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29:戦いのあとで・下




『――エレン、寝ているのか?』


「んんっ……?」


 月明かりの下、ドアの向こうから響いた声に俺は目を覚ました。

 どうやらレイアに身体を拭われた後に眠ってしまったらしい。おかげですっかり真夜中だ。


『伝えたいことがあって来たんだが……疲れているようなら日を改めるぞ?』


「あ、ああいや大丈夫だ! えぇと、シル……なんだよな……?」


 寝ぼけているせいか、どうにも変な感じがする。

 その凛々しい口調から、ドアの向こうにいるのはシルバーウルフのシルのはずだ。

 だけど俺の『魔物の声がわかる能力』というのは、あくまでも鳴き声などのトーンから勝手に口調をイメージしているだけで、実際にそう聞こえているわけじゃないんだが……。


「どうにも自然な声に聞こえる気が……って、まさかシル……!?」


『ああ、お察しの通りだ』


 返事と共に、静かにドアが開けられる。

 そして入ってきたシルの姿に、俺はごくりと息を呑んだ。


「頭に響いた声によると、わたしは魔人【シルバーワーウルフ】という存在に進化したらしい。この姿、似合っているか……?」


 銀色の長い髪をいじりながら、彼女は不安げに問いかけてくる。


 ……正直言って、綺麗すぎてビックリした。

 銀狼としての特徴をあらわした髪は銀糸のように美しく、不安に揺らぐ黄金の瞳は吸い込まれそうなほど麗しい。

 そしてレイアよりも高めな長身はすらりとしていてスポーティで、それでいて彼女に負けないくらい女性的な部分は丸みを帯びており、目に毒だ……!


「おーいエレン、返事をしてくれ~……! お前のためにせいいっぱい可愛くなるよう願ったんだが、尻尾やオオカミの耳はそのまま残ってしまったみたいでな……やっぱり似合ってないか?」


「っていやいやいやいやっ、似合ってないなんてとんでもないっ! むしろ美人すぎて固まってただけだっ!

 いや……元からシルは可愛かったけど、本当に綺麗すぎてビックリしたぞ」


 思わず何秒間も見とれてしまったほどだ。

 銀狼としての耳や尻尾も魅力的だと思う。むしろ最高だ。


 ――ただ一つ、盛大に突っ込みたいところがあって……、


「それで、なんでシルは裸なんだよっ!?」


「む~? そんなのいつものことで……って、あっ! そういえばヒトは服を着る生き物だったなっ!」


 しまったしまった~とあっけらかんと笑うシルの姿に、俺は顔を真っ赤にしてしまう。


 そう……彼女は全裸だった。

 月明かりが照らす中、純白の肌とたわわに実った肉の果実を惜しげもなく晒している。


 しかも彼女は前を隠すことすらせず、むしろ堂々とこちらに近づいてきて――!


「エレン」


 そして、いまだにベットから動けない俺の上にまたがるのだった……!

 

「って、シル……!?」


 腰へとかかる彼女の重み。

 やわらかな少女の感触と温かさが、シーツを通してじわりと伝わってくる。

 ――そうして混乱する俺に、シルは頬を染めながら……、

 


「なぁエレン。わたしは、お前のことが好きだ」


「っ……!」



 不意打ち気味の告白が、困惑する俺へと撃ち放たれた。


 ああ……その一言で理解する。

 俺は今、彼女によって求愛されているのだと。


「……本気か、なんて愚問だよな。そもそもシルは、俺のためにそんなに可愛い姿になってくれたわけだし。そもそもその時点で気付くべきだったな」


「うむ。最初は魔人ヒトになるべきか、それとももっと強くて恐ろしい魔物バケモノの姿になるべきか悩んだが、とある者に『女の子として生きるべきだ』と背中を押されてな。

 ゆえにこうして……エレンと子供を作れる姿に、わたしは生まれ変わったぞ」


 そう言って俺を真っすぐに見つめるシル。

 そんな彼女の瞳を前に、俺は恥じらいつつも決して目をそらさない。

 ……一人の女の子が想いを伝えてくれているんだ。ここで逃げたら男じゃなくなる。


「ありがとう、シル。俺だってお前のことが大好きだよ。

 ……シルに出会ったときの俺は、人生に絶望して死のうとしていた。そんな俺の心を、シルたち銀狼族は温かく癒してくれたんだ。

 特にどっかのリーダーさんは、ことあるごとに俺に甘えてくれたりしてな?」


「むむっ、甘えて何が悪いというのだーっ!

