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箱庭  作者: 黒十二色
第一部 月と大樹
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第7話 ユロとフレクト7 砲撃

「ユロ! シャトルはどっちだ!」

「あっち!」


「あっちじゃわからん!」

「もう見えるでしょう! 正面よ!」


「わかってる!」

「何なのよ……」


「…………」

「ねぇ、フレクト! ガトゥアの人達はっ? どうするの?」


「放っとけ!」

「でも……」


「シラに……このままシラに好き放題やらせてもいいってのか!」

「でも……」


「このままだとユロが危険だから! 脱出しないと!」

「私はいいのよ。皆が」


「ユロは、王女なんだろ!」


 フレクトは立ち止まって、かつて剣を向けた時のように、鉄の棒を彼女に向けた。


「ええ……でも……」


「嫌な予感がするんだ。とにかく、引き返すことは許さない」

「私だって、何か嫌なことが起こる気がしてるけど……」


「さっさと帰って、シラを止めるんだろ!」

「…………わかったわ」


 そしてシャトルに乗り込み、発進スイッチを押した。


 しっかりシートベルトを締めたユロとフレクト。そしてシャトルは黒い空へと飛び立った。


「フレクト、今度は大丈夫?」

「ああ」


  ★


 その頃、逆賊シラは、巨大な戦艦の中に居た。


 船内は大量の屍。シラが全てを殺してしまった。血の海の中、返り血を浴びながら、シラ一人が、静かな船を一人で操っている。キーボードのようなものを操作しながら、見ているだけで寒気がするような、とても怪しい笑いを浮かべていた。


