21:突然の襲撃
「一体何が起きたんだッ!?」
突然響いた雷鳴に、俺たちは長の小屋を飛び出した――!
すると、
『うッ、うわぁああああああぁあああああッ!? オラたちの里がっ、滅茶苦茶になってるゴブっぺーーーーッ!?』
眼前に広がった光景に、案内役を務めてくれたゴブリンが絶叫した。
数分前まで平和で活気に溢れていたゴブリンの里が、今や地獄と化していたのだ。
「なんだこりゃ……酷すぎる……ッ!」
まるで落雷が起きたかのようにあちらこちらの地面が焼け、黒焦げとなったゴブリンの死体がいくつも転がっている。
そしてゴブリンたちが『助けてくれゴブゥーッ!』と叫ぶたびに、男の哄笑と共に紫電の爆雷が起こり続けていた。
自然現象などでは断じてない。ゴブリンの里は今、何者かによる襲撃を受けている。
「くそ、誰がこんなことを……!」
――と、その時だった。突如として脳内に“エレンッ、聞こえるか!?”とシルの声が響いた。
紋章の力の一つ、【意思の伝達】によるものだな。
“どうしたシル、一体何が起きているんだ!?”
“あぁ、里へと続く通路から紫髪の男が現れてな……。剣から雷を放ってきて、わたしもサラも、一撃でやられてしまったよ……”
なっ、やられたって……!?
“大丈夫なのかお前たち!?”
“心配するな。あちこち黒焦げになってしまったが、紋章による【眷属強化】のおかげでどうにか生きてる。
それよりもエレン、早く里の中心部に向かってくれッ。例の男を止めるためにあのアホドラゴンが戦っている……!”
その言葉を最後に、“すまない……少し、休む”と呟き、シルは応答を途絶えさせるのだった。
「……シル、サラ、あとで介抱しに行くから待っててくれよ」
本当ならすぐにでも二人の下に駆けていきたいが、それよりもドラゴンに加勢するほうが先だ。
そして雷使いだという襲撃者に、平和な里を滅茶苦茶にした報いを受けさせてやる――ッ!
◆ ◇ ◆
「ギャハハハハハッ! オォラッ、追ってきやがれドラゴンちゃんよぉーッ! 早くオレ様を倒さねぇと、ゴブリンどもが絶滅しちまうぜぇー!?」
『ガァアアアアアアアーーーーーーッ!(待てぇ貴様ッ!)』
黄金竜から逃げ回りながら、宮廷魔術師『紫電のサングリース』は淫らな笑みを浮かべていた。
この男にとって、スリルこそが最高の快楽なのだ。黄金竜という最上級の魔物に追われながらゴブリンに雷撃を浴びせていく『ゲーム』に、彼は胸が躍っていた。
「いやぁ~灯台下暗しとはよく言ったもんだなぁ。クソつえーっていう黒髪の兄ちゃんを探しに来た結果、まさか谷底にこんな場所に続く道を見つけるなんてよぉ。コレ、ウチの王様に話したら小遣いもらえる大発見じゃね? どう思うよドラゴンさんよ」
『グガァアアアッ! グルルルルルッ!(知るかッ! そんなことよりも暴れまわるのをやめろぉ!)』
怒りの咆哮を上げるドラゴン。
――彼女は極めて野性的な性質を持っている。魔物であるため一般的な動物よりは知性的だが、腹が減ったら容赦なくゴブリンを食らうような残忍性も秘めていた。
だがしかし、そんなドラゴンは今、ゴブリンたちを守るために奮闘していた。
『ガァアアアアアーーッ! グガッ、ガガァアアアッ!(黄金の鱗を狙われ、かつて人間に捕まった母様が言っていた。“仲間の仲間はまた仲間なのだ”と! ならばこそ、我はこの里を守るために戦おうッ! 我を仲間としてくれたエレンには、ゴブリンの仲間もいるのだからな。仲間の故郷を滅ぼさせはしない!)』
「ハッ、ガーガーうるせぇよバァカッ! 何言ってんのかわかんねぇよぉーーッ!」
叫ぶドラゴンを罵りながら、サングリースは剣から無数の雷撃を放った。
それによって逃げ惑うゴブリンたちが焼き払われていき、さらに後を追うドラゴンにも直撃する――!
『グゥウウウウーーーーッ!?』
痺れによって動けなくなり、黄金竜は地面を転がってしまう。
高い生命力を持つドラゴンだが、当然それには限度がある。彼女はすでにサングリースからの不意打ちを受け、身体のあちこちに大火傷を負っている身だった。
「ハハッ、無駄に耐久力あっから苦しむんだよ。道でたむろってたオオカミやサラマンダーと一緒に、黒焦げになって死んでりゃよかったのによぉ」
ニタニタと笑うサングリース。「あーあ、せっかくの鬼役を焼いちまった」と呟きながら、ドラゴンの鼻先に蹴りを入れる――!
『グガァッ!?』
「オラァ、悔しいだろう!? だったら立てよッ! もう一回楽しい鬼ごっこをしようじゃねぇかッ!?」
一方的なことを言いながら、サングリースは何度も何度も痺れて動けないドラゴンに蹴りを食らわせる。
黄金の鱗に守られているドラゴンにとって、本来ならばただの打撃など大したダメージにはならない。
だが一撃を受けるたびに、黄金竜は痛みに悶えた。
『グゥウウウッ!?(な、なんだこの力はッ、コイツ本当に人間か!? それに、生身にしては硬すぎる……ッ!)』
「オラァーッ! 気合いで立てやーーーーッ! ちょっと神経が痺れたくらいで諦めんなよッ、オレ様を楽しませるために覚醒しろーーッ! さぁ、頑張れ頑張れ頑張れ頑張れッ!」
蹴るたびにサングリースのテンションは跳ね上げる。
スリルを愛するこの男だが、それと同じくらいに暴力を振るうのも大好きなのだ。
ドラゴンの鼻先から噴く血を浴びて、さらに彼は快感に悶える。
「死ねぇドラゴンッ! いややっぱり死ぬなッ! オレ様のために頑張って苦しんで生きてくれーーーーーッ!」
嗜虐に酔い痴れ、絶頂への階段を駆け上っていくサングリース。
だがそれゆえに、彼はギリギリまで気付かなかった。
「――死ね」
「ッ!?」
咄嗟に飛び退く彼だったが、回避するにはもう遅い。
漆黒の剣を握りながら頭上より迫っていたエレンが、その片足を容赦なく切り飛ばすのだった――!
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