 ……エレンに出会ったときのわたしは、病によって一族もろとも死のうとしていた。そんなわたしたちの運命を、エレンは必死で変えてくれたんだ。

 本当に、ありがたい限りだよ。あの日からお前は、わたしにとっての愛する主人だ」


 俺の手を取り、シルはゆっくりと身体を倒してきた。

 全身に感じる少女の肉感。寄せられた首筋より漂う甘い香りは、彼女が本気で発情している証拠だった。


「あぁ、エレン……わたしのご主人様(マスター)……っ♡」



 そうして彼女は、桃色の唇を俺の口へと重ねようと近づけて――、



「……いや。今は、ここまでにしておくぞ」


 と呟き、俺の頬にそっとキスを落とすのだった。


「って、シル……?」


「うぅすまないっ、別に嫌になってしまったとかそういうわけじゃないのだ!

 ただ――ふと思ったのだ。アイツに一番槍を譲られた状態で、エレンと結ばれていいのかとな」


 アイツというのは、シルの背中を押した子のことだろう。

 うーん、俺のことをよく思ってくれてて、そのうえ恋敵の悩みを晴らしてしまうような不器用で優しい子というと……、


「もしかして、サラか?」


「フッ……さすがはエレン、大正解だ」


 やっぱりか。

 気が強そうに感じるけど、サラマンダーのサラはとっても優しくて仲間想いの子だ。シルの悩みに気付いていたのも頷ける。

 もしもシルが美しい魔人としての姿ではなく恐ろしい魔物に進化する道を選んでいたら、きっとあの子は『ライバルが消えた』とほくそ笑むより、『どうして止めてあげなかったんだろう』と一生後悔していただろう。

 そんな女の子なのだ、サラという子は。


「ヒトにとって『初めての夜』は大事だというだろう? エレンのソレを譲られる形でもらってしまうなんて、わたしのプライドが許さないっ!

 ゆえにわたしは、サラが進化する時を待つことにした。そしてその上でエレンの一番になるべく戦うのだっ!」


 “あ、戦うと言っても魅了合戦でな!”と補足するシル。

 要するに、このまま据え膳を食べてしまってはサラに悪いと思ったわけか。彼女はもちろん、シルもすごく優しい子だな。


「ははっ、わかったよ。俺も精一杯応えるから、その時は二人で魅了しまくってくれ」


「うむっ。……あぁちなみに、わたしとサラだけでなく、レイアのヤツも合戦に加えてやる予定だけどな。

 あの母親じみたお節介メイドめ。サラの身体から、わずかにアイツの匂いがするのを感じたぞ。おそらくアイツがサラをわたしのところに寄こしたんだろ」


「あぁ、ありそうだなぁ……」


 レイアならそうするだろうと苦笑する。

 

 彼女は本当に魔物のことが大好きだからな。

 よくみんなのことを見ているようで、俺の世話をしながら「スライムのライムさんがお水を飲みすぎて水餅みたいになってました」「ゴブゾーさんはゴベルグさんをライバル視しまくってるんですよ」などと、仲間たちの様子を楽しそうに話してくれる。


 そんな彼女だからこそ、シルとサラが後悔する結果にならないように色々と手を回してくれた可能性は十分にあった。

 ただそのあたり、シルは少し気に食わないらしい。


「まったく……これではアイツを嫉妬していたわたしが恥ずかしいじゃないか。レイアもエレンが大好きだろうに、どうして裏方に回ろうとするのか……」


「全部の魔物のお母さんだからなぁ、レイアは。たぶん自分よりも子供たちに幸せになってもらいたいんじゃないか?」


 彼女にとってあらゆる魔物は大切な家族だ。

 ……まぁそんな感性をしているせいか、側近だったゴブリーフからの想いには気付いてなかったみたいだけどな……。


「まったくっ、こうなったらレイアを裸にして無理やりエレンに押し付けてやる! というかこすりつけてやるッッッ! そうすればきっとアイツも自分がメスであることを思い出すだろうッ!」


「って無理やりメスの本能を引き出させようとするなっ!?」


 まったく、どんな魅了合戦をやらかす気なんだか……。


 全裸のままやる気マンマンになってるシルを前に、俺は苦笑いを浮かべるのだった。



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