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57:真なる邪悪




「かあ、さま……!」


 目を見開きながら崩れ落ちるスクルド。

 そんな彼女を追い打つように、王弟の子・ラグナルは義憤に燃えた表情で叫ぶ。


『この売女ばいたのツラを見るがいいッ! 他者を惑わせるような卑しい顔付きに、そして何より青く深い瞳の色ッ! これらは完全にスクルドのモノに他ならないッ!』


 女性の髪を掴み上げるラグナル。

 ブチブチッと、毛根の引き千切れる痛々しい音が響くのも構わず、彼はスクルドの母親を全国民に見せつけた。


『嗚呼、オレは悲しいッ! 亡き国王がこのような女に惑わされていたという事実がッ!

 そして何よりオレは悔しいッ! 第一王子スクルドが……黒髪のゴミの血を引いたカスがッ、王族として諸君らの血税を貪り喰っていたことがッッッ!』


 こんなに怒れることがあるだろうかッ――そう叫びながらラグナルは拳を震わせた。


「あい、つ……!」


 俺にはわかる。アレは十中八九、民衆を扇動するための演技だ。

 声も、表情も、手付きも、まるで全てが嘘くさい。


 ああ、だがしかし。

 “税を捧げていた王族に、黒髪の子が紛れていた”という事実を前に――、


『――ふざけるなッ!』


 次の瞬間、見知らぬ者の声が響き渡った。

 ソレを皮切りに、様々な怒りの声が大陸中に木霊こだまし始める――!


『なんだよそれって!?』

『ウチらの金は黒髪のゴミに吸われてたってことかいッ!?』

『ふざけんじゃねぇぞオラァーーーッ!』


 大爆発する怒号の嵐。

 発生源は、ラグナルの巨大像の向こう側だ。

 おそらく、アイツのいる王都の民衆たちが叫び散らしているのだろう。その声を、狂える義憤を例の魔宝具が拾い上げているのだ。


『あぁ感じるぞッ、皆の怒りを! このラグナルも同じ気持ちだ! 我らは愚かな前王とッ、王家に寄生した黒髪の母子に騙され続けてきたのだァーーーッ!!!』


 ラグナルの言葉に、人々の雄叫びも激しさを増す。

 まさに楽団の指揮者がごとく、男は怒りの大合唱を王国中に届かせていく……!


「ッ、こうなったら次のラグナルの演出は……まずいッ!」


「えっ……?」


 俺は咄嗟にスクルドを抱き締め、呆然としている彼女の両目を覆おうとした。

 だが、それに先んじるように――ッ、


『嗚呼ァアーーッ人々よッ! 皆の憎しみは受け止めたァアアアーーーーーッ!』


 そして、ラグナルは腰の剣を引き抜くと――!


『この刃こそ皆の怒りの結晶だッ! さぁ人々よ刮目せよッ、正義の刃が悪を斬り裂く瞬間をーーーーーーーッ!!!』


「や、やめろォーーーーーーーーッ!」


 かくして――どこまでも赤い鮮血が、俺たちの眼前に飛び散った。


「え……ぇ……?」


 事態に追いつけず、固まり続けるスクルド。

 彼女の青く美しい瞳に、切り飛ばされた母親の生首が反射する。


 こうして……彼女の首が宙を舞い、やがて大地に叩きつけられた……その瞬間。


『ゥ――ウォオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーッ! ラグナル様バンザァアアアアーーーーーーーーーーーイッ!!!』

『やっ、やったァアアアーーーーーーッ! ラグナル様が黒髪のゴミをってくれたゾォオオオオーー--!!!』

『断罪に感謝をォオオオオッ! 貴方こそ真の王族だァーーーーーーッッッ!!!』


 ……弾けるように沸き立つ歓声。全大陸に響く、歓喜の叫び。

 まるで心から素晴らしいことがあったように――血を噴き続ける女性の首なし死体を前に、民衆たちは大いに喜び、殺人者ラグナルの存在を褒め称えた。


「ぁっ、あぁぁあっ、母様ぁぁあああああああー--------ッ!?」


 そして木霊するもう一つの声。

 脳が現実を理解した瞬間、スクルドは狂ったように泣き叫んだ。

 されど……親を殺された彼女の叫びは、その何十万倍もの国民の歓声に搔き消される……!


