24:漆黒の殺意
「そん、な……っ!?」
仲間の胸から、舞い散る鮮血。
サングリースの剣に胸を貫かれ、絆を結んだばかりの友は、血を吐きながら倒れた。
――しかしそれは、ドラゴンではなく。
「ゴホォッ……!」
「っ、ゴブリーフッ!?」
そう。ゴブリンの里の長である美貌の魔人ゴブリーフが、黄金竜の盾となったのだ――!
急いで駆け寄る俺とレイア。
特に彼とは関係の深い幽霊メイドは、「そんなぁっ!?」と悲鳴を上げながらゴブリーフを抱き起こした。
「目をッ、目を覚ましてくださいゴブリーフッ! アナタってばなんて無茶を……!」
「ほ……ほほっ、里の長として……魔王軍の元幹部として、レディを守るのは当然の務めですじゃ……!」
血を吐きながらも、彼は無理やりにキザな笑みを作った。
そうして、震える黄金竜のほうを見る。
『わッ、我のせいだ……! 我のせいで多くのゴブリンたちが殺され、貴様のことも……!』
「違いますぞ、ドラゴンのお嬢さん。……たとえ原因がどこにあろうが、もっとも悪いのは、虐殺の実行犯であるあの男に決まっているでしょう……!
それにアナタは、里の者たちを守るために奮闘してくれたというではないですか。本当に感謝しますぞ……!」
『ッ、うぅッ……!』
彼の言葉に、黄金竜は大粒の涙をこぼした。
レイアもまた、偉大なる側近を抱き締めながら子供のようにむせび泣く。
かくして少女たちの嗚咽が響く中、ゴブリーフは俺のほうを見て呟く。
「すみませんな、エレン殿。せっかく、『男友達』というやつになれたばかりだというのに……」
「しっかりしろゴブリーフッ! 今すぐに、治療をッ!」
「エレン殿……あぁ、我らが新たな魔王様よ……! あとは全て頼みましたぞ。どうか、あらゆる魔物が幸せに暮らせる楽園を作り上げてくだされ……っ!」
――それが、彼の最期の言葉となった。
光を失うゴブリーフの瞳。細い身体から力が抜け落ち、それきり物言わぬ骸と化すのだった。
「くっ、ゴブリーフ……ッ!」
彼の遺体を前に、俺は少女たちと共に涙を流す。
そうして俺たちが悲しみに暮れていた――その時。勇敢なるゴブリーフの死を嘲笑うように、パチリパチリと白けた拍手の音が響いた。
「あーあ、なんか知らねーけど謎のイケメンご臨終~。……感動的な場面すぎて、思わずグチャグチャにしたくなるわぁ……!」
その瞬間、ゴブリーフの胸に刺さっていた剣が磁気を帯びながら宙へと浮かぶ! そして再び黄金竜を狙うように切っ先を向けた!
「ッ、させるかぁ!」
手にした刃を咄嗟に振るい、血濡れた剣を弾き飛ばした。
そして、仲間の死を嘲笑った最悪の男を睨みつける……!
「サングリース、お前……」
「ハハハハハッ、そぉら怒れよエレンくん! オレ様のことしか見えなくなるくらいに怒り狂え!
殺意と憎悪に染まりながら、自分の中の可能性を全部引き出せ! ガチになれッ! そんな相手をぶっ殺すのがッ、このサングリース様の楽しみなんだからよォオオオーーーッ!」
高笑いをするサングリース。
弾き飛ばされた剣を手中に戻し、「さぁさぁこいやッ!」と喚き続ける。
……そんな男を前に、俺の感情はなぜか急速に冷めていった。
許せないはずなのに、怒っているはずなのに、レイアに止められる前のような暴走状態にはならない。
ただ冷静に――そして冷酷に、“どうやってこの男を殺そうか”と思考が高速で回り始める。
「……あぁ、そうか。お前は害虫なんだよ、サングリース」
「っ、なんだとォ……!?」
ここで初めて、笑ってばかりだった男が不愉快そうに表情を浮かべた。
俺の言葉に苛ついたのか、それとも俺が想像通りに怒り狂わないのが気に食わないのか、あるいはその両方か。
――ま、どうでもいいな。害虫が何を考えてようが、思いを馳せるだけ無駄だ。
「なぁサングリース。お前は飛び回る蚊を潰す時、吠え叫びながらぶっ殺すのか?
……違うだろ。ただ“邪魔だなぁ”と思いながら、ごく当たり前にこの世から消すだけだろうが」
「ッ!?」
今の心境はまさにそれだ。
もう怒るとか許さないとか、そういう感情のラインは完全に超えてしまっていた。
ただ死んでほしい。ただ消えてほしい。反省や後悔なんてしなくていいから、ただただ彼がいなくなることを願う。
「……殺してやるよ、サングリース。無駄に苦しめることもなく、お前をこの世から消し去ってやる……!」
――かくして俺が、暗く冷たい漆黒の殺意に目覚めた、その瞬間。
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・条件達成、『眼前における仲間の死』『許容限界以上の殺意』を確認。
紋章の深度上昇と共に、新たな権能を解放します。
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手の甲に刻まれた『魔の紋章』が、さらなる力を俺に与えた……!
・次回、決着!
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