4:怒りの覚醒
「はぁ、平和だなぁ……」
草花の揺れる丘の上に寝ころびながら、俺はそんなことを呟いた。
魔物の蔓延る街の外で横になるなんて自殺行為だが、俺の場合は問題ない。
周囲には頼れるシルバーウルフたちが寄り添ってくれているからな。
彼女たちのリーダーである『シル』が、くあぁとあくびをした。
「なぁシル、それにみんな。よかったのか、俺が名前なんて付けても」
シルバーウルフに個体名を名乗る文化などなかったはずだ。
特に人間から名前を与えられるなんて、ペットみたいで嫌だろうに。
しかしシルたちはどうか名前を付けてほしいとせがんできた。
あと、なぜか名字もくれと要求をつけて。
『うむ、エレンにだったら名付けられても構わない! ……ふふふ、シル・アークス……よい名だ……!』
ニヤニヤと笑うリーダーのシル。他の雌狼たちもなぜかそんな感じだった。
「ま、みんながいいならそれでいっか。……にしても、みんなと出会ってからもう一週間と少しかぁ。あれからずいぶん変わったなぁ、俺」
街を飛び出した頃の自分は、完全に自暴自棄に陥っていた。
もしもシルたちに出会う前に飢えた魔物に遭遇していたら、喜んでこの身を差し出していただろう。
――だけど、今は違う。
「みんな、本当にありがとうな。お前たちがよくしてくれるおかげで、俺すっごく幸せなんだ」
『なっ、なにを言うかエレン! わたしたちこそ、エレンのおかげで毎日が幸せなのだぞ!? そもそもお前が助けてくれなかったら死んでいたしなっ』
「ははっ、そっか。じゃあお互いが恩人だな!」
まぁ恩人じゃなくて『恩魔物』なんだけどな。
でも大昔には魔物の上位種である『魔人』なんて存在もいたらしいし、世界のどこかには人間のような魔物もいるのだろうか?
あるいはシルたちも何らかの条件を満たせばそんな存在になったり……?
――まぁいいや。どんなに容姿がかけ離れていようと、みんなは俺の友達だ。
「これからもよろしくな、みんな!」
『うむっ! これからもよろしく頼むぞ~っ!』
そう言ってシルはモフモフの身体で俺に抱きついてきた!
他のシルバーウルフたちも『わたしたちもー!』とぐりぐり詰め寄ってくる。
「こっ、こらこら! そんなに寄ってくるなって!」
『むむっ、もしかしてわたしたちケモノ臭いか!?』
「あぁいや、毛並みがくすぐったかっただけで、むしろ匂いは甘いっていうか……?」
『なっ、甘い匂いが出ていただとっ!? おいみんな、隠せ隠せっ!』
なぜかそわそわとしだすシルバーウルフたち。
はて、体臭が甘いってそんなにおかしいことだろうか?
ギルドで知り合った魔物たちも、女の子はみんなそのうち甘い匂いがしだしたりしてたんだが……?
一体どういうことだろうかと、首を捻った――その時、
「さぁ者ども、あの丘を越えたらいよいよ森に辿り着くぞーッ!」
……突如として、忌々しい声が丘の麓より響いてきた。
「ッ、この声はまさか!?」
俺が身をかがめながら下を覗き込むと、ギルドマスターであるケイズを始めとしたテイマーギルドの連中が登ってきていた……!
彼らは一様に剣や弓矢を装備し、さらに何十頭もの猿のような魔物『ゴブリン』に鞭を打ちながらこちらに向かってくる。
「……まさかあいつら、森を襲撃しに来たのか!?」
そう思い至った瞬間、頭に血が昇るのを感じた。
あいつらにはゴミ扱いされ、散々殴られて追放された。
それ自体はまぁいいさ。俺が歯を食いしばれば済む話だ。
だけど……仲間を傷付けようとすることだけは、許せない。
俺の大切なシルバーウルフたちに手出しなんてさせるものか!
俺は振り向きながら言い放つ。
「みんな、人間の群れがやってきた! 特にギルドマスターのやつは危険だ。どうにか俺が引き付けるから、みんなは逃げ――」
『逃げるものか』
……俺の言葉は、シルの一言に遮られた。
気付けば俺の背後には、シルバーウルフたちがザッと整列していた。
まるで、指揮官からの指示を待つ兵士のように。
「お前たち……」
『わたしたちは逃げないぞ、エレン。ニンゲンどもにこれ以上好き勝手させるものか』
凛とした表情でシルは言い放つ。
その瞳には恐怖なんて感情は一切なかった。
あるのは怒りと、俺に対する親愛だけだ。
『匂いでわかる。ヤツら……エレンが所属していたというギルドの連中だな? お前に対して暴行を振るっていたという、あの……ッ!』
グルルルルッという唸り声が銀狼たちの喉から響いた。
高まっていく闘志と殺意。彼女たちは今、これ以上ないほど怒り狂っていた。
「み、みんな……俺のために、怒ってくれてるのか?」
『当たり前だ! だってエレンは、私たちの大切な仲間なんだからなッ!』
――その一言に、俺は思わず泣きそうになってしまった。
本当に素晴らしい仲間たちだ。こんな者たちを襲うとしているなんて、到底許せるわけがない。
かくして、俺たちの心は一つとなった。
「俺は、お前たちのために戦いたい」
『私たちは、お前のために戦いたい』
ああ、ならばどうする? 決まっている!
「『共に奴らを、ぶっ殺そうッ!』」
――同時に叫んだその瞬間、俺の手の甲に鋭い痛みが走った。
一体なんだと思いながら見てみると、
「っ、なんだ……これ……!?」
そこには、見たこともないような禍々しい紋様が浮かび上がっていた……!
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