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18:黒髪の魔王、レイア。




「レイアが、魔王だと……!?」


 長の突然の発言に固まる俺。

 ……たしかに思い返してみれば、レイアは妙に魔王のことを知りすぎていたり、魔王の失態を話すときに自分が恥ずかしげだったりと、おかしな点はいくつもあった。


 だがそれでも彼女が魔王だなんて思わなかったのは、伝承において魔王は男とされていることと、彼女の髪が純白だからだ。

 魔王が黒髪だったからこそ同じ髪色の俺が迫害を受けているのだから、それについては間違いないはずだ。

 

「なぁレイア、どういうことなんだ? よければ話してもらってもいいか……?」


 そう問いかける俺に、幽霊メイドの彼女は「ごめんなさい」と言いながら小さく頭を下げるのだった。


「ゴブリンの里の長……わたくしの元側近であるゴブリーフの言う通りです。わたくしこそが、『黒髪の魔王レイア』。魔の存在を生み出し、強化し、進化させる力を持った、人類種の天敵ですよ」


「……マジでか」


 彼女の告白に、思わず口をぽかんと開けてしまう。

 伝承において、魔王は凶悪で粗暴で巨大で汚くて暴力的で、とにかく危険な大男とされていた。

 それがこんな幼げな顔付きの女の子だなんて、誰が想像できるかよ。


 唖然とする俺に、里の長ことゴブリーフが溜め息を吐く。


「魔王が醜悪な大男とされてきたのは、人間たちのくだらないプライドのせいですじゃ。

 たしかに当時のレイア様は、全身鎧を着ていたために性別はわかりづらかった。しかし細い腰付きや膨らんだ胸部を見れば、少女だと判別がつくはずなのですが……」


「……女の子に追い詰められていたことが、屈辱だったってか?」


「その通りですじゃ」


 俺の言葉に苦笑しながら頷くゴブリーフ。「あまりにもくだらないでしょう?」と言う彼に、俺はげんなりとしながら同意した。


「なんだそりゃ。歴史は勝者が作るものだっていうが、そんな捏造くだらなすぎるだろ。

 ――ま、そこらへんの事情はわかりたくないけどわかった。じゃあレイア、その髪色については? というかそもそもなんで正体を隠してたんだ?」


 別に隠すことでもないだろうに。

 魔王と言えばあらゆる魔物の母親みたいなものなんだ、最初から正体を明かしておけば、シルやサラたちから慕われただろうに。


 そんなことを考える俺に、元魔王であるレイアは俯きながら答える。


「前置きとして、わたくしが死んでからの行動について話しましょうか。

 ――先ほど言った通り、わたくしは魔物を生み出す力を持っています。死に際にその力を使い、自らを『白髪のゴースト』に転生させました。

 ゴーストの魔物は【呪怨】という人の魂に呪いをかける異能スキルを持っていますからね。それを利用し、自らの力を『魔の紋章』という形に変えて、未来の誰かに引き継がせることにしたのです」


「ああ……そういえば紋章について聞いた時に言ってたな。精神性の近い人間に紋章が宿るよう、魔王は呪いを残していったって。

 よく考えたら呪いってなんだよって思ったが、まさか文字通り悪霊ゴーストになって呪いをかけたとは……」


 この右手の紋章、呪いだったんだなぁ。

 まぁ当時、シルバーウルフたちを守るために力が欲しかった俺からすればありがたい話なんだけどさ。


「ちなみに、わたくしの能力を一度に受け継ごうものなら魂が変化に耐え切れず死んでしまうでしょう。それゆえ、段階的に解放されていく仕掛けを作りました」


「なるほどな。……というかレイア、前置きを聞いてわからないことが増えたぞ?

 別に魔王の力を他の人間に受け継がせることもないだろうが。せっかくゴーストになって成仏するのを回避したんだから、もう一回人類にリベンジマッチを仕掛ければよかったじゃないか」


 髪色を変えたことといい、魔王であることを隠していたことといい、彼女の考えがわからない。

 そんな俺の数々の疑問に――レイアは一筋の涙をこぼしながら、吐き出すように答えた。


「だってっ、だって怖かったんですよぉッ! 敗軍の長だと気付かれて、愛する魔物たちに嫌われるのが嫌だったんですよぉーッ!」


「っ……!?」


 叫びながらしゃがみこんでしまうレイア。

 彼女は子供のようにぐずりながら、言葉を続ける。


「リベンジマッチなんて出来ますか……っ! 一度ボコボコにやられたくせに、せっかく生き延びた魔物たちの前に顔を出して『もう一回やろうぜ!』なんて誘いをかけろと? それで負けたらもっと悲惨じゃないですかッ! わたくしはもう、みんなの期待を裏切りたくないッ!」


「それは……」


「それにエレン様、今の世界の状況がわかりますよね? 魔物たちは人間の奴隷として忌み嫌われながら働かされ、さらにエレン様のような黒髪の人間も苦しい思いをし続けている。

