25:終わりの一閃
――新たに目覚めた魔王の力。
その使い方を魂で理解しながら、俺はサングリースへと近づいていく。
「さぁ、やろうぜサングリース。お望み通り、殺し合おうか」
「ッ……!?」
一歩ずつ歩み寄る俺に対し、ヤツは初めて警戒するような表情を見せた。
流石は百戦錬磨の戦闘狂というべきだろう。
今の俺がつい先ほどまでとは別の次元に立っていることを察し、冷静に様子見をするつもりのようだ。
――だがさせるかよ。
「なんだどうした、戦わないのか? 俺が怖いのか?
まぁ、別にそれでもいいんだけどな。お前みたいな害虫なんて、視界に入れるのも不愉快だ。
何ならアレだ――謝るんなら、逃げてもいいぞ?」
「ッッッッ!? テッ、テメェクソがァッッッ! なにが『逃げてもいいぞ』だァアアアアアーーーーーッッ!?」
俺の一言にヤツの感情が爆発した――!
後ずさりかけていた足を踏み出し、怒り狂いながら突撃してくる。
ああ――まったく予想通りだよ。考えてみればすぐにわかることだ。
明らかに安い挑発だろうが、サングリースという男は『停戦』に関わる言葉だけには反応せざるを得ないだろうさ。
「ハハッ、見逃されるのは嫌だよなぁ? 構ってくれなきゃ死んじゃうよなぁ!? なにせお前が大好きな『戦い』っていう概念は、相手がいないと成立しないんだからなぁ!」
そう。ゆえにコイツは舌を回して、ドラゴンや俺を必死で怒らせようとしていた。
それがわかれば対処は簡単だ。こちらが相手をしなくなれば、『戦闘狂』はそりゃあ怒ってくれるだろうさ。
“相手の逆鱗に触れ、こちらのペースに無理やり持ち込む”。
お前が教えてくれたやり口だよ、このクソ野郎。
「死ねやガキがァアーーーーーッ!」
怒号と共に飛びかかってくるサングリース。
鋼の四肢に磁気が迸り、握り締めた剣の柄がミシミシミシミシッッッと悲鳴を上げている。
なるほど、その人外のパワーによって無理やり力で捻じ伏せる気なのだろう。
だがしかしッ、
「いくぞサングリースッ、本当の人外の力を見せてやる! ――異能発動、【絶対防御・黄金障壁】!」
次の瞬間、俺の眼前に金色に輝く光の盾が現れた!
それはサングリースの剣をたやすく受け止め、反動ではじき返してしまう。
「なっ、なんだそりゃッ!? 魔術か!?」
驚愕に目を見開くサングリース。そこに俺は右手を突き出し、情け容赦なく追撃をかます。
「異能発動、【火炎】六連ッ!」
「はぁ!?」
手のひらから放たれた六発の大火球に、さらにサングリースは狼狽する。
必死に剣で切り飛ばしていくも、ヤツは「うがぁああああああッ!?」と悲鳴を上げた。
「ああ、そりゃあそうなるだろうさ。なにせお前の四肢は鋼なんだもんなぁ?」
水分を含んだ生身とは違い、熱伝導率は泣きたくなるほどすさまじいだろう。
剣から伝わる【火炎】の熱はすぐさま四肢を灼熱化させ、サングリースの肩や腿から肉の焼ける音が響き始める。
「クッ、クソォッ、どうなってんだよぉッ!? 光の盾を出した次は、火をブチ撒いてきただとぉ!?」
ついに片膝をつくサングリース。
激痛によって脂汗を流しながら、「訳が分からねぇ……!」と表情を歪める。
「なんなんだよこりゃっ!? 魔術っていうのは、一人につき一属性じゃないのかよ……ッ!」
「簡単なことだ。俺が使った二つの力は、仲間の魔物から借り受けたモノなんだからな」
――そう。俺は紋章の進化によって、『絆を結んだ魔物の異能が使えるようになる』という人外の力を獲得していた。
一つ目の【絶対防御・黄金障壁】はゴルディアス・ドラゴンが持っていたものだ。
アイツの鱗はただ硬いっていうわけじゃない。異能によって衝撃を和らげる概念的加護がかかっており、俺はそれを一点に収束させて盾としたのだ。
そして二つ目の【火炎】は、ギルド時代からの仲間であるサラマンダーのサラより借りたものだ。
鋼の手足を自慢とするサングリースにとっては、熱はまさに鬼門だろう。
「どちらもお前に傷つけられた仲間たちの能力だ。存分に味わってくれたか?」
「ッッ……ハッ、ハハハハハハッ! 本当になんだこりゃッ、わけわかんねぇよッ! 魔物の力が使えるとか、オメェ化け物かよコンチクショォオオオーーーーーーッ!」
震えながらも、しかしてヤツは諦めない。
狂気的な笑みを浮かべ、地面が砕けるほどに踏み込む――!
「ガハハハハッッッ! 化け物上等ッ! さぁエレンッ、オレ様を殺してみろやァァあああああ!」
そして、サングリースは紫電となった。
手にした剣に雷光を纏わせ、人外の速度で斬りかかってくる。
「うおおおおおおおッッッ!!!」
一気呵成の猛特攻を仕掛けるサングリース。
剣を振りかぶるヤツに対し、俺もまた黒刀を握り締め――ッ、
「異能発動、【疾駆】!」
そして、俺は一迅の風となった――!
身に纏わせたのはシルバーウルフのシルの異能だ。
その能力は速度を上げるだけという単純なものだが、元より俺には『黒曜剣グラム』によって齎された身体強化の加護がある。
その二つが合わさったことで、俺の速度は空気の壁すら突き破り――、
「これでっ、終わりだァァあああああ!!!」
「がはあああああああああッッッッ!?」
戦場に響く断末魔。
かくして俺の黒刀は、サングリースの心臓を刺し貫いたのだった――!
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