33:最強魔人!? ゴブゾー進化ッッッ!
「――よかったよかった。サラもトロロもハウリンも、この城での生活に馴染んでるみたいだな」
ほっと胸を撫で下ろしながら、豪華で綺麗な廊下を歩く。
本当にみんな幸せそうでよかったよ。
ギルド時代でもどうにか魔物たちが快適に過ごせるように小屋を掃除したりしていたが、所詮できることなんてそれくらいだったからなぁ。
「よし、次はスライムのラミィの様子を見に行こうかな。たしかプール付きの部屋を用意してもらったって喜んでたっけ」
スライムなだけあって水っ気のある場所を好むからなぁ。
そのあとはゴーレム三兄弟と、アリアドネのアリィの様子を見てくれば終わりだ。
……本当はもっといたんだけどなぁ、ギルドの仲間たち。
しかし、何年にも及ぶ過酷な生活や、俺のためにケイズに立ち向かってくれた一件で、多くの者が命を落としてしまった。
「……死んじまった仲間たちのためにも、絶対にみんなが幸せに暮らせる居場所を作らないとな」
それこそが俺にできる最大の弔いだ。全ての魔物が迫害されずに住める国家を作り出し、みんなの死が無駄じゃなかったと歴史に刻みこんでやる。
かくして俺が、決意も新たに残る仲間たちのもとへ向かっていた――その時。
「おーいエレンッ!」
銀髪の美少女こと、魔人となったシルがこちらに向かって駆けてきた。
あ、ちなみに今日はちゃんと服を着ているようだ。ちょっとピッチリめで身体のラインが出まくった服だが、まぁ全裸のままうろつかれるよりは目のやり場に困らないか。
「よぉシル、その恰好似合ってるな」
「えっ、あぁ、ありがとう。レイアのヤツが服作りが趣味らしくてな、シュパパ~ッと作ってくれて……って今はそんなことどうでもいい!
それよりも大変だエレンッ、ゴブリンのゴブゾーがゴベルグに決闘を挑んだぞ!」
「なっ、決闘だって!?」
そりゃまた一体どういうことだ!?
俺は心底驚きながら、シルに案内されてゴブゾーのもとに向かったのだった。
◆ ◇ ◆
――ギルドの仲間たちとは違い、ゴブリンたちは森での生活を選んだ。
まぁそれも当たり前か。特に地下空間でずっとコソコソと暮らしていた『ゴブリンの里』の者たちは、日光の中で伸び伸びと暮らせる日々を望んで俺についてきてくれたんだからな。
今では城の周囲を開拓し、いくつものウッドハウスを建てて自由に暮らしていた。
「こっちだエレン」
「あ、ああ……」
立ち並んだゴブリンたちの家々を抜け、広場のような場所に躍り出る。
するとそこでは、大勢のゴブリンたちに見守られながら、ゴブゾーがゴベルグと対峙していた!
「っておいゴブゾー! こりゃどういう状況だよ!?」
『ぬぐっ、エレンのアニキゴブか……! ごめんだけど、引っ込んでてほしいゴブ。これはゴブリン族の問題だゴブッ!』
そう言ってキッとゴベルグを睨みつけるゴブゾー。
ゴブリンの中でもひときわちっちゃな背丈を伸ばし、拳を構える。
――しかし、ゴベルグのほうは困り気味だ。
ゴブゾーとは真逆の太い腕を組み、『う~ん』と唸っていた。
「おいゴベルグ……なんで決闘なんて挑まれてるんだ?」
『いやぁ、なんか男としてどちらが格上か決めたいそうだゴブッペ』
「え、あ~……」
そういうことか。
たしかにゴブゾーのやつ、ゴベルグに対してライバル視しているところがあったからな。
「なるほどな。ゴブゾーといえば数十体の奴隷ゴブリンを率いるリーダーで、ゴベルグのほうは数百体のゴブリンを率いる里の代表。規模は違えど指導者として、譲れないプライドがあるってわけか」
理屈はわかった。命懸けの決闘を挑む理由としては十分かもしれない。
だけどなぁ、今なのかぁ……。今はちょっとまずいかもなんだよなぁ。
――そんな俺の思いを代弁するように、ゴベルグが諭すような声色で言う。
『あー、ゴブゾーくん。キミの気持ちは十分わかったゴブッペ。そこで提案なんだが、命懸けの決闘とかじゃなくて、もう少し穏便に格付けをしないかゴブッペ……?』
『むきーッ、何言ってるんだゴブッ!? 男の上下関係ってのは、コブシで決めてこそゴブ! まさか怖気づいたんだゴブかー!?』
『って違うゴブッペ。……いいか、ゴブゾーくん。群れのリーダーとなったからには、“命の張り時”を間違えたら駄目ゴブッペ』
『い、いのちのはりどき……?』
戸惑い気味に首を捻るゴブゾー。
よく意味が分かってなさそうな彼に、俺のほうからも補足してやる。
「なぁゴブゾー、お前の反骨精神は立派だと思うよ。自分よりも格上の相手に全力で挑もうとする姿勢は、俺としても見習いたい」
『ぁ、アニキ……?』
「だけど、だ。今の状況を考えてみろ。もしかしたら数日後には、この森に人間たちが攻め込んでくるかもしれないんだぞ?
