68:人魔大戦、勃発
実は9話でちらっと出てた、ジェノサイドセブンスレーザー・・・!
「え、え、エレン・アークス……っ!」
ガタガタと震えているポルン。まさかこんなところで会うことになるなんて思わなかった。
ていうか、どうしてコイツが新王ラグナルの軍を率いているんだ? 領民を捨てて真っ先に逃げた男のはずなんだけどなぁ。
「先ほどの光は、貴様が放ったのか……!?」
「【ジェノサイド・セブンスレーザー】のことか。いいや、正確にはアレが放ったものだよ」
親指で俺の後ろを指し示す。
そこには、魔王軍の本拠地である『魔城グラズヘイム』の存在が。
「なっ……光線を出す城など、ふざけておる……っ!?」
「ははっ、最初は俺もそう思ったよ」
レイアに城の説明をされた時が懐かしい。
当時のレイアは人間絶滅ガチ勢であった上、特大火力をぶっ放すことに気持ちよくなったために付けちゃった機能だとか。
あの時は苦笑したものだが、もはや笑うことなんて出来ない。
まさか山を吹き飛ばすほどの威力を持っているとはなぁ。土地の生命力を吸収して放つため乱発は不可能だそうだが、それでも十分すぎる切り札だ。
「……『ベルグリシ山』には悪いことをしちまったな。枯れ山とはいえ消し去りたくなんてなかったんだが、俺たちには時間がないからな」
王都で孤軍奮闘しているであろう、スライムのラミィに思いをきたす。
今はとにかく一刻も早く彼女を救出しないといけない。だがそうなれば、『ベルグリシ山』が邪魔になる。
かの大山は西部地方と中央を分ける最大の難所だ。登りきるにも迂回するにも、かなりの時間を取られるだろう。
まぁ俺やシルたちだけなら、ドラゴンに乗せてもらうなりシルバーウルフの脚力を発揮するなりして無理やり踏破できるが、『死骸術師ヘラ』の実力を考えたら、少数での王都侵入は危険すぎる。
ゆえに思いついた策が“コレ”だった。全軍で攻め込むために、『ベルグリシ山』には消えてもらうことにしたのだ。
「さてポルン。そんな俺が、どうしてお前との会話に貴重な時間を割いてやってるんだと思う?」
「な、なに……!?」
狼狽する小男にゆっくりと近づいていく……。
「それは、『信頼関係』を得るためだよ。ラミィを救出後、お前にはラグナルとヘラの下に向かうための案内人になってもらう」
あの二人を殺せば闘争は終わりだからな。
それには、敵地の中を闇雲に探し回るより、少しでも内部の事情を知っている者に先導させたほうがいいだろう。
「まぁ断るのなら殺すだけだが、どうする?」
「ひっ……!?」
黒剣を抜きながらポルンに尋ねる。
先日の領民を置いて逃げた有り様からして、コイツは根っからのクズだ。
それゆえに新王への忠誠心など薄っぺらいものだろう。自身の命が惜しいがために、俺には逆らえないはずだ。
「わっ、わかった! いやわかりましたッ! 言うことを聞くから、殺さないでくださぁい!」
――かくして予想通り、ポルンはペコペコと頭を下げ始めたのだった。
そのあまりにもあんまりな自己保身っぷりに、俺はある意味感心してしまう。
「お前なぁ……まぁいいや。時間もないからさっさといくぞ」
幸い、こいつが率いていた兵士のほとんどは山の破片に圧し潰されて全滅状態だ。ちょうど山脈の前にいたことが仇になったな。
「さぁポルン、王都へ――」
と、その時だった。
残骸の下から『アァアアアアァァッ!』と断末魔のごとき声が響くや、兵士たちが這い出てきたのだ。
手足が欠けた者がいた。内臓が飛び出した者がいた。だというのに、痛みに全く動じることなく、血走った目で俺のことを睨みつけてくる……!
『自立行動モード:最優先殺害対象確認――えレん・ぁあああああーくスぅうー-------ッッッ!』
一斉に駆けてくる兵士たち。全身から血を撒き散らしながら向かってくる様は、極めて狂気的だ。
「っ、こいつら全員、ヘラの死体人形たちか……!」
「わッ――わははははッ!? あぁそうだっ、そういえばラグナル様が言っていたッ! 我らにはどんな攻撃を受けても死なない特別な魔術がかけられていると! 眉唾かと思っていたが、これがそうなのかぁーっ!?」
何を勘違いしたのか、「いけぇ貴様ら! エレンを殺せ!」と再び態度を変えるポルン。
ってコイツ、周囲の連中が最初から死んでることにまるで気付いていないのかよ……!
「もういい、あのアホのことは諦める。それよりもみんなッ、やるぞ!」
『オォッ!』
敵へと踏み込む魔物たち。
かくして五千の魔王軍と約三万もの王国軍による、一大戦争が幕を開けた。
『コロスコロスコスコロスゥウウウウー------ッ!』
白目を剥きながら高速で駆ける兵士たち。
ヤツらの身体能力は驚異的だ。筋力のリミッターが完全にイカれているため、足をバキバキと砕きながら飛びかかってきた。
だが、こちらも負けてない――!
「頼んだぞッ、シルたちッ!」
「あぁ、任せろご主人様よ!」
瞬間、銀色の暴風が戦場に吹き荒れる。
そして斬り裂かれていく死兵たち。その腐りかけた眼球では捉えることも出来ないだろう。
銀の髪をなびかせながら烈爪を振るう、美しい人狼乙女たちの姿をな。
さらに、
「さぁゴブゾーたち、追撃してやれ!」
「了解ゴブ、アニキーっ!」
続けて駆けるは緑の髪の少女たちだ。
容姿は可憐で体躯は小柄。一見すればただの女の子にしか見えないが、彼女たちもまた魔人である(そして男だ)。
人間を超えた速さで敵に飛びかかっていき、手にした鉈やハンマーによって集団で死体人形を解体していく。
「さぁて本番はここからだ。仲間を救うために……そして俺たちの国を手に入れるためにッ! 気合い入れてけよ、みんなッ!」
『オォオオオオオオオーーーーーーッ!』
魔人たちの活躍によって敵の戦線を乱れた。
ならば後はガチンコ勝負だ。全員で暴れて暴れて暴れまくり、王都への道を切り開く――!
「行くぞォーーーッ!」
黒き愛剣を握り締め、俺もまた最前線へと飛び込んでいったのだった。




