50:馬 鹿 ロ リ 軍 団 誕 生
『あ、魔王様だ! おはよーございまーす!』
「おうおはようっ!」
魔物たちと挨拶を交わしながら散策を続ける。
とても快適な気分だ。こんな風に街を歩けるようになるなんて思わなかった。
かつては『黒髪のゴミ野郎』と街中の人々に罵られ、いつ誰に石を投げつけられるかわからなかったからなぁ。
それゆえ、鼠のようにビクビクと隅っこを歩いていたのだが……。
「太陽が眩しいや。表通りを普通に歩けるようになるだけで、こんなに気持ちがいいんだなぁ……」
降り注ぐ陽光の温かさが心地いい。
征服できてよかったと心から思う。
追い出してしまった街の連中には悪いが、おかげでとても快適な気分だ。
道をすれ違う魔物たちも、重労働から解放されて今はのんびり過ごしていた。
「この平和が続くように頑張らないとな……。よしっ、散策が終わったら今後について会議しよう!」
むんっと拳を握って気合いを入れる。
新人魔王の俺だが、相談役に初代魔王のレイアがいるからな。
それにハウンドドックのハウリンなんかも頭いいし、みんなには思いっきり頼らせてもらうつもりだ。
「仲間の総数も千体近くなったんだ。これを機に、参謀とか隊長とか役職を決めるのもいいかもなぁ……! いよいよ本格的に魔王『軍』っぽくなってきたぜ!」
――そうして俺が未来の魔王軍に思いを馳せていた時だ。
不意にドタドタドタドタッと足音を立てながら、赤いボディが俺に向かって飛びかかってきた!
『うぇええええええええんッ! エレンーーーーーーーーッ!!!』
「うわぁっ、サラッ!?」
泣きながら現れたのは、サラマンダーのサラだった!
いきなり抱き着いてくるサラ。体温の高いやわらかトカゲボディが気持ちいい。彼女は恥ずかしがり屋なので、思えばこうして抱き合ったのは子供の時以来かもしれない。なつかしいや。
……って思い出に耽ってる場合じゃねえやッ!
「どうしたんだサラッ、なんで泣いてるんだ! 誰かにいじめられたのかっ!?」
『うッ、うぅぅう……ちがうけど……ちがうけどぉ……!』
サラは俺の胸に顔を埋めながら、ちっちゃい指でズイズイっとやってきたほうの道を指し示した。
するとそちらのほうから、サラに続いて三つの人影が現れて――って、人影!?
街の者たちは追い出したのに……まさか!
「あぁー魔王様じゃないですかー! 見てくださいッ、ウルルちゃん魔人になっちゃいましたぁーっ!」
「あーしも同じく~! どうよ魔王様、ウルリーナってばセクシーになったぁ~?」
俺の前に現れた謎の三人組。その中で最初に声をかけてきたのは、イヌ耳の銀髪美少女コンビだった。
どことなく銀狼の魔人・シルにも似た二人。あぁ間違いない……彼女たちは、シルバーウルフ族のウルルとウルリーナ姉妹だ!
「そっか、二人とも進化したのかぁ……!」
「そーなんですよー!」「ちなみに他にも~」
彼女たちに続き、三人目となる水色の髪の女の子が会釈をしてきた。
そのふわふわとした雰囲気に、ほにゃぁっと柔らかな笑顔は……!
「もしかしてお前、スライムのラミィか!?」
「えへへ~正解だよマスターっ! 人間たちを何人かやっつけたおかげか、朝になったら進化できてたのー!」
元気に手を振り上げるラミィ。
彼女は「魔人ボディでも溶けれるんだよ~!」と言って、手をドロドロとしたスライム状態に変換させた。
おぉ、これはすごいかもだ。どんな隙間からでも潜入し放題だな……!
「あ、ちなみに……」
ふと俺は、シルバーウルフ姉妹とラミィの『胸』の部分を恥ずかしげに見る。
……三人とも顔立ちはまだ十代半ばといった感じなのに、そこだけはかなりご立派なことになっていた。
俺の視線に、彼女たちはエヘヘッと笑う。
「恥ずかしながら、シル姐さんやレイア様には負けたくなくて~……!」
「進化後の姿をイメージする時、盛っちゃいました~☆」
「エレンもふわふわなほうが好きだよね~?」
そう言って、俺のことを熱の籠った瞳で見つめる魔物娘たち。
お、おぉう。要するに、俺を誘惑するために自分たちの第二の姿を決めてくれたらしい……!
「お、お前たち。そんなに軽く一生モノの見た目を決めるのはだなぁ……!」
「「「軽くじゃないから。本気だから」」」
「あッハイ!?」
ガチトーンな声を出す三人娘……!
彼女たちから飛ばされる視線には、『交尾するぞ交尾するぞ交尾するぞ交尾するぞ』という、愛欲に燃え上がる絶対的意思が込められていた……ッ!
ひえっ、犯される! 助けてオースケ、女の子たちの愛が重いよ!
「……と、とにかくサラが泣いている理由はよくわかった。色んな連中が先に魔人になっちゃって、焦っちゃったんだな……」
数日前の夜。シルバーウルフのシルは俺に、『サラが魔人になったら、どっちがエレンの一番になるか誘惑勝負するつもりだ!』と言っていた。
しかしサラ自身はなかなか進化せず、先にゴブゾーやら他の仲間たちが魔人になっていく始末。
そりゃあ涙も出ちゃうだろうなぁ……。
「よしよしサラ……。俺さ、ちゃんとサラが魔人になるまで待つからな? だから泣かないでくれよ……」
涙を指でぬぐい取り、あったかい背中を優しく撫でる。
――だがサラは、なぜかふるふると頭を横に振ると……。
『こ、この三人が先に魔人になったのは悔しいけど、それ以上にぃ……!』
「え?」
サラがそう呟いた瞬間。
遠くのほうの曲がり角から「「「「魔王様たすけてー--ッ!」」」」と泣き叫びながら、謎のロリっこ集団が姿を現した……!
一斉に俺へと縋り付き、ワンワンと涙する女児たち。
「お前たちは……って、その緑色の髪に……とがった耳の形は――!
ま、まさかお前らッ、ゴブリンかぁー---っ!?」
「「「うぇえええー----んっ! ゴブゾーのアニキと同じく、進化中に好みの女の子を妄想しちゃってこうなったゴブゥーーーー!」」」
「ってバッカじゃねーのぉ!?」
……世界一アホすぎる理由で一生モノの姿を決めることになったゴブリン軍団。
そりゃぁこんな奴らに先を越されたら泣くわと、俺はサラのことを改めて撫でたのだった……!