そんな時に命懸けの決闘をして大怪我をしてみろ。いざという時に動けないリーダーに、価値なんてないだろうが」
『んあッ!? そ、それは……!?』
驚いた表情でたじろぐゴブゾー。
そんな彼の小さな肩を優しく叩く。
「ごめんな、ゴブゾー。お前もゴベルグも大切な仲間だ。人間に比べたら戦力に劣る今、どっちにも傷付いてほしくないんだよ」
それが、決闘を止めるもう一つの理由だ。
俺もまた魔王という名のリーダーとして、コイツの男としての意地を砕かないといけない。
「普段だったら構わないさ。だけど、今は駄目なんだ。わかってくれるか?」
『う、うぅ……』
嫌だ、とは言わないものの、やはり素直には頷きたくない様子だ。
……うーんどうしたものか。
俺自身、魔王となってから日が浅いからな。こうして種族内のトラブルを納めようなんて事態は初めてだ。
初代魔王であるレイアに頼ってみてもいいかもしれないが、彼女のおんぶにだっこになってしまっては困る。
なんとか対処できる内は、俺やトラブルの当事者たちのみで解決できるようにしなければ。
――そうして俺がゴブゾーをどう諫めようか悩んでいると、ゴベルグが『ハァ……!』と苛立たしげに溜め息を吐いた。
『エレンの旦那にここまで心を砕かせちまって……! おいゴブゾー、もうこの時点で男としての格は決まったようなもんゴブッペなぁ?』
『なっ、なんだとぉー!?』
彼の言葉にブチ切れるゴブゾー。
しかしゴベルグは『黙れッ!』と一喝すると、地面を拳でダンッ! と殴った。
……小さな地響きが森にこだます。彼が腕を上げた後には、ぽっかりと拳型のくぼみができていた。
『ひえっ……!?』
その恐るべき威力にゴブゾーはたじろぐ。
ゴベルグのやつ、元々立派な身体付きをしているとは思ってたが、どうやら相当な実力者らしい。流石は魔人ゴブリーフが見出した後継者なだけある。
『……ドラゴンや魔術師みたいな連中には敵わんが、オラだって腕っぷしには自信があるゴブッペ。お前みたいなチビガキ、数発殴ればあっという間に殺せるゴブッペ』
『う、うぅぅ……!?』
怯えるゴブゾーに対し、ゴベルグはドシドシと近づいていく。
これは少しまずいかも知れない……!
取り返しがつかない事態が起きる前に、俺が割って入ろうとしたところで――、
『……だから、一発ゴブッペ。どちらかが先に、一発当てたほうが男として上。それなら決闘を受けてやるゴブッペ』
――そう言ってゴベルグは、ゴブゾーの前でファイティングポーズを取るのだった。
「って、なるほど……一発か。うん、それならいいかもしれないな」
『フッ、旦那の了解が得られたようで何よりゴブッペ。それでどうするゴブゾー? どうやらすでに、相当ビビッてる様子だが?』
『ッ……!』
彼の言う通り、ゴブゾーの顔は真っ青だ。
先ほどゴベルグが地面に穿った穴を見ながら、小さな身体をガクガクと震わせている。
――しかし、
『ゴ、ゴブリン族にとって、逃げるのは恥じゃぁないゴブ。だけどッ、男には逃げちゃいけない戦いがあるゴブゥウウーッ!』
そう叫びながら、ゴブゾーもまたファイティングポーズでゴベルグに応える!
かくしてその瞬間、彼の小さな勇気に応えるように、腹部の『眷属の紋章』が輝き始めた――!
「うわっ!? まさかゴブゾー、進化できるようになったのか!?」
『うぉおおおおおおおおッ! チカラがあふれてくるゴブゥーーーーッ!』
やがて光はゴブゾーの全身を包み込んだ――!
その光景を前にゴベルグはもちろん周囲のゴブリンたちも驚く中、ゴブゾーは『理想の自分』を描き始める……!
『オイラは願うゴブッ! ちっちゃな身体じゃなくて、ゴベルグの野郎にすら勝るような大きな身体をッ! もう逃げ回る必要すらない、立派な肉体をッ!』
光の中で形を変えていくゴブゾー。
願った姿へと変える進化の祝福が、彼に力を与え続ける――!
