22:死闘の幕開け
『エ、エレンッ、来てくれたのか……!』
俺が到着した時には、すでにドラゴンは満身創痍のありさまだった。
身体のあちこちは黒く焼け焦げ、さらにその鼻先はグチャグチャになって血が噴き出ている。
「ありがとうな、ドラゴン。よく頑張ったな」
『うぅ……だが、たくさんのゴブリンがヤツに殺されて……!』
「……大丈夫だ。今、ゴブゾーたちゴブリン軍団に頼んで、里のみんなを避難させている。もう、これ以上の犠牲者が出ることはない」
大して広くもない里だ。もしもドラゴンが戦ってくれていなかったら、とっくにゴブリンたちは全滅していたかもしれない。本当にこの子は頑張ってくれたよ。
俺はそんな彼女を優しく撫でながら、片足を失った男を睨みつけた。
「さて――よくもやってくれたな、クソ野郎。本当なら真っ二つにしようと思ってたんだが」
もはや容赦するわけもない。
シルやサラ、そしてドラゴンを死ぬ寸前まで痛めつけ、さらに平和だった里を滅茶苦茶にした最低の男だ。
ここで必ず終わらせてやる。
そうして俺が、地面に転がった男に切りかからんとした――その時、
「エレン様危ないっ!」
「っ!?」
ついてきてくれていたレイアが、俺を抱きながら横へと飛んだ。
その瞬間に怪異は起きた。つい先ほどまで俺が立っていた場所に、ヤツの切り落とされた足が雷撃を纏いながら蹴り込んできたのだ――!
「なん、だと……!?」
「おぉっと、飛び蹴り失敗。コレ、自慢の隠し技なんだけどな~ちょっとへこむわ~」
さらに意味不明の事態は続く。
飛んできた片足がピョンピョンと跳ねながら男の下へ戻っていき、元の個所にビタリと接合されたのだった。
ってなんだそりゃ……。一部の者が使える、『治癒の魔術』ってやつか?
「いや、魔術は一人一属性とされている。ヤツは雷の使い手なんだから、電気を利用した技のはずだ。
……そういえば傷の断面から血が出てなかったが……まさか……!?」
「お、気付いたみてぇだなぁエレンサマとやら! 察しがいい男はモテるぜぇ!?」
ふざけたことを言いながら、男はその場で拳を突き出した。
すると肘のあたりから火花を噴き上げ、こちらに向かって腕が飛んできたのだ――!
「なっ!?」
ってまた不意打ちかよコイツッ!
咄嗟に魔宝具『黒曜剣グラム』で切り飛ばすも、ガギンッという音を立てるばかりで腕は傷付かず、またも男の下へと戻っていった。
「なははっ、やっぱり通用しねぇか! だが、仮にも『五十キロはある鉄の塊』を飛ばしてんだ。それを簡単に弾くとか、オメェさん身体強化の魔術使いか? あるいは、その剣がそーいう能力を持った魔宝具だったり?」
「……誰が言うかクソ野郎。それよりもよくわかったよ……お前、雷の魔術を応用して『義足』と『義手』を自由に動かしてるんだな?」
俺の言葉に、男はニッと笑って「正解だ」と告げた。
やはりそうか。電気を操れるということはすなわち、磁力への干渉もできるということだからな。
俺が片足を切断しようとした時にも、咄嗟に足を自ら飛ばして、カモフラージュしやがったってわけか。
「頭が回るようで何よりだ。さてエレンサマ、ヤりあう前に自己紹介といこうや。
――オレ様の名は『紫電のサングリース』。この大陸を支配する、スヴァルトヘイム連邦国の宮廷魔術師だ」
「宮廷魔術師だと……!?」
それすなわち、王族に選ばれし国家最強クラスの魔術師ということだ。
高い俸給や大貴族並みの発言力に加え、国の切り札である一級魔宝具を与えられるとされている。
……つまり、ヤツは強力な雷魔術に加えて、魔宝具まで所持しているってわけか。
一体どんな能力のものだと訝しんだ――その時、サングリースは右手に握った豪奢な剣を高らかに掲げた。
「気になるんなら教えてやるよッ! オレ様の魔宝具はコイツ、『洗練剣ミステルテイン』だ! その能力は名前の通り、魔術の精密操作性を上げるっつー感じだよ。オレ様が鋼の四肢を自由に操れるのはコイツのおかげさ」
「っておい……!?」
なんとサングリースと名乗った男は、魔宝具の能力をあっさりと吐き出しやがったのだ。
思わず「それでいいのか」と突っ込んでしまうが、しかしサングリースは「だからいいんだよ」と笑顔で答える。
「なぁなぁエレンサマよー。相手の能力をアレコレ考えながら戦うなんざ、気持ちよくねぇだろ?
戦いってのは脳死状態でいいんだよ。ケダモノみてぇに感情と命を全力でぶつけ合うからこそ、ヤッてて熱くなるんだと思うぜー?」
「なっ……だからってあっさりと手札を晒す奴がいるかよっ!?」
コイツ、常識ってやつがまるで通用しない!
俺はレイアから魔宝具を渡される際、『これは切り札なんですから、できるだけ能力を悟られないように』と教えられた。
だというのに何なんだコイツは。色々と大胆すぎて、逆に踏み込むのに躊躇してしまう。
――そんな俺を見て、サングリースは「早くがっついて来いよぉ~」と甘えるように言い放ち、そして。
「しゃーねぇなぁ。ちょっとオメェをキレさせてやるよ。
――なぁ、後ろでへばってるドラゴン。里を守るためにずいぶん頑張ったようだが、そもそもどうしてオレ様はこの場所がわかったんだと思う?」
『えっ……どうしてって……?』
「答えは、テメェのせいだよクソドラゴンッッッ! オレ様は脳内の電気信号を増幅させることもできるからなぁ! それを利用して嗅覚を強化し、テメェの臭いを追ってきたんだよバァァカッ!」
『なっ――!?』
衝撃を受けるドラゴンに、男は重ねて言い放つ――!
「全部全部テメェのせいだッ! この静かな里は、テメェがいたから滅茶苦茶になっちまったんだよぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!」
「ッッッ、サングリースッ! お前ぇッ!」
命懸けで里を守ったこの子になんてことを言いやがるッ!?
もはや一秒たりとも生かしてはいられない……!
俺は黒曜剣を握り締めると、地面が砕けるほどの勢いでヤツに向かって踏み込んだのだった――!
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