46:征服
『ふッ――ふざけんじゃねぇぞ黒髪のゴミがァァアアッ! ぶっ殺してやらぁあああーーッ!』
怒号を上げる街中の人々。
俺への返答がコレだった。
「ハハッ! まっ、そうなるよなぁ!」
いいさいいさ。別に期待はしてねーよ。
お前らにとっては社会のゴミクズな黒髪の人間にいきなり命令されたら、そりゃぁ怒鳴りたくもなるだろうよ。
それに、こちらの軍勢はざっと300体ほど。ドラゴンやトロールなどの強力な魔物も混ざっているが、そのほとんどは最弱クラスのゴブリンだ。まだ戦えると思うのも無理はない。
「テメェ調子乗ってんじゃねぇぞゴミがッ! おいモンスターどもッ、小屋から出てこい!」
「いくぞお前らッ、あの野郎の軍勢を討つぞッ!」
「どこで手に入れたのか知らねぇが、お前をぶっ殺してドラゴンを奪ってやる!」
怒号が響き渡る中、街の各地からモンスターに乗った男たちが駆けてきた。
魔物を働かせて金を稼ぐ『テイマーギルド』の連中だ。俺が所属していた魔術師ケイズのところ以外にも、多くのギルドがあるからなぁ。
「全てのテイマーギルドが出動したとなれば、魔物たちの数はざっと500を超えるか。……安心しろよ、みんな。今救ってやるからな」
無理やり操られている魔物たちに哀れみを向けると、俺は『魔の軍勢』へと命令を下す。
「コレが連中の答えというわけだ。――ゆえに、もはや5分待つ必要もないッ! これより闘争を開始するッ!」
『グォオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーッッッ!』
街中に木霊する殺意の咆哮。
かくして戦いは始まった。待機していた仲間たちが、ペインターの街へと一気になだれ込む――!
『グガァアアアアーーーーッ!(これまでの恨みを晴らしてやらァアアアッ!)』
「ッ、なんだこいつらっ、早ッ――うわぁああッ!?」
数では劣るこちらの陣営。だがそんなものは関係ない。
俺の右手に輝く刻印『魔の紋章』により、仲間たちは全て強化されていた。
それに加え、こっちの魔物は森の恵みをたらふく食べて健康状態も良好だからな。粗末に扱われている向こうの魔物たちとは状態が違いすぎる。
俺の仲間たちは雄叫びを上げながら、あっという間に敵のテイマーを倒していった。
「さぁて、俺も活躍しないとな……!」
俺はドラゴンから飛び降りると、黒剣を引き抜いて正眼に構えた。
そこで響いてくる複数の足音。周囲の大通りや小道より、様々なモンスターに乗ったテイマーたちが武器を手にして現れた。
「へへッ、わざわざ魔物の軍団と戦う必要があるかよ。操ってるヤツをぶっ殺せばそれで勝利なんだからなぁ!」
「調子こいてドラゴンから降りやがって! やっぱ黒髪のゴミは馬鹿だぜッ!」
「よぉーエレン、カッコいい剣持ってるじゃねえか! テメェを殺したあと使ってやるよォオオーー!」
一斉に駆けてくるテイマーたち。騎馬にしているモンスターの腹を足で蹴り、ものすごい勢いで迫ってくる。
――だがしかし。
「ぬるいな……」
今の俺には止まって見える。
宮廷魔術師サングリースやスクルド王子と比べたら、速度も気迫もまるで足りていない。
俺は奴らと接触する瞬間、軽く剣を一振り薙いだ。
それで全て、終了だ。
「ぐッ――ぎゃぁあああああーーーーーッ!? オレのッ、オレの腕がぁあああーーッ!?」
「て、手首から先がねぇッ!? いつの間に斬られたんだァァアアッ!?」
「う……嘘だろ……ッ!? エレンのゴミ野郎なんかに、負けるわけが……っ!」
そして舞い散る大量の鮮血。
腕ごと武器を取り落とし、テイマーどもは痛みで激しく叫び狂った。
「ぁッ、こ……降参だァッ! 頼むエレンッ、今までのことは詫びるからっ……命だけは……ッ!」
「よしわかった。俺はお前らを許してやるよ」
「ほ、本当か!?」
命乞いをするテイマーたちに笑いかける。
実際に俺は、こいつらのことを殺したいほど憎くは思ってなかったからな。ときおり殴られてきた借りは、先ほどの一撃でノーカンだ。
ただまぁ……。
「――俺はお前らを許したが、お前らの相棒はどうなんだろうなぁ?」
「えっ……?」
かくして、次瞬。
重傷を負ったテイマーたちは、地面に容赦なく打ち付けられた。
騎馬にされていた魔物たちが、激しく身体を震わせたのだ。
「ぐぁァアッ!? な、何……が……ッ!?」
『グルルルルルルッ……!』
「ぁ――あああぁぁああぁぁぁあ……ッ!?」
そして彼らは最期に気付いた。
俺が先ほどの一閃で、魔物たちに刻まれていた『呪縛の魔法紋』にまで切れ込みを入れていたことを。
ゆえにもはや束縛はあらず。魔物たちは怒りで瞳を血走らせ、抑えつけられていた殺意を解放する……!
『グガァアアアアァアアアアーーーーーーッ!(殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スッ! よくも今まで虐げてくれたなァーーーッ!)』
「ひッやめッ!? ぉ……おいエレンッ! オレたちを助けろぉおおッ!」
千切れた腕を必死で伸ばしてくるテイマーども。
だけど悪いな。流石の俺も本気でキレたモンスターたちを止めることは難しくてな。
それに、
「お前ら調教師なんだろう? だったら自分のペットくらい、自分でどうにか宥めてみせろよ」
「そ、そんなぁッ――ぐわぁああああーーーーーーーーーッ!?」
街中に響く断末魔。
魔物たちは容赦なくテイマーどもを噛み殺し、原形のない肉片へと変えていったのだった。
「……お前たちが少しでも魔物たちに優しくしていたら、こうはならなかっただろうにな……」
――こうして、戦いは終結した。
他の仲間たちも次々と街の魔物を解放していき、約一時間後には、悪しきテイマーたちは絶滅を果たしたのだった……!