48:新たな力
「――ありがとうな、みんな。俺、『魔王』として改めてみんなのことを引っ張っていくよ。だからみんなも、俺のことを助けてくれッ!」
『当たり前だぁーーー----っ!!!』
明るく響く仲間たちの声。悪意と差別に塗れていた故郷に、温かな想いが溢れていく。
嫌な思い出ばかりだったこの街だけど、こんなに素敵な仲間たちとなら、最高の居場所にできそうな気がする。
――かくして、レイアや仲間たちの存在に感謝を捧げた直後のこと。
突如として、脳内に無機質な声が響き渡る。
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・条件達成、『敵陣営が王族の打倒』『敵陣営が人口1万人以上の都市制圧』『王としての真なる自覚』を確認。
紋章の深度上昇と共に、新たな権能を解放します。
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「ッ!?」
そして輝く右手の刻印。
魔王の証『魔の紋章』が鋭く光り、中央に刻まれた数字が『Ⅲ』から『Ⅳ』へと変化を果たした。
それに伴い、またも追加される異形の力。魂に直接書き込まれていく新たな能力の使い方に、俺は右手を押さえながら驚愕した……!
「なッ……“奪った土地の『編成』”だと……!?」
まるで意味が分からない……。使い方だけ無理やり教えられても、脳が概要の理解を拒む。
――そんな俺に“とりあえずやってみろ”とでも言うように、『魔の紋章』より光子が溢れ、大きな光の地図となって表示された。
そこには青く塗り潰されたこのニダヴェリール大陸と、その片隅に二つほどある、ちっぽけな赤い丸が。
どうやらこの二つの赤丸が、ここ『ペインターの街』と『銀狼の森』を示しているらしい。
「う、うぅんと……? 魂に刻まれた情報曰く、支配した場所をタプタプつついてみると……」
試しに『銀狼の森』のほうに触れてみる。すると地図が拡大され、空から見た森の景色が広がった。
その光景にシルバーウルフたちが『ワァーッ、私たちの故郷だぁー!』『鳥から見た景色みたい!』『これどういうことなのー!?』と歓声を上げた。
「なるほど……支配した場所を俯瞰的に見れるのは便利だな。
そしてそもそも『奪った土地』というのは、“敵の王族に所有物として扱われている土地に二週間以上住み付き、その上で敵からの刺客を撃退し続ける”“あるいは敵の居住地に攻め込み、住民の九割以上を殺害・追放する”……これらの条件を満たすことで、その地を『奪った土地』として扱えると」
刻まれた情報を口に出してまとめてみる。
なるほどなるほど。『銀狼の森』は一つ目の条件をクリアし、『ペインターの街』は二つ目の条件をクリアしたことで俺たちのモノになったってわけか。
「ふむ……勝手に山とかに住み付いて“ここは俺のモノだ!”って一人で叫んでも、『奪った土地』にはならないんだな。
まぁ当たり前か。敵から認知されてなきゃ、ただ『隠れ住んでる』だけだもんなぁ……」
そのへんの定義は厳しいらしい。
だが、それを差っ引いてもこの能力は破格だ。
なぜなら俺の新たな能力――その名も【魔王の盤上遊戯】は、奪った土地を俯瞰的に見れるだけでなく……!
「……みんな、少し聞いてくれ! これから大きな地震が起こるかもだから、転ばないように気を付けてな!」
『えっ……!?』
俺はみんなに声をかけると、目の前に表示された光の地図に指を走らせた。
森のほうをタップした後、この『ペインターの街』を指定し、「貼り付け」と唱える。
すると、
『うッ――うわぁああッ!? 本当に地面が揺れ始めたぁああッ!?』
ゴゴゴゴゴゴッッッッと地響きを鳴らし、街一帯が振動を起こす。
驚きの声を上げる魔物たち。だがこの地震は前触れに過ぎない。
本当に驚愕するのはこれからだ。
「さぁ、どうか来てくれ第二の故郷! 魔王としての始まりの場所、銀狼の森よ――!」
かくして次瞬、街の周囲の地面が爆ぜ飛び、無数の木々が音を立てながら姿を現した――!
これが俺の新たな能力。奪った土地に存在するモノを、別の奪った土地へと移動させることが出来るのだ。
まさに文字通りの編成作業。ペインターの街周辺は、一瞬にして草原から森へと姿を変えたのだった。
そして最後に、街の中心部からいくつもの家を吹き飛ばしながら、漆黒の魔城『グラズヘイム』が出現。
こうしてペインターの街は、天然の木々の外壁を持った難攻不落の地へと生まれ変わったのだった……!
『ぉッ――おぉおおおおーー---ッ! これがエレン様の新しい力ッ!』
『こんなの、まるで神様ゴブーッ!』
『これなら人間に勝てるワンッ!』
驚愕から一転、ワーワーッと狂ったように騒ぎ出す仲間たち。
どうやら新たな力の覚醒は、彼らの士気を高めるのにも大いに役立ってくれたらしい。
俺自身もまた右手の『魔の紋章』を見て、思わず身体が震えてしまう。興奮半分、恐怖半分だ。
「ははっ……本当に人の身には過ぎた力だよ、これは。土地を好き勝手に動かせるなんて、使い方を間違えれば大惨事だ」
今回『銀狼の森』を丸ごと持ってきたのは、あそこにはもう仲間がいないとわかっていたからだ。
だけどもしも。俺が魔王としてさらに勢力を広げ、自分ではわからないほど仲間の数が増えてしまったら。
森や、街の外周部に、仲間がいたと考えたら……土地の編成に巻き込まれてしまったら……。
「無事ではいられないよなぁ……。そう考えたら、強すぎる力を持つってのも考え物だな。
なぁレイア、お前はよくこんな力を使いこなせてこれたよな。本当にすごいぜ……!」
俺は心からの尊敬を込め、初代魔王様のほうを見た。
右手に宿る『魔の紋章』は、彼女から受け継いだ力の結晶だ。
きっと彼女も当時は土地を動かしたりして、戦況を有利に導いていたのだろう。
――そう思ったのだが、しかし。
なぜかレイアは俺のほうを見ながら、プルプル震えると……。
「えッ……なにその力ッ!? わたくし知らないっ! こわッッッ!」
「って、ええええええええっっっ!?」
まさかまさかの「知らない」発言ッ!
じゃ、じゃあこの能力ってなんなんだよぉおー-----っ!?