 それらは全部、『黒髪の魔王』であるわたくしのせいですよッ! 馬鹿みたいに暴れた上に無様に負けたからこそ、魔物たちもエレン様もいらない責め苦を受けているんですよッ! だからきっと、みんな魔王を……わたくしのことを恨んでいるに決まってますよっ……うわぁあん……ッ!」


 ……ぐずぐずと泣きじゃくってしまうレイアに、俺はただただ黙り込む。


 あぁそうか……。だから彼女は正体を隠したのか。

 黒髪を捨て、王から格下のメイドになり、そして自身の力すら放棄したのか。


 事情は全部理解した。

 その瞬間、俺の脳内に“そんなことはない、みんなお前が大好きなはずだ”だとか、“なぁレイア、もう一回魔王として頑張ろう”だとか、そんな励ましの言葉が浮かんでいく。


 だが、俺は――、


「――そうだな。お前のことを恨む奴らも、きっと大勢いるだろうな」


「っ!?」


 俺は甘い言葉など吐かず、事実を認めることを選んだ。

 そんな俺に、レイアは泣きながらへにゃっと笑う。


「あ、あははは……ですよねぇ。わたくし、普通にやらかしちゃいましたよねぇ……」


「ああ、色々と励ます言葉を考えたがダメだった。普通に、お前が、全部悪い。お前が負けちゃいけない大決戦に負けたせいで、魔物も黒髪の俺もすげー人生しんどくなったんだが?」


「げふぅッ!? そ、そこまで言いますッ!?」


 俺の言葉に崩れ落ちるレイア。

 ま、事実だからしょうがないだろ。謹んでダメージを受けやがれ。


 ――だがしかし、


「……でも、恨んでるヤツばっかじゃないだろ。そもそも魔物たちはお前がいたおかげでこの世に生まれることが出来たんだ。彼らを生んだ選択だけは、決して間違いじゃないはずだ」


「っ、エレン様……」


 俺の告げた確かな『事実』に、魔王メイドは目を開く。


 そう。たとえ結末がバッドエンドでも、レイアがいなければそもそも魔物たちの物語は始まらなかったのだ。

 そして、数百年前の魔物たちが残した子孫は、今なお世界中で息づいている。

 だったら何も終わっちゃいないさ。子孫たちを幸せにしてやれば、死んでいった魔物の始祖たちも少しはあの世で笑ってくれるだろう。


 それに、


「レイア。お前は心が折れながらも、力を捨てるのではなく『託す』という選択をした。あの世に逃げることだって出来たのに、幽霊になってでも紋章の継承者を『導く』ことを選んだんだ。――偉いよ、お前は」


 そう言ってレイアの頭を撫でると、彼女の瞳が大きく揺れた。

 そして唇を噛み締めながら、ひときわ激しく泣きじゃくる。


「うぅッ……偉くなんか、ないですよぉ……! 結局、黒髪の人間を……エレン様を不幸にしたことには、かわりないですし……っ」


「あぁ、魔物はともかくそっちはフォローのしようがないな。おかげで両親も焼き殺されたしいい迷惑だ。

 ……だけど、少なくとも今の俺は幸せだよ。『黒髪』だったおかげでテイマーギルドの雑用にさせられて、たくさんの仲間たちに出会うことが出来たんだからな」


 もしも普通の髪色に生まれていたら、シルやサラたちと出会うことはなかっただろう。

 他の人間たちと同じく歪んだ価値観に染め上げられ、魔物のことを毛嫌いしていたはずだ。


 だが俺は、世界から迫害される身だったおかげで、同じく迫害されている魔物たちと分かり合うことができた。

 失ったものはたくさんあるけど、それだけは変わらない事実だ。


「エレン様……」


「だからレイア、もう何も気にすんな。どうせお前がボッコボコに負けて色々と負債を残した事実は変わらないんだし、もう開き直っていけ」


「って、わたくしのことを慰めたいのか罵りたいのかどっちなんですかーッ!?」


 びえーんッと泣きながら叫ぶレイア。もうこの際だから泣きまくっとけ。


 俺は泣き虫な元魔王様を撫でながら、視線を合わせてはっきりと告げる。


「まぁ見てろよ、初代魔王。魔物を迫害する人間たちをブチのめし、ついでに黒髪の者を差別する人間もボコボコにすれば、お前の負債は全部チャラだ。

 約束してやる……このエレン・アークスが、『二代目魔王』としてお前のバッドエンドを覆してやるってなぁッ!」


 ――そんな俺の宣誓に、レイアは涙を無理やり拭い、「はいッ、期待しています!」と笑顔で頷くのだった。 

 


ゴブリーフ「(魔王様メスにされとるやん……)」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] レイアが魔物という新しい生命を創造する際、容姿はレイアが考えたのですか?それとも、当時の黒髪の仲間達と考えたのですか?新たな生命を創造出来るのなら、それって神様ではないですか。 [一言…
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