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77:始まりの魔物




『自分たちの正体が、人間……?』


 ざわめく声が聖堂に響く。

 魔物たちが戸惑うのも当たり前のことだった。

 彼らにとって、人間とは最大の敵なのだから。これまで彼らは人間たちに虐げられ、迫害されてきたのだから。

 だというのに――『初代魔王』レイアによって生み出されたという起源を否定された上、天使から人間扱いされたのだ。その衝撃たるや計り知れないだろう。

 ショックを受ける魔物たちに、天使ヘラはさらに言葉を続ける。


「人間たちがユミル様やアタシたちの性奴隷だったって話は聞いたでしょう? ンで、アンタたちがデキちゃったってわけ☆」


「ッ、デキちゃったって……」


「えぇ、言葉通りの意味よ。女神や天使に犯された結果、極一部の人間が、種族の壁を越えて子を孕んだ。それが、魔物よ」


 ――だから半分は天使とも言えるわね☆ と。ヘラは彼らの気も知らないで笑った。

 その無神経さに腹が立つ。それに、流石に今の話を真に受けることは出来なかった。


「……ちょっと待てよヘラ。魔物たちの容姿を見てみろよ。

 魔人に進化した者ならともかく、それ以外のヤツはデカかったり小さかったり動物みたいだったりブヨブヨしてたり……人間にも天使にも似つかないじゃないか! でたらめなことを言うなッ!」


 そんな俺の言葉に、『そうだ!』と魔物たちが叫ぶ。

 そもそも彼らがヒトに虐げられてきた理由の一つ。それは見た目のグロテスクさにあった。

 俺からすれば可愛い奴らばかりだが、多くの人間たちにとっては醜悪に見えてしまうらしい。


「人間はお前らの似姿なんだろう? つまり、どちらにも似てないということは、今の話はでっちあげで……」


 ――そうした俺の主張を、天使ヘラは一言で否定する。


「天使バルドル」


「ッ……!?」


「エレンくんに魔物の子らよ。アナタたちは見たでしょう? ポルン・ペインターという粗悪な人間と、『聖遺物』――天使の遺体が交わることで生まれた、醜悪なバケモノを」


 ヘラの言葉に、先ほど倒した存在を思い出す。

 たしかに天使バルドルは気持ちが悪かった。巨大な肉団子から翼の生えた、意味の分からない容姿をしていた。

 だが……目を背けていたことだが、そのような姿の生命には覚えがあるかもしれない。


「たとえば、スライムよ。さっきまでアタシの人形に追われていた子は美少女だったけど、元々あいつらってドロドロしてて意味わかんないでしょ? それとさっきのバルドルの何が違うっていうわけ?」


「それは……」


「否定できないでしょう? つまりはそういうことよ。

 人間とアタシたちが子を作るとね、遺伝子が正確には違うせいか、まさに『禁忌』って感じのグロい赤ちゃんが産まれちゃうワケよ」


 ――それが魔物だと、再びヘラは言い放つ。

 もはや俺たちに反論の言葉などなかった。


「天使バルドルがあんな形で復活しちゃったのも、そーいうことよ。

 ポルンの遺伝子適合率はFランク。実はそれでも一年に一人の逸材なんだけど、まぁそれくらいじゃあグロ生物になっちゃうわよねぇ~。バルドルくん、ホントはイケメンなのに残念っ!」


 ……ケラケラと笑う天使の声がやかましい。

 人間が性奴隷だったという事実だけで、俺の心は怒りと不快感でいっぱいだ。

 それに加えて、魔物たちがその子供だと?

 つまり彼らは……お前たちが命をもてあんだことで、この世に生まれたということじゃないか。


「最悪すぎる起源を、悪びれもなくベラベラと……!」


 天使という名の強姦魔を抉るように睨み付ける。

 魔物たちの気持ちを考えたら、怒りでどうにかなりそうだった。

 

 ――と、その時。

 

「怒ってくれてありがとう、エレン」


 肩に優しく手が置かれる。

 気付けば俺の隣には、愛する仲間・シルが立っていた。


「シル……」


「真実なんてどうでもいいさ。種付けしただけのクズどもなど知ったことか。

 ――わたしたちの起源は、いつだっておせっかいで周囲を気遣ってばかりな、メイド服の少女だと信じているからな」


 彼女の言葉に、ハッと魔物たちが目を見開いた。

 そうだ、その通りだ……と呟く声が聞こえる。それは次第に大きくなっていき、やがて確かな叫びとなった。

 誰もがくだらぬ戸惑いを捨て去り、『そうだッ! レイア様こそ我らが母!』と、天使に向かって言い放った――!


「チッ……産まれ損なった奇形児共が……!」


 そんな魔物たちの様子に、ヘラの表情が大きく歪んだ。ニヤついてばかりだった口元を結び、二色の瞳に強い怒りを滾らせる。

 なるほど……どうやら俺に罵られるより、魔物たちから噛み付かれるほうが効くようだ。

 それもそのはずか。コイツ曰く、魔物たちは半分天使でもあるそうだからな。種族が違う人間より、血の繋がった劣等種にコケにされるほうが心にくるか。

 天使ヘラは、火付け役となったシルを激しく睨み付けた。


「狼の魔物がアタシの前に立つんじゃないわよ……フェンリルのクソ野郎を思い出すじゃないの……ッ!」


「フェンリルだと?」


 悪魔・フェンリル。

 神話曰く、“突如としてこの世界に誕生し、天使たちを八つ裂きにして女神を殺した謎の存在”とされている。

 天使の本性を知った今ならフェンリルグッジョブと言いたいところだ。

 そんな彼(?)の名前が、どうしてシルを見ながら出てくる?

 

「ああ、そういえば容姿は伝わってなかったわねぇ。悪魔・フェンリル……狼のような頭とヒトの身体を持って生まれたバケモノであり……そして……」


 天使ヘラは、心底面白くなさそうな表情で俺たちに告げた。


「ヤツこそは――女神ユミルがとある女を孕ませて産ませた、『この世で一番最初の魔物』よ」


 


ヤればデキる

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― 新着の感想 ―
[一言] 下半身捨てた男性・・・・謎の既視感があるな。
[良い点] フェンリルグッジョブ! [一言] 天使も神もクソ野郎だった件。 俺が許す。〇せ。
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