに疑問を持った。

「ねえ町子、人って死んだらどうなるのかしら。」

「あなた『死後はY神のお導きで天国か地獄かに導かれるんだ』ってこの前言っていたじゃない。」

千葉町子は幸子が熱心なY教徒なのを思い出しながら答えた。

「いやまあそうだと思っているのだけれど、無神教のあなたにも聞いて見たくて。」

町子は少し考えてから答えた。

「そうね、私は死というのは睡眠の・・・」

町子が言いかけている時施設内アナウンスが入った。

『石川さん、千葉さんそれぞれ自殺幇助室と自殺幇助人室においでください。』

「じゃあ自殺幇助室でね、幸子。」

幸子は町子が何を言おうとしていたのかとても気になっていたが、聞く前に町子は幇助人室に向かって行ってしまった。

そのため幸子は町子が何を言おうとしていたのか、幇助室に向かいつつ考えを自分で巡らせることにした。

『町子は何を言おうとしていたのかしら?死は睡眠のようなもの?それって死んだらもう永遠に意識がないってこと?それともずっと夢を見続けるってこと?そう考えるとなぜかとても怖くなって来たわね・・・ううんやっぱりそんなの嘘よ。きっとY神が・・・』

と幸子が考えていると彼女はいつの間にか幇助室にいて、係員が彼女に話しかけていた。

「石川さん。準備できましたか、千葉さんのいる幇助人室とのカーテンを開けますよ。」

「・・・」

「石川さんどうかしました?」

「・・・あっ何でも無いです。すみません。ついぼうっとしてしまいました。カーテン開けても大丈夫ですよ。」

自殺幇助室と自殺幇助人室との間の窓にかかっていたカーテンが開く。

十数秒の沈黙ののち町子が口を開く。

「さっきの話の続きだけど・・」

町子が続きを言おうとした時幸子が話を遮り口を開いた。

「いややっぱりいいわ。もうすぐわかることたから。」

「それもそうね。」

「じゃあ元気でね町子。あんたは自殺幇助施設なんかのお世話になっちゃだめよ。」

「わかっているわ。」

「係員さん、もういいわカーテンを閉めて。」

「わかりました。石川さん。」

カーテンが再び閉じる。

幸子は再び少し不安になっていた。町子の話を聞いたことで少し自分のY神への信仰心が薄まり、死への恐怖が強まっていたからだ。

『やっぱり町子に死への考えの続きを聞こうかしら。』

「まっ!・・・」

待ってと幸子が叫びかけた瞬間、彼女の意識は遠のいていく・・・

『町子、ボタンを押したんだわ。さて、死後の世界はあるのかしら・・・』

そう考えながら石川幸子は永遠の眠りについた。

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千葉町子は自殺幇助室にいる人を殺すボタンを押した瞬間幸子の『まっ!』という声が聞こえてきたことが引っかかっていた。

そのため彼女は

「幸子は安らかな死を迎えることができたでしょうか」

と係員に尋ねた。

係員は「それは我々が考えてわかるものではないでしょう。」

といった。

町子はそれを言われた時こそ、係員のことを冷たいと感じていたが、家に帰ってひと段落してから再考すると彼の発言はあながち間違いではなく、いくら幸子が重要な親友でも、幸子の最後の一言に自分が囚われるのは彼女も望んでいないことだと割り切ることにして、その後の人生を送ることにした。

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