19:異能と進化
「ホッホッホ……! どうやら二代目魔王様は、初代殿より王の器がありそうですなぁ」
そう言って、ゴブリンの里の長ことゴブリーフは愉快げに笑うのだった。
そんな彼に、元魔王のレイアは「むーっ!」と子供のように頬を膨らませる。
「本当に慇懃無礼ですねぇアナタは! そういうところ、昔と何も変わっていないっ!」
「何を言いますか初代魔王殿。主の欠点を指摘できる従者がどれだけ貴重なものか、わかっていないのですか?」
「うっ、それは……!?」
あっさりと言いくるめられてしまうレイア。
そんな彼女を見てゴブリーフは「あぁ、アナタこそ変わっていませんなぁ」と穏やかな声色でつぶやくのだった。
……なんというかこの二人、魔王とその従者っていうよりちょっとアホっぽい妹とイジワルなお兄さんって感じだな。
仲が悪いように見えて、しかし決して険悪な空気にはなりきれない、確かな情というものを感じる。
「さてエレン殿。二代目魔王を名乗ったからには、どうかゴーストの魔物となった初代殿のこともよろしくお願いしますぞ?」
「当たり前だ。魔王の名に懸けて、全部の魔物の面倒は俺が見てやる」
「ホホホッ、本当に頼もしい限りだっ! ではエレン殿。そこのいまいち頼りない元魔王様に代わり、『異能』と『進化』について教えておきましょうか」
呼吸するようにレイアをいじりつつ、ゴブリーフは教師のようにピンと指を立てる。
「よろしいですかな? そもそも魔物という存在は、動物たちと違って自然発生したものではありません。魔王レイア殿の能力によって生み出された、いわば道具のようなものです」
「ど、道具って……」
彼の言葉に思わず眉根をひそめてしまうが、ゴブリーフは気にせず言葉を続ける。
「たとえば人間がスコップを作る際には、『穴を掘る』という用途を意識しながら作成するでしょう?
それと同じですよ。魔王殿は我々を生み出す際に、“この魔物はコレが得意なのだ”と一つの『才能』を意識しながら作成なさる。
それこそが、異能。それぞれの種族が生まれながらに決められた、たった一つの誰にも負けない能力なのです」
ゴブリーフは語る。
たとえば狼系の魔物は『走るのが速い』と定義されたがゆえに、全ての者が【疾駆】という異能を持って生まれるのだと。
他にもサラマンダーは『火を出せる』と定義されたがゆえに【火炎】という異能を持って生まれ、ゴブリンは『子沢山』という変な定義をされたがゆえに【精力旺盛】という異能を持って生まれるそうだ。
「なるほどな……。しかしゴブリーフ、それはわざわざ異能なんて名前を付けるほどのものなのか?
たとえば鳥だって、二つの翼と飛ぶ才能を持ちながら生まれてくるだろう? 足の速い動物は山ほどいるし、火ではないけど電気を出せるナマズもいれば、子沢山な生き物もわんさかいるだろ」
「おぉ、いい指摘をなさいますなぁエレン殿っ!
――まぁ、端的に言えば次元というものが違うのですよ。たとえばワシは数百年も若い身体で生きておりますが、そんな生物は他にいますかな?」
「っ、それは……」
ああ、たしか【永遠の美】とかいう異能を持っていると言ってたな。
少なくとも俺の知識には、何百年も生きれる生物すら思い浮かばなかった。
「ワシのように進化した魔物ともなれば、その異能もより強大なモノとなる。
物理法則すら超越する『異質な能力』……そんなものはもはや、特別な名称を使って呼ぶしかないでしょう?」
「……確かにな、納得したよ」
そういえば伝承なんかには、巨大な嵐を起こせるような魔物もいるとされてるしな。
それこそが、異能。ちょっと飛んだり跳ねたり出来る動物の『特技』とは一線を画す、魔物たちの持つ超能力ってわけか。
「じゃあさ、たとえばシルバーウルフのシルなんかも、その進化ってやつが出来たらもっと異能が強化されるのか?」
「えぇもちろん。【疾駆】の異能はさらなる次元に到達し、音すらも置き去りにするような速さで駆けることが出来るようになるでしょう。あるいはワシのように、他の異能に目覚めることもあるかもしれませんな。
ま、見た目がどうなるかは進化する魔物のイメージ次第ですが……」
「へぇ、進化後の見た目って本人のイメージによって決まるのか。じゃあなんでゴブリーフは人間みたいな若いイケメンになったんだよ?」
「えッ、それは……!?」
なんとなく聞いただけなのだが、なぜかゴブリーフはギョッとした表情で固まってしまった。
――そして、自身の主君にして年若い少女であるレイアのほうをチラリと見て、すぐさま目をそらし……あっ。
「……なるほどなぁ。応援してるぞ、ゴブリーフ」
「おっ、お待ちなされエレン殿ッ! 勝手な想像をしないでくだされっ!?」
わたわたと慌てる彼の姿に、俺は思わず笑ってしまうのだった。
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