36:新たな力と、向き合い方と。
「さぁっ、もっとこいゴブリンズ!」
『うぉりゃぁゴブーッ!』
動けるようになってから一日。
俺は木刀を手に、棍棒を持ったゴブリンたち(※リーダーであるゴブゾーをメスにした取り巻き軍団)と打ち合っていた。
本当はまだだるさが残っているが、いつまでもダラダラとしていられる状況じゃないからな。
人間たちが俺たちに干渉してくる前に、少しでも実力を上げておかなければ。
「せいっ、はぁッ!」
四方八方から襲い掛かってくるゴブリンたちの攻撃を避け、一体一体打ち払っていく。
――棍棒の軌道がよく見える。死角からの攻撃も空気の揺らぎでわかる!
「そこだッ!」
『ゴブーッ!?』
そうして一閃。俺は数体のゴブリンを一撃のもとに弾き飛ばし、模擬戦に勝利するのだった。
「ふぅ。付き合ってくれてありがとうな。怪我はないか、みんな?」
『平気っすゴブーっ! ……にしても流石は魔王様はお強いゴブねぇ。こりゃぁ嫁に行ったゴブゾーリーダーも安泰ゴブね』
「嫁にしてねーよ馬鹿」
アホなことを言った取り巻きAにデコピンを食らわせて黙らせる。
……にしても、自分でも首を捻ってしまうような強さだ。
今の俺は身体強化の魔宝具『黒曜剣グラム』を手にしていない。
だというのに、なぜか寝込む前より身体が動き、動体視力なども明らかに上昇していた。
「……こう言っちゃなんだが、『紫電のサングリース』との戦いを経験したおかげなのかな……」
この手で殺した憎き男を思い出す。
ヤツとの戦いで、俺は限界を超えた動きをし続けた。
それによって筋肉のリミッターが一段階外れ、動体視力などもまた超高速の戦闘を経験したことで進化を遂げたというわけか。
「……最低最悪の野郎だったが、俺を強くしてくれたことだけは感謝してもいいかもな。それにヤツとの戦いで目覚めた力、【異能共有能力】。こっちはもう意味が分からないほど強力だしな」
俺は拳を握り締め、あの時の感覚を思い出しながら呟く。
「借りるぞトロロ。異能発動、【怪力】」
そして、側にあった木に無造作に拳を叩きつける。
ただそれだけで、バキバキミシィイイイイイイイイーーーーーーッという音を立て、木は見事にへし折れてしまったのだった。
『ひっ、ひぇえええええッ!? やばいゴブッ、舐めたこと言ったら殺されるゴブーッ!?』
その光景に悲鳴を上げる取り巻きゴブリンズ。って殺さないから安心しろって。
「たしかゴベルグが『木材が欲しい』って言ってただろ。アイツのこと呼んできてくれないか?」
『ハイッ、了解っすゴブゥーーーーーッ!』
……いつものふざけた態度はどこへやら。
俺の一言に、ゴブゾーの取り巻き軍団はキビキビと駆けていくのだった。
「うーん……力による支配なんて望んじゃいないが、アイツらに関してだけはたまに威厳を示しておいたほうがいいかもな」
ゴブゾーもずいぶんと変な奴らから慕われたものだ。
ちなみに当のアイツはというと、「取り巻きどもがエッチな目で見てくるゴブゥッ!」と今朝から引きこもっている模様。かわいそうに……。
「まぁゴブゾー(元ガキ大将・現ロリ巨乳チビ美少女)と取り巻き軍団の関係はまた気が向いたら解決するとして……」
それよりも、考えなきゃいけないのはこれからの方針だ。
「各地を回って仲間を増やす――ってのは当然変わらない。だけどなぁ……俺が【異能共有能力】に目覚めたことで、なぁ……」
そう――あの能力はまさに万能だ。
そして万能ということは、『一人』で何でもできてしまうということだ。
「……サングリースとの戦いで、シルもサラも危うく死ぬところだった。これからも敵地にみんなを連れていけば、傷付くことがあるかもしれない。だけど、今の俺なら……」
一人でも大概の敵に対処できる。それゆえに、一人で各地を渡り歩くという選択肢が出来てしまったのだ。
当然、どんな危険があるかわかったものではないが……。
「でもそれで、仲間たちが傷付かずに済むなら――」
俺がそう呟いた――その時。
「ダメだぞエレン、そんなことを考えちゃ」
ふわり、と。後ろから俺を抱き締める者がいた。
「っ、シル……いつのまに……!?」
「ふふふ、ほれみたことか。どれだけ強くなろうが、考え中は誰もが無防備になるだろう。だが敵地で考えなしに動き続ければ、その末路は言うまでもない。ゆえにこそ……一人になっちゃ、ダメなのだ」
回された手の締め付けが、すがるように強くなった。
元銀狼の少女は俺の背中に頭をぐりぐりと押し付け、唸るように呟く。
「……ごめんな、エレン。わたしとサラが死にかけたばかりに、そんな考えを抱かせてしまって……っ」
「シル……いや、こっちこそごめんな。お前やサラはもちろん、みんなに傷付いてほしくないって思いばっかり募って、変なことを考えちゃってさ……」
「う~っ、エレン~……!」
涙声で擦りついてくる彼女を背に、俺は本当にしまったと心底思った。
みんなのことを考えるのはいい。だけど、どんな力を手に入れたとしても、みんなの手を借りないなんて選択肢だけはしちゃダメだ。
それは結局シルのように、みんなを悲しませることになってしまう。
「本当にごめんな……」
「いや、いいのだ。このままではエレンの足を引っ張ってしまうかもしれないのは事実だからな。
――ゆえにっ、わたしも強くなるぞッ! さぁエレンッ、今度はわたしと模擬戦しよう!」
「シル……ああっ、オッケーだっ!」
離れて構えを取るシルに、俺も力強くうなずいた。
あぁまったく。本当にこの子には元気づけられるなぁチクショウ!
「はぁ、やっぱりお前には敵わないよ」
「むっ、どうしたエレン!? まだ戦ってもいないのに諦めるのか!?」
「ってそういう意味じゃないっつの! さぁ、いくぞーっ!」
拳を構えるシルに向かい、俺は勢いよく駆けて行ったのだった――!
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