59:夜闇に響く魔の咆哮
月光すらもが陰るような真夜中。
俺は、ペインターの街の入り口に佇んでいた。
夜風の冷たさは気にならない。それほどまでに、俺はラグナルという男に激怒していた。
――あの男による公開処刑パーティの直後。スクルドは、自殺を図った。
……当然ながら全力で止めたさ。
床に額を打ち付けて死のうとした彼女を羽交い絞めにして、やむなく気絶させることになった。
あの時のスクルド姫の狂乱は忘れられない。
子供のように泣き喚きながら、“私なんかを産んじゃったからお母様は殺されたんだ!”と叫ぶ彼女の姿は、もう見てはいられなかった。
「……俺の両親を殺したケイズに、虐殺を楽しむサングリース。あいつら以上のゴミクズなんていないだろうと思ってたが、まさかあんなヤツがいたなんてな……」
女性を晒し者にして、殺して、それで士気を高めて見せるような最悪の男・ラグナル。
そんな存在がこの世にいることに、俺はもはや溜め息すら出そうだった。
「ハハッ……黒髪の女性を上手く利用した後は、さらに俺たち『魔王軍』を討ち取ってみせることで、絶対的な王として君臨してみせる予定ですってか? ――本当に、ふざけるなよ」
そう呟いた瞬間、俺の周囲に幾人もの銀髪の少女たちが降り立った。
彼女たちは一糸乱れぬ動きで俺の足元に跪いた。
「戻ったか、みんな」
「うむ。シルバーウルフ軍団改め、『銀狼部隊』全員帰還だ」
少女たちを代表し、銀狼の魔人・シルが口を開く。
そう。彼女たちこそ、先日の征服作戦にて進化を遂げたシルバーウルフたちだった。
その全員が音速クラスの敏捷性を誇るという最強の機動部隊だ。
俺は彼女たちに命じ、周辺都市のいくつかを調査してもらっていた。
「で、どうだった? 民衆たちの様子は」
「……どうもこうも、お祭り騒ぎだよ。あのラグナルという男に乗せられ、誰もが『魔王軍を皆殺しにしてやれっ!』『黒髪のゴミ、エレンを殺せ!』と叫び散らしている……!」
シルの瞳が怒りにぎらつく。
さらに彼女に続き、シルバーウルフ姉妹のウルルとウルリーナが不快げに吐き捨てる。
「いやぁ~……本当にムカつきますよねぇ~……。私たちのエレン様が悪役扱いされてることにはもちろん……」
「何より最低なのが、誰も『ラグナルはやりすぎだ!』って言わないことじゃんねー……! 平気でオンナ殺したクソカス野郎を、なんでこいつら持ち上げてんのって感じぃ……ッ!」
唸り声を漏らす少女たち。
他の銀狼たちも同意見らしく、鋭い犬歯を戦慄かせる。
「……怒ってくれてありがとうな、みんな。俺も同じ気持ちだよ。ラグナルのクソ野郎はもちろん、ヤツに踊らされる国民だって許せない」
本当に、価値観が違いすぎて頭がおかしくなりそうになる。
ただ髪色が黒いだけで、殺したってセーフなのか? 王様の妾なんて山ほどいるだろうに、それが黒髪だっただけで晒し者にして斬首していいと? それでみんな盛り上がれると?
……本当に、本当に本当にふざけるなよ……ッ!
「――なぁみんな! こんな王国の存在が、許されるか!? 誰かを差別し、傷付けることで快楽を得るような連中が、お前たちには許せるかァッ!?」
夜天に向かって吼えるように問いかける。
その瞬間、夜闇に隠れていた家の一つに、篝火が付いた。
そして、また一つ。さらに一つと明かりが付いていき、数瞬にして何百もの火が闇の中に咲き誇る。
『ンなもん許せるわけがねぇッ!』
『全員ぶん殴って矯正してやらぁッ!』
『スクルドちゃんの事情、聞いたぜぇ大将ッ! オレもやってやるぜぇー!』
ああ――振り返ればそこには、天井の上で松明を手に滾っている、千に近しい魔物たちが……!
「ありがとうッ、お前らッ! あぁそうだよなぁ、許せないよなぁッ!?」
頼れる仲間たちに心からの感謝を。
そして国中に蔓延る歪み切った人間たちに、心からの侮蔑を送る。
「魔王軍をッ、俺たちを討つッ!? 上等じゃねぇかッ、よく吼えた! だったらコッチは、逆に連中を喰うまでだァーーーーーーッ!!!」
『ウォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!!!』
夜闇に響く魔の咆哮。
俺は魔物たちと共に叫びながら、遥かな王都を睨みつけた。
「……あぁラグナル、お前は言ったな? 国家を上げて俺たちを討つと……!」
国中からヒトと魔物を掻き集めたらどうなるか。
おそらくソイツは地獄だろうよ。何十万もの大兵団が完成し、千の軍勢なんてあっという間に飲み込んでしまうだろう。
だがしかし。
「対して俺は、ここにいる全員だけが国民だッ! ゆえに、足並みを揃える必要もなし。ンなもんとっくに整っているからな」
絶対無敵の何十万もの大兵団。されど、ソレを完成させるにはどうしても時間が必要となるだろう。
しかしてこちらは時間なんて必要ない。
街一つ分の兵力であるがゆえに、すでに集結しているも同然。
さらには国中から敵視されたことで、覚悟も怒りも士気も闘志も、とっくに臨界まで高まっている……!
「さぁお前たちッ! わざわざ敵に合わせる必要なんてないッ! ――今、この瞬間よりッ、全都市に対する征服作戦を開始するぞォーーーーーッ!」
『オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッッッ!!!』
頼れるみんなの叫びを胸に、俺は一気に駆け出した!
真夜中だろうがンなも知るか。騒ぎ疲れて眠りこけている国民どもに、怒りの拳をブチ込んでやろうッ!
街を奪って魔物を取り込み、無限に強くなってやろうッ! 最後は王都を喰らい尽くして、俺たちのモノにしてやるさ……!
「思い知らせてやるよラグナル。俺たちを怒らせたら、どうなるかをなぁ……ッ!」
かくして俺たち『魔王軍』とニダヴェーリ王国との、大決戦が幕を開けたのだった――!
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