『ワァアアアアアアアアアアアアアアッ、ラグナル様ァアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!』


『ありがとうッ、ありがとうみんなッ! みんなの正義の怒りによって、国家の邪悪を打ち払うことが出来たぞぉおおおおー------!!!』


 人々の想いに応え、血濡れた剣を振り上げるラグナル。

 その姿は、まさに邪悪な魔物を討った物語の英雄のようだ。

 

 だが、しかし……。



「…………は?」



 ――ラグナルの称えられる様に、俺は静かにブチ切れた。


「なんだ……これは……?」


 魔物でもなければ戦士でもない、ただのやつれた女性を殺して、なんでアイツは褒められているんだ……?

 俺の側ではその女性の娘が泣き叫んでいるというのに……なんで民衆は、馬鹿みたいに喜んでいるんだ……?


 訳が分からない。訳が分からない。

 アイツらの感性と神経が、まったく理解できなくて気持ち悪い。

 あまりにも冒涜的すぎて、怒りと殺意が止まらない……!


「人の命を、何だと思ってやがるんだ……ッ!」


 怒りのあまり、噛んだ奥歯が砕け散った。

 口の端から血を垂らしながら、俺はラグナルを睨みつける……!


『ハハハハハハッ! あぁ人々よ、正義の心に溢れたキミらに、重ねてオレから手厚い感謝を!』


 俺とは真逆に、心からの笑顔を浮かべるラグナル。

 その言葉の裏が手に取るようにわかる。

 アイツは今、“愉快に踊らされてくれてありがとう”と、民衆に対して嘲笑混じりの感謝の念を吐いてやがる……!


 ヤツこそまさに、真の邪悪だ。

 国民たちもまた気に食わないが、スクルドの母を見せしめに殺したアイツこそ、最も討つべき最悪の敵だ。


 ――そして、この最低な方法で盛り上がった勢いをヤツが無駄にするわけがない。

 ラグナルは咳ばらいを一つすると、民衆たちへと高らかに叫ぶ。


『諸君ッ! 国王亡き今、第一王子であるスクルドが王となる手筈だ! だがしかしッ、そんなことは当然許してはならぬだろうッ!?』


 大仰な手ぶりをするラグナルに、“当たり前だ!”という声が返ってくる。

 それに一つ頷くと、ヤツは拳を掲げて叫ぶ。


『あぁそうだッ、黒髪の血筋などに玉座を渡してはならないッ! ならばこそッ――オレは誓おうッ!

 このッ、ラグナル・フォン・ニダヴェリールこそが、新たな王になることォオオオーーーーッ!!!』


『オォオオオオオオオオオオーーーーッ!? ラグナル様ァアアアアーッ!』


 ――まさに、予定調和の劇だった。驚くまでもなく予想通りだ。

 人々は歓声を上げているが、俺からしたら酷く冷めた気持ちにしかならない。

 ヤツは人々に心から受け入れてもらうために、この最悪のシナリオを創り上げていたのだろう。


『ありがとうッ、ありがとうみんなー-----っ!』

 

 かくして、王に着いたならば。


「なぁラグナルよ……!」


 抜け目ないお前ならば……人々の心をさらに一致させるために、すかさず『目標』を打ち出すはずだろう……!?


『――さてさてさて! では王となって早速だが、諸君らに申し上げねばならぬことがあるッ!』


 そしてラグナルは、雄々しい表情で全国民に向かい……、


『今、ペインターの地は「魔王」を名乗る黒髪の男に支配されているというッ! よってオレは、国家を上げての指令を出そうと思うッ!

 その黒髪の男――エレン・アークスの抹殺をなぁァー----ッッッ!!!』


『オォォォォオオオオオオーーーーーーーッ!!!』


 高らかに俺の名を叫ぶ国王と、祭りのごとく沸き立つ民衆たち。

 かくして放たれた殺害宣言を前に、


「……上等だ。全員まとめて、殺してやるよ……ッ!」


 俺は、殺意に心をざわつかせたのだった……!

 






・このラノにブレスキと黒天の魔王出てます!!!!

よろしくねー-----!

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