8:幽霊メイド現る
――森の中央に現れた漆黒の巨城。あちらこちらに鋭利なデザインが目立ち、ただそこにあるだけで敵対者を威嚇しているような雰囲気を感じる。
その門前まで、俺は魔物たちを引き連れてきていた。
「まさに『魔城』って感じだな……。よしみんな、とりあえず入ってみるか」
そうして俺が、巨大な門へと手をかけようとした時だ。
なんと、ひとりでに門が開き始めたのである……!
そして、
「――ようこそおいでくださりました、エレン・アークス様」
俺たちの前に現れたのは、純白の肌と髪色をしたメイド服の少女だった。
色白……というにはあまりにも透明感がありすぎる。くりっとした赤い瞳以外は本当に真っ白だ。
ほかに何か目立ったところがあるとすれば、周囲にふよふよといくつかの人魂が浮かんでいて……って、人魂!?
「なっ、キミはいったい……?」
「あぁ、申し遅れました。――わたくしはこの城の管理をしている、幽霊メイドのレイアと申します」
……そう言って彼女は、にっこりと可愛らしく微笑むのだった。
◆ ◇ ◆
「申し訳ありません。ずいぶんと驚かせてしまったようですねぇ……」
「いやすまない、幽霊なんて初めて見たものだからなぁ……」
衝撃の出会いから数分後、俺たちは魔城の中にある客間へと通されていた。
禍々しい城の外観に比べて、内部は普通に綺麗で豪華だ。絵画や置物などもいくつか並んでおり、住まう者の目を楽しませようという工夫がなされている。
だが、魔物たちのほうは内装に目をやる余裕はなさそうだな。レイアのことを少し警戒した目で注視している。
特に気の弱いゴブリン軍団なんて、レイアが幽霊だとわかった瞬間に『ひぇーッ!?』と悲鳴を上げて失神しかけて以来、揃ってビクビク震えながら俺の背中に隠れているくらいだ。
「あはは、嫌われちゃいましたかねぇ……」
少しだけ寂しそうに笑うレイア。
……一応、幽霊こと『ゴースト』も魔物の一種とされている。
未練を残した人間が生まれ変わった存在なのだそうだが、しかしその在り方はもはや災害に近い。
なにせ完全に理性を失くしており、無差別に呪いなどを振りまくそうだからなぁ。魔物的にも恐ろしい怪物なわけだ。
だが今のところ、レイアからはそういった面は見られなかった。
ちゃんと話もできるし、ちょっと透けかけてて周囲に青い火の玉が漂ってるくらいで、普通の女の子って感じだ。
ならいいか。
「えとっ……エレン様も、わたくしのこと怖いって思います……?」
「いや、いま慣れたから大丈夫だ」
「って慣れるの早いですね!? さ、流石は『魔の紋章』の適合者様……!」
俺の言葉に驚きつつ、レイアは「よかったぁ」と安心した表情を浮かべてくれた。
うん、やっぱり普通の女の子って感じだな。
彼女の害意のなさが伝わったのか、仲間たちも段々と警戒を緩めている様子だ。
――さて、それじゃあいい機会だし、彼女にいくつか質問していこうか。
「なぁレイア、色々と知っている様子だから聞かせてほしい。そもそも、『魔の紋章』っていうのは何なんだ?」
そう言って俺は、手の甲に刻まれた未知の紋様をレイアに見せた。
彼女はわずかに目を細めながら「なつかしいですねぇ……」と呟き、俺の質問に答える。
「端的に言いましょう。――それはかつて世界を征服しにかかったという、『魔王』の力です」
「っ……!」
驚くのと同時に、“やはり”という思いがよぎった。
絆を結んだ『魔物』を強くし、さらには『王』に相応しいような城まで呼び寄せる紋章なのだ。
その出所が魔王というなら、むしろ納得したという感じである。
「その、魔王はどうして俺にこの力を? どこかで生きているのか?」
「……いいえ、彼女はすでに死んでいます。
しかし魔王は死に際、『自分ともっとも精神性の近い人間』に自身の力を移す呪いを残していきました。
すなわち、心から魔物を愛せる人間へと……」
「そうか、それが俺ってわけか……!」
伝承曰く、世にはびこる魔物たちは魔王が生み出した新種の生命たちらしい。
すなわち魔王にとっては息子や娘みたいなものだ。そりゃあ愛していたことだろう。
そして俺もまた、両親を殺された孤独の中、唯一親しく接してくれた魔物たちのことを家族のように思っていた。
そうした共通点から、俺は『魔の紋章』に選ばれることになったってわけか。
そこまでわかったところで、シルバーウルフのシルやサラマンダーのサラたちがなぜか『むふーッ!』と誇らしげに胸を張った。
『フフンッ、エレンを後継者に選ぶとはわかっているじゃないか魔王よ! 流石は私たちのご先祖様だ!』
『フンッ、そこのワンコロに同意するのは癪だけど、私も同じ気持ちよ。死んでるくせにいい判断をするじゃないの魔王様!』
仲良く『ナイスジャッジッ!』と笑顔を浮かべる仲間たち。
てかどうでもいいけどサラって、シルのことをワンコロ呼ばわりして警戒している割にはいつも同意見だよなぁ。
「うふふっ、みなさんエレン様のことが大好きなんですね~」
そんな愉快な仲間たちを見て、レイアはほっこりとした笑みを浮かべるのだった。
「(――ああ、そういえばさっき気になるところが一つあったな)」
伝承では魔王は男とされているが、レイアのやつ、さっき魔王を『彼女』って呼んでなかったか……?
『更新早くしろ』『ホント更新早くしろ』『止まるじゃねぇぞ』『毎秒更新しろ』
と思って頂けた方は、最後に『ブックマーク登録』をして、このページの下にある評価欄から評価ポイントを入れて頂けると、「出版社からの待遇」があがります! 特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!
↓みんなの元気を分けてくれ!!!