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78:最悪の結末




『神殺しのフェンリルが、魔物だった……?』


 ヘラの言葉に、先ほどとは違ったどよめきが魔物たちに走る。

 俺も同じく驚いていた。

 悪魔・フェンリルといえば、それこそ天使を全滅させてしまった存在だ。それほどの力を持った人外が、まさか魔物だとは。

 ちなみに、


「……おい待てヘラ。とある女性を女神ユミルが孕ませたって言ってたが、ユミルって女神なんじゃないのかよ?」


「ンなもん神なんだから『生やす』ことだって出来るわよ、フフン」


「フフンじゃねーよ」


 なに誇ってんだよお前は。全然誇れることじゃないだろソコ。

 ジト目を向ける俺を無視し、天使ヘラは再び忌々しそうな表情を浮かべた。


「禁忌の子、フェンリル。最初はユミル様でさえ、アレを自分の子だとは信じなかったわ。

 性奴隷の女がそこらの犬と交わって産んだのだと思って、女を殺してフェンリルを森に捨て去った」


 ――だけど、と。ヘラは言葉を続ける。


「人間どもを犯している内に、他にも妊娠する者が現れ始めたのよ。

 そこでようやくアタシたちは気付いた。ヒトと神の間にも、極低確率で命が芽吹くんだってねぇ」


「それが、魔物だな」


 俺の言葉にヘラは頷く。

 彼女は魔物たちを睨みながら、「その発見が遅れたこと。それが一度目の失敗よ」と呟いた。


「そして二度目の失敗は、生まれ落ちた魔物たちを奴隷として生かしてしまったこと。

 天使の血を引くだけあってチカラはそこそこ強いからねぇ。大地を耕させるなり、神殿やみやこを作らせるなりしてたわぁ」


「……神話では、人間がやってきたとされることだな」


 本当は魔物にやらせていたのかよ。

 人間は性奴隷で、魔物は労働奴隷だったと。なんだそりゃって話だな。


「最低だな、お前ら」


「黙れよ肉便器が。

 ……そうやって、アンタたちを犯して鞭打って優雅に暮らしていた日のことだったわぁ。ある時、森から一人の男がやってきたのよ。銀の狼の頭を持った、半獣半人のバケモノがね」


 それこそがフェンリルであり――そして全ての終わりだったと、天使は身体を震わせた。


「ヤツは強かった。数体の天使を拳一つで抹殺し、アタシたちを恐怖のどん底へと突き落としたわ。しかも……」


 奴の視線が、俺の右手に注がれた。

 魔物の力を高める刻印『魔の紋章』へと。


「フェンリルには異質な能力があった。他の魔物を強化し、進化させ、果てには新たな魔物を生み出してしまう力がね」


「なんだと……ッ!?」


 それって、『魔の紋章』が与えてくれた能力と同じじゃないか……!

 俺はまだ出来ないが、初代魔王のレイアは魔物を好きに創り出せたそうだ。ゆえに彼女こそ魔物の始祖と思われていたんだが。


「まぁ、今思えば不思議なことでもなかったわよ。なぜならフェンリルは女神ユミルの血を引いた子。ユミル様がアタシたち天使を好きに創造できるのだから、その息子が魔物を生み出せてもおかしくはなかったわ。魔物とは『出来損ないの天使』とも呼べる存在なわけだし」


「……それで?」


「それで――あとはもうおしまいよ……!」


 苛立たしげにヘラは吐き捨てた。

 それからはもう、女神の軍勢は酷いものだったらしい。


「フェンリルは本当に強かった。神話にある通り、女神に匹敵するほど強かった。ヤツ一人にさえ多くの天使が蹂躙された。

 さらにはそれだけじゃあなく――エレン・アークス、お前と同じよ。ヤツには仲間から愛される才能と、周囲を奮い立たせるカリスマ性があった。『虐げられることなき世界を創ろう!』と叫びながら、奴隷だった魔物や人間を軍勢に加え……そして天使は全滅したわ」


「それが、ユミル神話の真相か……!」


 俺は胸が熱くなるのを感じた。

 悪魔・フェンリルは残虐で悪辣な謎の存在で、目的もなく女神たちを抹殺したとされていた。

 しかし、今なら彼の気持ちがわかる。どうして神の軍勢に挑んだのか理解できる。


「フェンリル……きっと俺と同じだったんだな……」


 忌み子として生まれ、自分たちが差別される世界に涙して。

 だがそんな時、抗うチカラを持っていると知った。苦しむ同胞たちを救い、残酷な圧制者たちに対抗できる能力があることに気付いた。

 そして――勇気を振り絞って、立ち上がることを決めたんだ。


「チッ、はしゃいでんじゃないわよニンゲンが。……まぁ、それからは最高に面白いんだけどねぇ~……!」


「なんだと?」


 そこで、ヘラは不意に表情を変えた。

 苛立たしげなモノから、道化のようなふざけたモノへと。


「最終的に、あの狼はユミル様さえ追い詰めたわ。だけど、ウチの女王はタダで負けるような女じゃないのよねェェェ……!

 最期は全ての血肉と神気を燃料に変え、惑星全土を巻き込む大爆発を果たしたのよ――!」


「は……!?」


 な、なんだそれはッ!?

 そんなことをしたら全生命が滅んでしまうじゃないか!

 女神ユミルは何を考えて――……、


「いや、まさか」


 そこで俺は気付いてしまった。

 天使は全滅したというのに、ヘラは千年前から活動しているという矛盾に。

 人間の身体で生き続けている不条理に。


「待てよヘラ……千年前の神話の大戦では、たしかにユミルとフェンリルは相打ちになったとされていた。最終的には数名の人間しか生き残れなかったとあった」


「えぇ、正解よ。最後の瞬間、フェンリルは手近な人間を抱きかかえて守り、ユミル様の爆発をモロに受けて滅んだわ。地上には数名の人間だけが残った」


「じゃあ――お前は何で生きている?」


 その問いかけに、ヘラの口元がニィイッと歪んだ。

 この世全ての邪悪を詰め込んだような表情で、ヤツは言い放つ。


「そんなのは簡単よォ。この『むくろの天使ヘラ』様は、人間の死体に憑依できる能力を持っていたからよ……!」


 そして、


「全ては、女神ユミル様の計画だったわぁ。

 お優しいフェンリルの性格を読み、人間に憑依したアタシをヤツの側に近づかせた上で、大爆発を起こした。

 かくしてフェンリルは作戦通りに死に――アタシと少しの人間だけが残った」

 

 “あとは神話も歴史も捏造し放題よん♡”

 

 そう笑う天使を前に、俺は堪らず斬りかかった――ッ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな胸くそ悪いやつ、良く思いつきますよねぇ(笑) 感情がぶん回される分、お話としては面白いです。たま~に少しつらくなりますが(苦笑)
[一言] とりあえず胸糞悪しぎて吐きそうな敵は、56すなんて許さず、生かして永遠に奴隷で使いたい。
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