17:魔人との邂逅
『――さぁエレンの旦那、ここが長の住んでる小屋ゴブっぺ』
「へぇ……ずいぶん質素なんだな……」
トップの住居としてはあまりにも簡素なログハウスを見て、思わずそう呟いてしまう。
ゴブリンの里に到着した俺は、通路に問題児とお目付け役のシル&サラを置いてきた後、長の下へと案内された。
なお案内役のゴブリン曰く、長に会うことが出来る者は極めて限られており、また長の外見的情報は広めてほしくないそうだ。
どうしてなのかは知らないが、ともかく広めてほしくないという情報をペラペラと言いふらすつもりはない。
付き添いである幽霊メイドのレイアやゴブゾーをはじめとしたゴブリン軍団と共にしっかりと頷いた。
『あ、ちなみに長はものすごく高齢でベットから出ることが出来ないゴブっぺ。たぶん寝たまま話すことになるけど、そのへんご理解してくれゴブ~』
「あぁ大丈夫だ。礼儀なんて気にしてないから、俺たちも高齢の身体に障らないよう大声は控えるよ」
『優しいゴブねぇエレンの旦那は! じゃ、開けるゴブっぺよー。長ぁ、例の客人を連れてきたゴブ~!』
案内役のゴブリンに続いて小屋へと入る。
内部も極めて簡素なもので、飾りといえば机の上に小さな花瓶が置かれている程度だった。
そして、そんな部屋の傍らに置かれたベットの上には――、
「ああ……これはこれは。『魔王』様のお力を受け継ぎし者よ、ようこそおいでくださりました……!」
「なっ……!?」
一言で言おう。そこに寝ていたのは、絶世の美男子だった。
これはいったいどういうことだ? ゴブリンの里の長というからには、しわくちゃのゴブリンだと思っていたのに。
しかし彼はしわくちゃどころかゴブリンでさえない。
せいぜい髪がゴブリンの体色と同じ緑色だったり、ゴブリンと同じく耳が尖っている程度で、あとはほとんど人間だ。
思わず困惑する俺に、ゴブリンのゴブゾーが『アニキッ、こいつおかしいゴブッ!』と唸る。
『こ、こいつ、見た目はニンゲンのくせに同族の気配がするゴブッ!』
「えっ、なんだそりゃ!? つまりこの人は、こんな見た目でゴブリンだっていうのか……!?」
どっからどう見ても美肌のイケメンにしか見えないんだが……果たしてどういうことなのか。
さっきから困りっぱなしの俺に、長はホッホッホと笑いながら細い瞼をわずかに開く。
「驚くのも仕方ありますまい。ワシは先代魔王様のお力によって、『魔人』となっておりますからな」
「魔人、だと?」
ああ、たしか伝承で出てきた単語だ。
魔王の側近には、人間とよく似た姿の妙な魔物がいたという。
なんでも通常の魔物とは一線を画す戦闘力を持っていたそうで、その正体や誕生経緯ははっきりわかっていないとされているが……、
「今のワシはただのゴブリンではなく、『ゴブリン・エル・デルフ』という種族に進化しておりましてなぁ。まぁ大雑把なところのある魔王様は、縮めてエルフと呼んでおりましたが……」
「って、ちょっと待ってくれ長さん! 色々とツッコみたいところだらけなんだが、とりあえず長さんはいったい何歳なんだ!? 魔王と付き合いがあるみたいだが、魔王が生きてたのって数百年前の話だろ!?」
「あぁ、それはエルフとしての異能【永遠の美】のおかげですな。寿命がものすごく伸びる上、全盛期から年を取らなくなる能力なのですよ。おかげでクソザコ種族の元ゴブリンでありながら、ここまで生きることが出来ましたわ」
「す、スキルってなんだよ……?」
もうさっきからわからないことだらけだ。
思わず頭を抱えてしまう俺に、魔人の長は「やれやれ」と呟いた。
それは最初、理解力のない俺に対して向けられた言葉だと思ったのだが……、
「はぁまったく……困りますぞ、魔王様。彼になにも教えていないのですか?」
――そう言って長は咎める視線で、気まずそうな顔をするレイアを睨んだのだった。
って、ええええええええええーーーーーーーーッ!?
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