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箱庭  作者: 黒十二色
第一部 月と大樹
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第6話 ユロとフレクト6 策略

  ★


 フレクトがユロを連れてガトゥアに戻った翌日、ガトゥアの大地に大きな大きな戦艦が降り立った。水に浮かべる帆船のような形をした艦だった。


 いくつもの装飾を施された立派な船で、宇宙を舞台に戦いが繰り広げられる際には旗艦にすることを目的として造られた宇宙戦艦であった。


 宇宙専用の艦というわけではなく、水陸両用でもあり、自力で大気圏を突破できるだけのエンジンも積んでいるというセメディアの科学技術の粋を結集した戦艦。言い換えれば、青い星の技術力の結晶。


 その初陣が、ガトゥアへの王女奪還作戦である。


 作戦を指揮していたのは、側近のシラ。


 縛られたフレクトを伴って、老女とユロが、シラの前に立った。他には観客が何人かいるだけで、多くのガトゥアの民は、自宅やドームで待機していた。


「おお、姫様、ご無事で」


 側近のシラは安心したように呟いた。


「シラ、私を攫った者を、ガトゥアの民に協力してもらい、捕らえました」

 ユロは言った。


「…………」フレクトは沈黙している。


「そうですか、それはよかった」

「セメディアに、帰りましょう」


 ところがどうだ、側近であるはずのシラは、ユロに向けて、銃を構えた。


「それは、できませんね。まだ……裏切り者は残っているんですから!」


 向けられた銃は引き金を引けば女子供でも簡単に、水鉄砲感覚で人を殺せる物体を撃ててしまう代物。安全装置すら付いていない。


 ユロも護身用に同じ銃を持っている。しかし、服の下に装備している腰のホルスターに入れて持ってはいるものの、弾を込めていなかった。


 絶対に弾を入れないことをシラは知っている。ユロはシラのことを何も知らなくても、側近は王女の事を熟知しているのだ。


「何のつもりです!」


 こうなることは、ユロ自身も覚悟していたことだった。けれど、まさか本当に側近である彼が、自分に銃口を向けるとは思っていなかった。その状況を、信じたくなかった。


「王女、アナタも、『種』を国外に持ち出した犯罪者です」


「私は……攫われたのよ?」


「仕組んだのでしょう? ガトゥアの連中と!」


 シラは逆賊だった。それはもう、誰の目にも明らかなほどに。


 ユロだけは、しかし、まだそれを信じたがらずにいた。


「何を……何を言うのです、シラ……まさか、ガトゥアを……」


 もしも、シラが今まで自分を騙していたとしたら、それまでの自分の人生が色あせてしまうくらい、彼女にとっては、それほどまでにシラが大切な存在だったのだ。


「そもそも、私は、アナタの父上の側近じゃありません。私が、お父上を殺したんですよ」


「……うそ」


 突如として突きつけられた事実。シラの口からは、ユロにとっては信じられないような言葉ばかりが放たれる。


「嘘? 何がですか?」


「だって……シラ……言ったわよね……お父様は、遠い国で外交を……」


「それは嘘ではないでしょう」


「え?」


「天国は遠いですから」


「なんて……なんてこと……こんな、やつに……今まで…………」


「ガッカリしましたか」


「そりゃね」


「おや、何でしょうか」


「天国は貴方にとっては遠いでしょうよ。貴方には!」


 虚勢だった。地獄に堕としてやりたくて歯を食いしばる。


「そんな格好の良い台詞は、この場面には似合いませんよ」


「私は、こんな場所で……死なないもの」


「死ぬんです。ユロさまの不幸な死の後、民主主義国家を作ります。隣国、シャントレールの属国としてのね」


「ペラペラと、よく喋る……」


「冥土の土産ですよ。来世まで覚えていられればいいですね」


「シラ……貴方……シャントレールの人間なの?」


「……さぁ、それはどうでしょう」


「かつてセメディアの森を焼き払った……」


「今度は焼きませんよ。焼くとシャントレールに耐えがたいほどの汚い灰が降るんでね」


「やっぱり……」


「風は西から東に吹くのですよ。汚染された空気がわが国に流れ込むのを見るのはもう耐えられない。汚れた王国からの風は、有害すぎる。有害すぎて、吐き気がするよ」


「どこまで私たちセメディアをコケにすれば……」


「おや、その様子だと、どうやらフレクトから話を聞いたようですね? 私の彼に対する非礼な行為の話を」


「ええ……信じられなかったけれど、本当のようね。彼に謝らないといけないわ」


「その必要はありません。ユロ様はここで、死ぬんですから」


「私を殺したところで、セメディアの人々がそう簡単に騙されるものですか」


「そこが人間の面白いところですよ。まぁ、あの世で……いえ、遠い遠い天国とやらで見ていてください」


 ユロは、返事をしなかった。


 訪れた沈黙。


 怒りと悲しみが入り混じった心のままに、ユロは体と拳を震わせていた。


「何か言い残すことはありま――」


「フレクト!」


 叫んだ。シラの言葉を遮るように、ユロがフレクトの名を呼んだ。


「おう!」


 フレクトは気を失ったままではなかった。フレクトは縛られてもいなかった。


 縛られたフリをしていただけだったのだ。


 シラが本当に裏切っているという場合も考慮しての、作戦。


 もしもの時のために、鉄の棒まで隠し持って、ユロの合図を待っていたのだ。


 フレクトの振るった鉄の棒が、シラの右腕に当たり、シラが咄嗟に放った弾丸は砂に刺さった。シラの持っていた銃も砂の上に落ちた。


「う……き…貴様っ!」


「側近のおっさん。あばよっ!」


 ユロの手を引いて、駆け逃げるフレクト。


 シラが連れてきた兵士は全員もれなく戸惑っていた。


 シラが反逆者なのか、ユロ王女が国を裏切ったのか。どちらなのか。


 どうするべきかと迷っているうちに、フレクトとユロは走り去った。


 続いて、シラも兵士の制止の声を無視し、その場からいなくなってしまった。


「シラ様……一体どこに……」逆賊シラが連れてきた女兵士の声。


 そう言っている間に、シラと兵士達が乗ってきた大きな大きな船が、黒い空に向かって飛び立った。青い星の方へと飛び立った。


「え……俺達どうやって帰れば……」


「なんで……」


 多くの兵士たちが置き去りにされた。




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