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3:決戦前夜


「――うがぁぁあああああッ! おのれおのれおのれぇぇえええッ!」


 エレンが街を出てから一週間後。

 彼の所属していたテイマーギルドのマスターは、全身包帯まみれで怒り狂っていた。

 執務室に男の怒号が響き渡る。


 ――彼に傷を負わせたのは、ギルドで飼っていた三十頭ほどの魔物たちである。

 彼らはいきなり『呪縛の魔法紋』を打ち破り、ギルドマスターであるケイズに襲い掛かってきたのだ。


 だが、彼は生き延びた。

 人間の身でありながら、半数近くの魔物たちを死に追いやり、深手を受けながらも生還したのだ。


 その理由は、


「えぇい! 神に選ばれし『魔術師』である、このケイズ様を傷付けおってぇえええッ!」


 そう叫ぶと彼は、腕に火炎を纏わせながら執務室の机を殴りつけた。

 一瞬にして机は砕け散り、部屋中に焦げた木片が散乱する。


 ――『魔術師』。

 それは一万人に一人ほどの割合で存在する、『魔術』を使える人間のことだ。


 “死んだ人間を放置したらアンデットになる”

 “多くの命を奪った武器は不思議な能力を宿す”

 “特定の紋様を刻めば魔物の自由が奪える”


 ――などといった物理法則とは異なる魔の世界法則『魔法』とは違い、魔術はとても実用的だ。


 ケイズが腕に炎を宿したように、再現したい自然現象をイメージするだけで限定的に起こすことが出来るのだ。

 術式の規模によって精神力を疲弊するため大災害を発生させることは難しいが、並みの人間に比べれば何倍も強いと言えるだろう。


 ……ゆえに自分を特別視している者も多く、炎魔術の達人であるケイズはその典型のような男なのだが。


「くそ……魔物たちの脱走を許してしまった一件で、我がギルドの名は地に落ちた。魔法の束縛を破るなど、あり得んというのに……」


 そう、この数百年の間に魔法紋の呪縛を乗り越える魔物など一匹もいなかった。

 例外があるとすれば、何らかの事故で魔法紋を刻んだ部分の皮膚が傷付いてしまうことくらいだ。


 そうならないよう、モンスターを操って様々な仕事を請け負うテイマーギルドの者たちは、魔法紋の状態にだけは常に注意を払っているのだが……、


「ぬぅうう……まさか、あの黒髪のエレンのやつがこっそりと切れ目でも刻んでいきおったのか? えぇいっ、なんと忌々しいガキだ! 身寄りのないところを、せっかく雑用として拾ってやったというのに!」


 椅子にどっかりと座るケイズ。

 燃えるような赤髪をがりがりと掻きながら唸り声を上げる。


「えぇいまったく、やはり黒髪の人間は害虫だな! あの日、()()()()()()()()()()()()()死んでおけばよかったのに!

 まぁよい、どうせ今ごろどこかで野垂れ死んでいるだろう。今考えるのはギルドの名誉を挽回する方法だ」


 ……最悪の真実を口にしながら、即座に思考を切り替える。


 悪びれた様子など一切なかった。

 自分のことを『選ばれし人間』だと自負しているこの男は、黒髪の者に対する差別意識が一層強いのだ。


「そうだ……たしか領主が出している仕事の一つに、森のシルバーウルフどもの殲滅というものがあったな。いくつかのテイマーギルドが襲撃をかけているが、なかなか全滅には追いやれんとか」


 森は狼たちの独壇場だ。

 立ち並ぶ木々によって弓矢もなかなか飛ばせないため、どのギルドも手をこまねいているという。

 

 だが、


「ククククッ、このケイズ様にうってつけの仕事ではないか! 森など少々焼いてしまえばいいのだ。自然の炎とは違い、魔術の炎は付けるも消すもワシの自由だからなぁ!」


 上機嫌に笑うケイズ。

 道具とする魔物の補充には時間がかかるが、そこは最弱にして最多の魔物『ゴブリン』ならばすぐにでも買い揃えられるだろうと考える。

 さらにギルドメンバーに武器を持たせ、駄目押しに自分が出撃すれば完璧だとニヤけるのだった。


「さぁ、そうと決まれば出発の準備だ。忌々しいシルバーウルフどもを生焼けにして、我がギルドの奴隷にしてくれるわッ!」


 ――かくして彼は執務室を飛び出していく。

 これから向かう銀狼の森が、魔物たちの暴走するきっかけを作った『エレン・アークス』の支配下となっていることも知らずに……!



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― 新着の感想 ―
[良い点] ( ・ิω・ิ)ワクワク
[一言] ケイズ! 本当にこの名前にしたんですね!
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