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67:破壊の輝き

昨日から寝ずに人形を量産したり、複数の身体を操ったり諜報活動したり敵将を暗殺しようとしたり追跡活動したり王様のメンタルケアをしてる人がいるんですよ……


 


「――さぁ者どもよっ、行くぞ行くぞぉ~!」


『おォおおぉオオオオォォォォ……!!!』


 約三万もの兵士を率い、ポルン・ペインターは野を駆けていた。

 気分はさながら大将軍だ。与えられた馬に鞭を入れながら上機嫌に笑う。


「フホホホホッ! まさかド田舎の領主だった私が、これだけの大軍勢を率いる名誉にありつけるとは!」


 “新王ラグナルに拾われてよかった”と心から思うポルン・ペインター。

 彼はまさしく絵に描いたような小男である。狭量であるがゆえに、大命を頂いたらもう有頂天だ。先陣を切る誉れに目が眩んだことで、ポルンは何も気付けなくなっていた。


『ラグナル様に、勝利ヲ……!』


 ――兵士たちのほとんどが死した人形であることも知らず、ポルンはひたすら駆け抜ける。

 その鈍感さゆえに『死骸術師ネクロマンサーヘラ』から指揮官に選ばれたことも分からず、魔王軍のいる西部地方を目指し続けた。

 

 かくして走ること数時間。とある巨峰に近づいてきたところで、彼は進軍を止めた。


「見るがいい、諸君。これが中央地方と西部地方を分けている、『ベルグリシ山』という山だ。若い時はよく頂上まで登ったものでねぇ~。諸君らにはそんな根性があるかね?」


『……』


 鼻を鳴らしながら自慢話をするポルン。

 しかし相手は脳の死亡した死体人形の群れである。お世辞など言えるわけもなく、無表情で固まっていた。


「ぬぬぬっ、せめて愛想笑いくらいせんかッ!? まったく……まぁとにかく、この山を抜けるのは相当大変だということだ。ゆえに迂回していくが、それでも直線で行くより時間はかかるだろう。きっと諸君らは疲れてしまうだろうねぇ? というかここまでの行軍ですでに疲れているんじゃぁないかね?」


 ……回りくどい言い回しをしているが、要するに自分が休憩を取りたいだけであった。

 されど、将軍たるもの真っ先に休みたいなどとは言えず、『周りが疲れているから仕方なく休むことにしよう』という流れを作りたかったわけである。みみっちいことこの上ない。

 もちろん死体人形たちに、そんな心の機微を感じ取れるわけがないのだが。


『……』


「うぐぐッ……!? やせ我慢などしてないで、疲れてるなら疲れてると言わんかッ! あぁまったく、最近の若い連中は……ッ!」


 年長を立てることも出来んのかといきどおるポルン。

 その怒りは兵士たちだけでなく、山の向こうにいるだろう『黒髪の少年』にも向いた。


「おのれエレン・アークスめッ、貴様こそ生意気なガキの代表だわいッ! 結果的に私は出世できたものの、領地を追い出してくれた恨み……絶対に許さんぞッ!」


 胸によみがえるあの日の屈辱。

 ――かなり自業自得なところがあるのだが、この小男に自己を顧みる殊勝さなどない。

 ペインター領の民衆たちに嫌われたことも全てエレンが悪いんだと決めつけ、山の向こうに大声を上げる。


「待っていろよ黒髪のゴミがァッ! 次に会ったら、全ての兵を貴様にぶつけてブッ殺してやるからなァーーッ!」


 ……あくまでも他力本願に任せ、『自分が殺すッ!』とは言い切らないポルン・ペインター。

 そういうところが駄目なのだと気付かず、彼は馬から降りて休憩しようとしたのだった。

 

 だが――その時。まるでポルンの殺害宣言に返答を返すように、空前絶後の異変が巻き起こる――!


「ぁ……アレ? 山の向こうから、光が……?」


 まるで日の出のように生じる輝き。それが、七つ。ポルンの視線の先へと浮かんだ。

 そして、アレはなんだと周囲に聞こうとした瞬間――ドガァアアアアアーーーーーーーッッッ! という音と共に、ポルンの世界は光に染まった――!


「うぉおおおおおおおおおおおおー------ッッッ!?」


 訳が分からない訳が分からない訳が分からない!

 映る視界は白一色に染め上げられ、聴覚もまた爆発音でイカれてしまった。

 さらには何か巨大なモノが次々と周囲に落ちてくることを感じ、一体何がどうなってるんだとポルンはしゃがんで震え続けた。


「な、なんだっ、なんなのだぁああぁあッ!?」


 こうして怯えること数十秒。やがて光は収まっていき、麻痺していた視覚と聴覚も徐々に機能を取り戻していく。


「ぁ……おわっ、た……?」


 よぼよぼと立ち上がるポルン。

 最初から最後まで訳が分からない現象だったが、とにかく生きていたことにホッとする。

 そして――彼が前を向いた、その時。何が起きたのか全てを理解することになる。


「なッ!? や……山がっ、なくなってるぅッ!?」


 気付いた時には『ベルグリシ山』は、跡形もなく消し飛んでいた。

 後に残るのは焦げ跡のみ。まるで地面を焼いて抉ったかのように、何キロも続く漆黒の道を出来上がっていた。

 さらに、


『ぅァ、ラグナル……様ァ……! 、バンザ、バン……』


「なにがッ――ひぃッ!?」


 ポルンは続けて腰を抜かすことになる。

 背後から聞こえる呻き声に振り返れば、三万の軍勢のほとんどが、巨大な岩石によって押しつぶされていたのだ。

 吹き飛んできた山の破片によるものである。つい先ほどまでポルンは自分が死ぬ寸前だったとわかり、全身の毛穴から大量の汗が噴き出した……!


「ひ、ひっ、ひぃいいッ!?」


 かくして最後に――彼は気付いてしまった。

 山を抉って出来上がった漆黒の道。砂煙の立ち込めるその向こう側より、進軍してきた者たちの存在に……!


「――よぉ領主様、また会ったな」

 

「きっ、貴様は、エレン・アークスゥーーーーーッ!?」


 荒れ果てた地に大絶叫が響き渡る。

 突如として現れた『魔王エレン』と、その背に続く魔物たちの大軍勢を前に、ポルン・ペインターは恐怖で震え上がったのだった。

 

 

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