「新兵器の実験台には、ちょうどいい」


 いとも簡単に、シラはそのレバーを引いた。


  ★


「ん……あの野郎……あんなところで方向転換なんかして……」


 シラの乗っているであろう巨大な船の船首が、フレクトたちのシャトルを向いた。百八十度、回転した形だ。


 フレクトの背筋に悪寒が走る。


「まさか――」


 シャトルはシラの戦艦を真っ直ぐ追いかけていて、背にはガトゥアがある。


 砲撃してくる予感があった。それは、フレクトだけではなく、ユロも感じていた。


「ユロ! 緊急だ! どうやって避ければいい!」

「左のレバー!」


「これか!」

「違う! それはレバーじゃなくてスイッチ!」


「あぁ、これか!」

「それ!」


「あ、あれ? このレバー動かないぞ!」

「バカ! 押すんじゃなくて引くのよ!」


「あぁ? あぁ……そうか!」


 グッと全力を込めて、レバーを引いた途端、強い重力。浮いていた場所から、急激に移動した。とにかくその場から緊急移動するためのレバーだった。


 間一髪。


 その後、閃光。振り返り、後ろのモニタを見ると……。


 (ガトゥア)に直撃していた……。


 砂塵が舞って舞って、被害状況はわからない。想像したくもない。


「ま、待って、待って待って…………」

 ユロは瞳に涙を溜める。


「……何よ……これ……」

 頭を、抱えた。


 しばらくの間、二人の呼吸の音と、モーター音が妙に大きく響いていた。


 逆賊シラは、声を裏返して笑っているのだろう。王女は、その姿を想像して拳を握り、涙をぬぐいながらも、冷静を失わないように気を張った。


「シャトルのコースが変わってしまったわ。このままじゃセメディアに降りられないわね」


 本当なら、ずっと泣き続けても足りないくらいだ。でも、それよりも今は、側近のシラを止めることが先決だと感じ、無理矢理気持ちに整理をつけた。


「これが……これが、あんたら青い星の連中のやることかよ……」

 整理がつかないのはフレクトの方だった。


「フレクト……」

「許せねえ、あの野郎……絶対……」


「私も……」


 ユロは王女として、何ができるのか、と考えた。


「……わからないわね」


 小さな声で呟いた。


  ★


 哀しみの中、青い星に突入し、地上へと降り立つ。

 セメディアから遥か遠く南の島に着陸した。


「ここは……?」

「え? セメディア?」


「何を言ってるのフレクト。そんなはずないわ。ここはセメディアからずっと南で、地図には行った事もないような島が……」

「違う……樹だよ。セメディアの樹」


 着陸した場所の周囲には、樹林が広がっていた。


「あ……本当だわ、これは……セメディアね……」


 それは、あの『種』から育つ樹。フレクトの故郷ではガトゥアと呼ばれ、聖地においてはセメディアと呼ばれる樹だった。


 ユロは、何故こんな場所にあるのか、と不思議がっていた。


「ユロ、ここからセメディアまで、どのくらいで行ける?」

 フレクトが訊ねる。


「えっと、コンピュータの計算だと、三時間くらいかしら」

 ユロが答えた。


「そうか……どうする?」

「どうするって? 何が?」


「いや、行くか、行かないか」

「セメディアの民とシラを、貴方は放っておけるの?」


「ああ……そうだよな……でもちょっと休ませてくれよ。少し酔っちまった」

「ダメです」


「えっ?」

「嘘です」


 自分の心を和ませるための冗談のつもりだったのかもしれない。にっこりと笑った彼女であったが、やはりどこか焦っている様子だった。


「なぁユロ。何だって、戦争なんてするんだろうな」

「それは……相手が、攻めてくるからです」


「何で、話し合いで解決できないんだろうなぁ」

「話し合いで解決できないから、戦うことになるんです」


「何で、セメディアのお隣の国は攻めてきたんだ?」

「さぁ……」


 ユロは、戦争の理由を知らなかった。ユロだけではない、セメディアの民も、ガトゥアの民も、その多くが何故戦争が起きたのかということがわからなかったのだ。


 隣国側に、何か森を焼かねばならない事情があったに違いはないのだが、その理由を、侵攻された側であるセメディアの民は知らない。


 二人はセメディアの根っこの上に座った。


 フレクトの乗り物酔いだけでなく、長く飛び続けたシャトルも休ませる必要があったのだ。


  ★


「さてユロ! 一体どうやって行くんだ?」

「このシャトルにはね、便利な機能があるのよ。翼がバサッと広がって、ビューンと移動できるような」


「つまり……飛行機械になって、空も飛べるってことか?」

「ええ、そうです。便利でしょう?」


「ああ」

「私が頼んで作らせたんです。自慢なんですよ」


 フレクトも機械に疎いわけではないのだが、ガトゥアに残されていたものは、古いものばかりだったので、新しい技術に関しては、ユロのほうが通じていた。


「行きますよ」

「ああ、行こう!」


 シャトルに乗り込み、座席の位置を動かして、最適化する。前後左右にあったモニタが仕舞われ、窓が出現した。


 両翼を広げて鳥のような形に変化した。


 ふわりと浮き上がったシャトルは、飛行機らしい揺れの少ない快適な旅を提供してくれた。目的地までは自動で運んでくれるらしい。音よりも速く、空を駆け抜けていく。


「ところでユロ、まさかとは思うけど、王宮とか聖地とか目的地にしてないよね」

「え? 聖地が目的地で入力しましたけど……」


「いやいや、ダメだろ……変えないと」

「え? 何でダメなんですか。一番速く辿り着くには……」


「いきなり敵の中に入っていくなんて、考えなしにも程がある」


 セメディアの市民は敵にはなり得ないと信じているが、敵になってしまっている可能性はゼロではない。いずれにせよ、目立ちすぎるとその分リスクが高いと考えたのだ。


「……王女を誘拐する貴方に言われたくないわ」


 フレクトは申し訳なさそうな顔で、ユロは責めるような顔で、しばらく二人黙っていた。


「うふふっ」


 重苦しい空気を破って、ユロは笑う。


「な、何だよ、びっくりするなぁ、急に笑い出して……」


「あ、ごめんなさい……でも……うん……」


「それでさ、やっぱりシャントレールとの国境周辺で降りようと思うんだけど……ってなんで、そんなニヤニヤしてるんだ、ユロ」


「あ、ごめんなさい。えっと、そうですね。うん、その辺が良いと思います」


「ん。じゃあここらへんに設定しといてくれ。俺は今のうちに寝ておく」


「はい、それじゃ私も」


 二人は国境付近で降りることにして、仮眠をとることにした。





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