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49:ヤンデレ製造機、エレンくん……!




「――いやぁ、昨日は大変だったなぁ……」


 征服作戦から一日。

 俺は見回りもかねて、朝のペインターの街を散策していた。

 今やあちこちの住居にはゴブリンなどの魔物たちが住み付き、自由に生活を送っている。


 と、その時。


『おぉ~~エレンが歩いてるー! あっ、さまをつけなきゃダメだったかぁあー?』


 ……朝っぱらだというのに、酒場から声をかけてくる者が。

 ただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にしている様子に、俺は苦笑してしまう。 


「おはようオースケ。別に好きに呼んでくれていいぞ~?」


『ガハハッ、そうかそうか! お前は相変わらず偉ぶらないなッ!』

 

 そう言いながら酒瓶をグビグビ飲んでいるのは、剛鬼オーガ族のオースケという魔物だ。

 俺たちが解放した街のモンスターの一体だな。ウチのギルドの魔物ではないが、俺は暇を見つけては街中の魔物に声をかけたりわずかに食べ物を与えたりしていたため、その縁で彼とも面識があった。


『おうエレン、オレぁ魔王軍に加わらせてもらうぜぇ! 国盗り合戦なんざ男として燃えるじゃねぇか!』


「そうかっ、ありがとうなオースケ! お前がいたら心強いよ!」


『ガハハハッ、照れるぜ! あぁちなみに、他の街の魔物たちもみんな魔王軍入りにオッケーしてくれたぜぇー!』


 オースケの言葉に合わせ、酒場の窓から何匹かの魔物が『イェーイッ!』と顔を覗かせてきた。

 どいつもこいつも、色んなテイマーギルドで兄貴分のような立場だった魔物たちだ。

 どうやらオースケのヤツ、ただ酒盛りをしていただけじゃなく、みんなの意見をまとめていてくれたらしい。


『流石にザコッちぃ連中はバトルは無理だっつってたが、それ以外のことで役に立ちたいってよ!』


「そっかそっかぁ……それでも十分ありがたいよ……!」


 街の魔物たちに心から感謝する。

 彼らには昨日、俺たち魔王軍が『魔物が笑顔で暮らせる国』を作ることを理想にしていると話し、一晩じっくり考えてくれと伝えていた。

 ……正直言ってそこまで期待はしていなかったさ。色んな国と戦争になるかもしれない危険性は、みんな理解しているだろうからな。


「やっぱりアレかな。俺が昨日見せた力……あの神様みたいな『支配地編成能力』がインパクトあったのかなぁ?」


『まぁそりゃそうだわな。他にもオメェ、仲間の魔物から能力をパクれたり、仲間を進化させられるそうじゃねーか?

 そんなトンデモ野郎に声をかけられたら、誰だって尻尾ふっちまうよ。――だが』


 オースケは言葉を切ると、俺の顔をジッと見てきた。

 ……彼の鋭い瞳には、確かな信頼と親愛の熱が。


『オレたちは無理やり従うわけじゃねぇ。そのトンデモ野郎ってのが、エレン・アークスっつー「ダチ公」だからこそ、オレたちゃ喜んで尻尾ふってやるつもりなんだぜ!』


「っ、オースケ……!」


 本当に……本当にありがたい言葉を貰ってしまった。

 強大な力を手にした俺だが、それゆえに声をかけた者の心に“従わなければどうなるかわからない”という思いを与えるようになってしまった。

 しかしオースケは“そういう理由で従うんじゃない”と言い切ってくれた。それが何より嬉しい。


『おうッ、つーわけで他の魔物どもの顔も見てこいよ! 愛する魔王様を独り占めにすると、色んな連中から刺されちまうからな~!』


「ははっ、冗談言うなっての! それじゃ、ありがとうなオースケ! 他のみんなも、快適になった街での生活を楽しんでくれよ!」


 愉快なオーガと魔物たちに手を振り、俺は散策を続けることにする。

 よぉーし朝から元気出た出たッ! みんなの顔を見に行くぞぉーっと!




 ◆ ◇ ◆



 ――そして。

 愛すべきエレン・アークスの背中が、完全に視界から消えたその瞬間。

 オースケたちリーダー格の魔物らの目は――地獄の底の炎のごとく、激しく重い色へと染まった……!

 手にした酒瓶をバキリッと握り潰し、オースケはエレンの去っていった方向を強く見つめる。


『アァ……エレン。相変わらずオメェはいいヤツだァ……!』


 彼との思い出に心馳せるオースケ。

 義理堅きオーガは忘れない。昔、“オースケはお酒が好きなんだよねっ! ケイズさんにお願いしたら分けてくれたよ!”と言って、小さなカップに数滴注がれただけの安酒を持ってきてくれたことを。

 そんなエレンの顔には、殴られた跡があった。

 背中には何度も踏みつけられた跡があった。

 まだ幼かった少年は、こんな一口舐めればなくなってしまうほどの酒を得るために――魔物であるオースケのために、命懸けの交渉を行ってくれたのだ。

 あの時の感動を、あの酒の味を、オースケは決して忘れない。

 他の魔物たちも似たような思い出を胸に、エレンの去っていったほうを見つめる。


『……ギルドがちげぇからなぁ。そんな優しいオメェが、クソニンゲンどもに街を追い出されていたって知ったのは、つい昨日のことだった。

 あぁ、アァッ……もっと早くに知れていたら、オレたちもゴミ飼い主どもをブッ殺して、オメェ様のところに馳せ参じたのによォ……!』

 

 そうすれば彼の第一臣下になれたのにと、オースケと酒場の魔物たちは激しく悔やむ。

 だが今さらそんなことを言っても詮無き話。

 ゆえに、


『……ゆえに、これからだッ! これからはオレたちが魔王エレンの敵をブチ殺しまくりッ、跪いた順番じゃぁなく、戦果を持ってあのヒトの一番になってみせるッ!

 国だろうがなんだろうがかかってこいやァアアアアーーーーーッ!』


『オォオオオオオオーーーーーーーッ!』


 咆哮を上げる魔物たち。酒などではなく、エレンへの愛に彼らは酔う。

 かくしてエレンの知らぬところで、重すぎる愛は深まり続けていたのだった……!




・ヤンデレ製造機、エレンくん・・・!

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛が重すぎてもはやヤンデレの領域に片足突っ込んでる
2022/03/13 10:25 退会済み
管理
[気になる点] 自分の読んでる小説は、本作に限らず多忙でここ最近は休載が多い。 無理して投稿されるより、年末年始はそもそも忙しいので、ちょっと早めに休んで欲しい。昨今のいろいろで、予想外の負担があった…
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