47:勝利と悩みと深まる絆
「――というわけでお前たちッ、今日からこの街は俺たちの物だぁーーーッ!」
『やったぁーーーーーーーーーーっっっ!!!』
征服から小一時間後。
俺たち魔王軍は街の広場に集まり、祝勝会を行っていた!
街中から掻き集めてきた食べ物をみんなでいただく。店の主たちは全員出て行ってしまったので食べ放題だ。
「怪我した仲間は特になし。敵のテイマーたちは全滅させたし、他の人間たちは黒髪の者を除いて全員追い出したし、まさに完全勝利だな」
勝利の余韻に浸りながら、店から奪った焼き鳥を頬張る。
かつてはキチンと金を払っても、残飯や焦げすぎたものを投げ渡されるのが日常茶飯事だったなぁ。
あの日の屈辱、店ごと奪ったから許してやるよ店主さんたち。
「さぁて、祝勝会が終わったらやることいっぱいだぞぉ……!」
保護した黒髪の人たちや街の魔物たちに、俺たち魔王軍のことを詳しく説明しないとな。
俺たちは魔物が差別されない国を作るために活動しているということ。そして俺たちに協力するとなれば、他のすべての国々を敵に回さなければいけないかもしれないということ。
仲間になるか否か決めさせるのは、それらをちゃんと話してからだ。
「それに、国を作るなら食料を消費させるだけじゃなく増やす方法も色々考えていかないといけないし、いずれ送られてくるだろう国からの討伐部隊への対策もしなきゃだし、それからそれから……」
やるべきことが多すぎて頭を抱えてしまう……!
ぶっちゃけ頭脳労働は得意じゃないが、俺は魔王だ。仲間たちを統べる代表者だ。
みんなに笑顔で暮らしてもらうために、頑張らなくては。
「よーし、やるぞぉ……!」
――そう気負っていた時だった。
不意に後ろから「エレン様ぁ~」と呼びかけられ、ほっぺたをプニッと突かれた。
この甘い声に、ひんやりとした指の温度は……。
「レイアか……!」
「うふふ、正解でーすっ。エレン様ってば難しい顔をしていらしたので、声をかけちゃいました!」
振り返れば、そこには幽霊メイドこと初代魔王様のレイアの笑顔が。
……どうやら気遣われてしまったらしい。母性に溢れた笑みを前に、少し恥ずかしくなってしまう。
「ははっ……ごめんなレイア。今さらながらに、魔王としての責任感ってヤツを感じちゃってさ。
これまでは敵を倒すことだけを考えればよかったが、街を一つ手に入れたからには、土地の運営なんかも考えないといけないんだよなぁ」
「そうなんですよねぇ……それが大変なんですよねぇ……。敵は殺せば一発オッケーですが、配下のお腹はずっと満たしていかないといけませんし。
それに娯楽施設やイベントも考えて心も満たしてあげなくちゃだし、内輪揉めの解決にも奔走しないといけなかったりで、『王』っていう立場は本当にイヤになっちゃいますよぉ……」
はぁ~と溜め息を吐くレイア。
彼女も魔王だった時代、色々と苦労を重ねてきたらしい。
「……お疲れ様です、先輩さん。それで先輩は、そういうのをどうやって乗り切ってたんですか?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれましたね後輩くん! そういうのは最終的に……参謀のゴブリーフたち、デキる仲間に丸投げしちゃいましたっ!」
「えぇ~っ!?」
っておいおいおいおい初代魔王様、丸投げっていいのかよそれ!?
――そうツッコもうとした俺の唇を、レイアがそっと指をあてて塞いできた。
「むぐっ……!?」
「いいんですっ! ……たしかにゴブリーフなんかには特に苦労をかけまくり、胃袋に穴を空けちゃうときもありました。ちょっとハゲさせちゃったりもしました」
ハゲさせたりもしちゃったの!?
どんだけ仕事投げられまくったんだよゴブリーフ……。俺は思わず、地下で出会った亡き盟友に合掌してしまう。
「本当に苦労をかけまくっちゃいましたが……ですが離ればなれになる寸前、彼は言ってくれました。
『敬愛するアナタの力になれたことが、何よりの喜びでした』と……」
「そう、なのか……」
「ええ。エレン様も、どうか周囲をご覧ください」
そう言われ、ちらりと祝勝会を楽しんでいるはずの魔物たちに目を向ける。
……すると、多くの仲間たちがソワソワとした様子で、俺のことを見ていた。
「って、あー……もしかして俺、レイア以外のみんなにも心配かけてた……?」
「フフ、ようやく気付いたみたいですねぇ~♪
だってしょうがないですよ。わたくしも含めて、みんなエレン様のことが大好きなんですからっ!」
「っ……!」
綺麗すぎるレイアの笑顔に、思わず目を逸らしかけてしまう。
恥ずかしさとは別の意味で、顔が赤くなってしまうのを感じる……。
「ゆえにエレン様。王たるもの、常に笑顔でいてください。
もしも笑顔が曇るような問題があったら、遠慮なくわたくしたちに投げつけちゃってください。
アナタの力になることこそが、わたくしたちの喜びなんですから……っ!」
『うんうんっ!』
レイアの言葉に頷く仲間たち。
あぁ……彼らと出会えて本当に良かったと、俺は改めて思うのだった。