……だが、そこで。
『ウッヒョォオオーーーッ! リーダー、信じていたゴブーッ!』
『“なにゴベルグさんに喧嘩売ってんだアホ”って逃げてたオラたちだけど、逆転の気配を察知して参上ゴブーッ!』
『いっけーリーダー!』
……どこからともなく現れた十数体のゴブリンたち。
たしかゴブゾーの取り巻き軍団だったか。彼らはピカピカと光るゴブゾーを囲み、やんややんやと騒ぎ始めた。
『うぉおおおッ! 最強ゴブリンに進化ゴブよ、リーダーッ!』
『勝利したら大軍団の長に昇進ゴブッ! そしたら元々手下だったオラたちは、幹部になっちゃうゴブかー!?』
『やったーッ! これからはオンナにモテまくりゴブーッ!』
って何言ってんだコイツら!? あまりにも調子が良すぎるだろ!
「な、なんてろくでもない手下たちだ……!」
ついさっきまで逃げてたそうなのに、なんて変わり身の早さだ。
好き勝手に騒ぐゴブリン軍団を前に、俺は心から呆れてしまう。
――と、その時。
光の中でトランス状態になりつつあったゴブゾーが、『オンナ』という単語を耳にした瞬間にピクリと反応した。
『お、オンナ……! そうだゴブ……勝てば女にモテ放題の立場に……!』
『そうゴブよっ、リーダー! ちなみにリーダーはどんな女の子が好みゴブか!?』
『好み……うーん、髪が長くて……オラ身長がちっちゃいから相手もちっちゃめがよくて……だけどおっぱいとかはモチモチで、ニンゲンみたいに肌は真っ白で目はパッチリで……グヘヘヘヘ……!』
って大事な進化の時になに言ってんだよゴブゾーッ!?
「おい集中しろゴブゾー! 今は進化中だぞ!? 進化後の理想の姿をイメージしないといけないときに……って、あっ」
――おいおいおいおいおい待て待て待て待て!?
そうだよ、進化の時は理想の姿を思い描ないとダメなんじゃないか!
あぁ、そんなときに、理想の女の子なんてイメージしたら……!
『うぉおおおおおおおおおおッ、オイラ興奮してきたゴブゥーーーーーーッ!』
森へと響くゴブゾーの咆哮。
かくして、彼の妄想が最大限まで膨れ上がった瞬間、光がパァァァァアンンッと砕けるように弾け――、
「オイラ頑張るゴブよーっ! 男としての格付けに勝って、女たちにモテモテにッ――って、あれ……?」
『『『うっわぁぁあああ……』』』
……光が散った瞬間、俺やシルを含めたすべての者たちが哀れみとドン引きの声を上げた。
なぜならゴブゾーの姿が、緑色の長い髪に身長ちっちゃめなのにおっぱいとかがモチモチで真っ白な肌で目もパッチリな、『理想の女の子』の姿になっていたからだ……ッ!(しかも全裸!)
「えっ、えっ、みんなどうしたんだゴブか――って、なんじゃこりゃぁあああああああああああああああーーーーーッ!?」
一拍遅れてようやく事態に気付くゴブゾー。
股に手を当てて「オイラのオイラが消えてるゴブゥウウウウウウッ!?」と血を吐くような絶叫を上げる。
「ぁっ、アニキ助けてぇーっ!」
「ってうわぁっ、やめろゴブゾーッ!? その姿で縋り付いてくるなっ!?」
全裸で抱き着いてくる(元)弟分を引きはがす!
あーもう、これどうするんだよ!
決闘を止めようって話だったのに、なんでこんなことになってるんだ!?
「うぅっ、ぐすっ……オイラのオイラがオマタになっちゃったゴブゥ……! なぁエレンのアニキぃっ、アニキは『全ての魔物を幸せにする』って誓ったゴブよねぇ!? オイラのチンコも助けてくれゴブゥッ!」
「いや、その誓いは決してチンコ生やすって意味じゃねーから」
すまないがお前の股間については完全に救済対象外だ。
俺は自分の上着をそっと彼……もとい彼女に羽織らせ、肩を優しく撫でてやる。
「うぇええええええええええええんんっアニキィイイーーーーッ!」
「だから全裸で抱き着いてくるなぁーっ!?」
――こうして俺の魔王としての初の内政問題『どちらが男として格上か決める事件』は、片方がロリになったことで片付いたのだった……!
って馬鹿じゃねーの!?
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『こんな展開が見たい!!!』『これなんやねん!』『こんなキャラ出せ!』
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↓みんなの元気を分けてくれ!!!