16:蠢く紫電
ツイッターにて、「底辺領主」第一話を公開中です!
「――くそっ、あの黒髪の野郎ふざけんなよッ!」
「アイツのせいで奴隷にした魔物も逃げるし滅茶苦茶だぁ!」
酒場にて、襲撃者たちは愚痴をこぼしながら飲んだくれていた。
もっぱら彼らが口にするのは、つい先ほど黄金竜を捕えようとしていた自分たちをボッコボコにしてくれた黒髪の青年・エレンのことである。
ふざけんなチクショウッと何度も呻きながら酒を呷る。
「にしてもあの野郎、シルバーウルフにサラマンダーだったか? ずいぶんといい魔物を連れてやがったな」
「ああ。シルバーウルフはニダヴェリール大陸の魔物で、サラマンダーはムスプルヘイム大陸でしか捕れない魔物だったかねぇ。狼のほうは素早いしトカゲのほうは魔術師みたいに火ぃ出すし、おかげでボコボコだよ……!」
「臆病でいちいち脅さないと言うこと聞かねえゴブリン連中も、率先して戦ってたしな。……それに何より、あいつ『ゴースト』を連れてたよなぁ? 理性の沸いちまった悪霊なんざ、そんなんどうやって奴隷にしたんだよ……」
エレンのことを気持ちわりぃ黒髪と罵る彼らだが、調教師としての観点で言えば大人物と言わざるを得ない。
魔物を捕獲するには『呪縛の魔法紋』を刻みこむ必要があるのだが、当然ながらこの作業はなかなかに大変である。
なにせ魔物も必死なのだ。戦闘中に刻むことはまず不可能なうえ、完全に意識を落とそうとダメージを与えすぎたら死んでしまう。
しかし相手に気を使いすぎれば逆に殺されてしまう可能性もあるし、たとえ殺さなくても、手足や内臓を一つでも駄目にしてしまったら奴隷として使えなくなる。
魔物の捕獲とは、簡単にできることではないのだ。
「チッ、どうせ金で買ったに決まってるよ。ゴブリンどもみてえに店売りの魔物もいるからな」
「そりゃそうだが、シルバーウルフやサラマンダーなんて早々買えるようなモンじゃねぇだろ? それにゴルディアス・ドラゴンを使役してやがったし、戦って奴隷にしたってことじゃねぇの?」
「うげっ、まぁ冷静に考えたらそうなるよなぁ……。相手はクソつえぇ竜種だってのに、どうなってんだよアイツ……」
“それに物理攻撃の効かねえ悪霊もいるとかどんなパーティだよ”と荒くれ者たちはげんなりとするのだった。
最初は復讐する気まんまんだったが、いざ冷静にエレンを分析してみたらこの通りだ。奴隷の魔物を失った彼らに勝てる要素など一つもない。
なお実際はエレンは魔物を奴隷にしたわけではなく、彼女たちから信頼されて(より正確に言うなら惚れられて)仲間にしているのだが、ともかく保有戦力がえげつないことには変わりない。
さらに超希少かつ不思議な能力を持った武具『魔宝具』を複数所持し、本拠地にはあと数十体ほどのシルバーウルフと十体ほどの雑多な魔物たちがいると知ったら、彼らは次にエレンとあったら速攻で土下座して逃走するだろう。
「くそぉ、復讐計画はやめだチクショウッ! せっかく黄金竜を捕まえて黄金の鱗製造マシンにして荒稼ぎしようと思ったのによぉー!」
「はぁ、これからどうすんだよオレたち。奴隷の魔物もいなくなっちまったし……」
「真面目に働くしかねーだろ。とりあえずここの酒場でウェイターでもしてみるかぁ?」
かくして完全にやる気の失せた彼らは、エレンに対する復讐などより自分たちの明日を考え始めるのだった。
だがそのとき、
「――なんだよオメェらッ、逃げちまうのかぁ!? それでもタマぁついてんのかーッ!?」
「「「あぁッ!?」」」
突如として後ろからかけられた罵声に、荒くれ者たちは怒りを露わに振り返る。
しかし次の瞬間、罵声を放った男が誰だったかを知るや、一瞬にして身を縮こませてしまう。
「ひぃっ、アンタは……いや、アナタ様は……ッ!?」
「ってオイオイ、玉無し呼ばされたってのに殴りかかってこねぇのかよ。――このサングリース様は、いつだって相手になってやんぜぇ!?」
そう言って紫色の瞳をぎらつかせる男に、荒くれ者たちは「滅相もないッ!」と慌てるのだった。
――ああ、喧嘩なんて売れるわけがない。
なぜなら今目の前に立っているこの男こそ、スヴァルトヘイム連邦国が宮廷魔術師『紫電のサングリース』と呼ばれる人物だからだ。
「なぁ、やろうぜ!? 最近はオレ様を熱くしてくれるヤツがいなくてよぉ~!」
「(って誰がオメーみたいなヤツとやるかよッ!)」
宮廷魔術師とはすなわち、国中から選りすぐられた最強クラスの魔術師のことである。
そもそも炎や風を自在に放てる魔術師である時点で人間離れしているのだ。その中でもさらに優秀な者となれば、並のチンピラでは瞬殺だ。
しかも宮廷魔術師に選ばれた者には、王から直々に強力な『魔宝具』を与えられるという話もあり……、
「ハァ~、そんなにやりたくねぇのなら仕方ねえ。じゃ、オメェらが話してた『やべー黒髪の野郎』について詳しく教えろや」
「えっ!?」
「え、じゃねーよ。ほら、もっと喜べや……そいつをボコりに行ってやるっつってんだからよぉ……ッ!」
獰猛に笑うサングリースに、荒くれ者たちは息を吞む。
かくしてエレンたちがゴブリンの里に向かう中、凶悪な男が動き出そうとしているのだった――!
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