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74:侵攻開始




 ――子供の頃。俺は、何にも成れずに死ぬんだろうなぁと思っていた。

 辺境の街、ペインターの地でこき使われて。迫害されて。

 数少ない魔物たちと慰め合いながら、生涯を終えるんだと諦めていた。

 

 しかし。

 

「人生ってのはわからないもんだなぁ。まさか、王都を観光できる日が来るなんて思わなかったよ」

 

 そんなのんきなことを呟きながら、俺は眼前の都へと目を向けた。

 そう。天使との戦いから小一時間、強化された身体能力で突っ走りまくることで、ついに華の首都へとたどり着いたのだった。

 中心に見えるお城が立派だ。年季が入ってそうなところが風情を感じてとてもいい。

 ウチの『魔城グラズヘイム』なんて、黒くてビカビカしてて威圧感マジやばいからな。

 凶悪時代のレイアの殺意がバチバチにデザインに込められてるもんだから、風情とかゼロだ。ビーム出るしな。


「さて、それじゃあさっそくお邪魔したいところだが……」


『くっ、来るなァーーーーーッ!』


 恐怖に満ちた声が響く。

 どうやら都会の人間たちは田舎者に厳しいらしい。

 栄えある王都の前には、数千もの兵士たちが詰めかけていた。

 どうやら死体人形ではなく生身の人間たちみたいだな


「ぉっ、お前がエレン・アークスかっ!? これ以上、王都に近づこうものなら……!」


「近づこうものなら、どうなるっていうんだ?」


 兵士長っぽい人に尋ね返しながら、俺は一歩踏み込んだ。

 ――その瞬間、背後で大地がずしんと揺れる。

 俺の一歩に合わせ、進化を果たした五千の魔物たちが踏み込んだからだ。

 その中にはトロールのトロロのようにメチャクチャでかくなったヤツもいるからな。ただ歩くという動作一つで、敵の何割かが竦んでしまう様子が見えた。


「言っておくが、俺たちに悪意はない。ただ王城を襲撃して国王と側近をぶっ殺したいだけなんだ」


「悪意バチバチではないかッ!? そんなことを言われて引き下がれるかァッ!」


 涙目で叫ぶ兵士長っぽい人。軍勢の先頭に立ち、剣を構えた。

 いやマジでラグナルとヘラ以外は傷付ける気はないんだが。

 だから退いてくれると嬉しいんだけど……まぁ無理か。


「立場があるっていうのは辛いよな。俺も最近『魔王』なんてものになったからわかるよ」


「うぅぅ……お前なんかにわかってほしくないわぁぁぁ……!」


 剣を握る手がガタガタと震えている。

 腰も完全に抜けており、あれでは藁すら切れないだろう。

 されど逃げ出すことはしない。泣き濡れた目で真っ直ぐにこちらを睨みつけてくる。


「アンタ、立派だな」


 そんな兵士長(仮)の雄姿に、俺は敬意を込めて――、


「ならばこちらも、『全力』でお前を討ち取ってやろうッ!」


 そう叫ぶと、俺は一瞬で彼に近づいて拳を繰り出した。

 為す術もなくブン殴られる兵士長(仮)。彼は「ぐへええええええっ!?」と絶叫を上げながらぶっ飛んでいき、後方にいた部下たちの多くをボーリングのように弾き倒した。


「さぁ、他に死にたい奴はいるか!?」


『ひッ!?』


 完全に固まる兵士たち。

 誰も兵士長(仮)の二の舞にはなりたくないらしく、ひと睨みすれば自然と道を開けてくれた。

 俺は仲間たちを率い、堂々と王都へと歩いていく。


 ――そんな俺に対して、背後にいたシルが微笑んだ。


「なにが全力だ、このお人よしめ~」


 ニヤニヤと笑いながら兵士長(仮)に目を向けるシル。

 彼は多くの部下たちから心配されながら、ビクンビクンと痙攣していた。


「ふっ、あれなら数時間は目覚めないだろうし、ヤツを責める者もいないだろう。我が飼い主様(マスター)が本当に全力だったら、今ごろ命すらなかっただろうに」


「さぁて、何のことだかな」


 シルへと微笑み返しながら、俺は今一度覚悟を決める。

 いよいよ最終決戦だ。スクルドのためにもラグナルを倒し、そしてヘラの野郎から『天使復活』の秘密を聞き出してやる。

 その果てに――。


「ニダヴェリール王国を陥落させ、俺たちの国を手に入れるぞッ!」


『オォオオオオオオオッ!』


 声を上げてくれる仲間たち。彼らの存在が最高に頼もしい。

 俺は気合いを入れなおすと、ついに王都へと踏み込んだのだった――!

 

  

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