42:分かり合えぬ定め
「「ウォオオオオオーーーーーーーッ!!!」」
咆哮と共にぶつかる刃――!
スクルド王子の黄金剣と俺の振り下ろした黒曜剣が接触した瞬間、ギィイイイイイイインッッッという鋼の音階が銀狼の森に響き渡った。
俺の魔宝具の能力は身体強化。だというのに、王子の剣はあまりにも重く、一気に押し込まれそうになる。
「クッ……細腕のくせにやりやがる……ッ!」
「ハハハハハッ! 見たか黒髪のゴミがッ! これが第一王子にして宮廷魔術師たる私の力だッ!」
スクルドの背中より暴風が吹き荒れる。
さらには黄金の剣より俺に向かって風圧がかかり、さらに重さを増していく……!
「なるほど……風の魔術による疑似的身体強化か。
それも、黒曜剣グラムを持った俺を押し切るほどの出力……おそらくお前の剣の力は、魔力の上昇ってところだろうな……!」
「チッ、ゴミの分際で見切るなクソがッ! このまま貴様もモンスターどもも、私の手で滅ぼしてやるッ!」
どこまでも風圧を高め続けるスクルドの刃。あまりの圧力に俺の足元の地面が耐え切れず、ビキビキと音を立てて陥没し始めた。
だが負けるかよッ! 俺の仲間には指一本触れさせやしない!
「この程度で勝った気になってんじゃねぇぞ王子がッ! 異能発動、【怪力】ィイイ!」
次の瞬間、俺の筋力はさらなる領域へと昇華する。
力自慢の魔物・トロールのトロロより借りた能力だ。
血管が浮かび上がるほどに全身の筋肉が活性化し、王子の剣を逆に押し返し始める――!
「なにぃッ!?」
「さぁてこれで力は五分だッ! せっかくだから語り合おうぜぇ王子様ァーッ!」
俺はスクルドが動揺した隙を衝き、その土手っ腹に膝蹴りを食らわした!
ヤツの身体を一気に森の中へと吹き飛ばす――!
「ぐはぁああああああッ!?」
「さぁいくぜスクルド王子ッ! 悪いが、言葉と一緒に斬撃も放つからどっちも相手してくれよな!」
俺は腰を深く落とすと、吹き飛んでいく王子めがけて弓矢のごとく斬りかかった!
このまま決着が付きかねない状況だが、敵も流石は宮廷魔術師。咄嗟に身を捻らせると、空中で俺の刃を受けてきた。
「くッ、王族を殺すのに躊躇なしか貴様はッ!?」
「当たり前だろうが! 民衆から王家まで寄ってたかって黒髪の人間を虐げやがって!
ゆえに、まずは質問1だクソ王子。全ての国家の王族どもは、どうして黒髪の人間を虐げながらも、今まで生かしてきやがったッ!?」
木々の間を飛び交いながら質問をぶつける。
そう。以前からずっと気になっていた。
この世界の人間たちは、黒髪の者を忌み嫌いながら、どうして生活を許すのか。
そんなに憎ければ生まれた瞬間に殺せばいいのに、なぜ生き地獄を味わわせるのか。
「王族を代表して答えろよスクルド! ゴミ扱いするくらいなら、王の名のもとに虐殺でもすりゃいいじゃねぇかッ! なぜ弄ぶような真似をする!?」
「チィッ――答えなど簡単なことだろうがゴミがッ! お前たちのような『殴ってもいいカス』がいたほうが社会が安定するんだよォオオッ!」
「なっ!?」
あまりの言葉に戸惑った瞬間、王子は片手から暴風を放ってきた。
それによって俺は飛ばされ、大きく距離を開けられてしまう。
「くっ……ふざけてるのかッ! なんだその無茶苦茶な答えは!?」
「無茶苦茶ではない、統計に基づいた純然たる事実だッ! ゆえに全ての国家の王族は、黒髪の人間を嫌いながらも殺さず、都合のいいストレス発散道具として扱っているんだよォッ!」
「ッッッ……!」
もはや、怒りで口すら開けなかった。
なんだそりゃ、ふざけるな、ふざけるな。――そんな言葉が頭をいっぱいに満たしていくが、同時に『合理的だ』とも納得してしまう。
そうやって特定の人種を貶めておけば、他の大多数は仲良く手を取り合えるんだからな。
「…………そうかよ。気に入らないが、納得したぜ。じゃあ質問2だ」
「まだ聞くか」
「黙れ。……どうしてお前たちは、魔物に対してもそこまで酷い扱いをするんだ?
黒髪の人間と違って、魔物は優秀で力もある。どうせ『呪縛の魔法紋』で反逆できないんだから、少しはよくしてやればいいじゃねぇかよ……!」
殺意で声が震えてしまう。
握り締めた黒剣の柄が、万力の握力で熱すら帯びていくのがわかる。
「魔王の配下だったから酷く扱う……って答えじゃないよな? どうせ黒髪の扱いみたいに、ろくでもないほど合理的な理由があるんだろう?」
――そう尋ねる俺に、スクルド王子はフゥーーー……と長く息を吐いた。
そして、意を決したような顔で答える。
「認めたくはないが……貴様の言った通り、魔物はとても優秀だ。人間よりも力がある上、知能だって悪くはない」
「あ……あぁそうだよッ! モンスターたちはみんなすごいんだ!」
思わぬ返答に頷いてしまう。
まさか王族の者から、魔物たちを称える言葉が出てくるなんて思わなかった。
「ドラゴンなんて人間の何倍も強いし、ハウンドドッグのハウリンみたいに俺たちよりも賢いヤツだっている! 魔物たちは、尊敬できる存在なんだ!」
そう言い放った刹那、王子は俺をじっと見据え――、
「あぁそうだ。人間よりも優秀だ。ゆえに――人の役に散々立った後は、滅んでくれなきゃ困るだろうがよ」
「…………は…………?」
――理解不能の言葉に、再び俺の足が止まったその時。
スクルド王子は俺に向かってバッと手を差し向けると、
「『呪縛の魔法紋』を以って命ず。ユニコーンどもよ、自慢の角でそいつを殺せ」
『ヒィイイイイイイイインッッッ!!!』
かくして次の瞬間、あちこちの茂みから一角獣たちが涙を流しながら突撃してきたのだった……!




