10:ペインターの地にて
「なっ、銀狼を狩りに行ったケイズめが戻らないだと……?」
「ハッ!」
衛兵の報告を受け、初老の男『ポルン・ペインター』は目を見開いた。
彼こそはエレンの出身地であるペインター領の領主であり、シルバーウルフの討伐依頼を出していた張本人である。
いい加減に邪魔な狼どもを排除して森の恵みを手に入れようとしていたところだ。
そこで領内最強の魔術師・ケイズが名乗りを上げ、これでようやく森が手に入るだろうと思っていたところで――、
「まっ、まっ、待ちなさい! ケイズといえば国内でも屈指の実力者だぞ!? あれで品性と善性と人間性と知性がもう少しあれば、宮廷魔術師にだって取り立てられただろう人材だ! それが、帰ってこない……?」
「ハッ! ケイズ殿だけでなく、彼が率いていたテイマーギルドの者たちも誰一人として戻っておりません!
すでに彼らが出立してから丸一日……これは最悪の可能性もあるかと……」
「っ――馬鹿な!」
最悪の可能性とは、すなわち全滅のことだ。
そんな馬鹿なことがあっていいわけがないとポルンは机をガンッと叩いた。
「くそっ……はっきり言って私はあの男が嫌いだ。たまたま強力な魔術師として生まれたというだけでデカい顔をしおって。
だがしかし、それでもこのペインター領にとっては貴重な人材であることは確かだ。だというのに……っ」
苦虫を嚙み潰したように呻くポルン。
領内最大戦力の損失は非常に痛い。強力な魔術師を常駐させているというだけで、領内で悪事を働こうとする者らへの抑止力となるのだから。
「はぁ……魔王との決戦後、伝説の勇者が開発した『呪縛の魔法紋』によって人類は魔物をラクに手懐けられるようになった。
だが逆に言えば、どんな悪人だろうが魔物という生物兵器どもを簡単に保有できるようになったということだ。そんな奴らがケイズの死を知って暴れまわろうものなら……」
よくない未来を想像し、ポルンは胃のあたりがキリキリと痛み出すのを感じていた。
――彼が言ったような事情もあり、人類の文明は数百年前からほとんど停滞気味だった。
魔物たちを使った大規模な戦争が何度も巻き起こり、世が乱れるのに合わせて悪党たちも多く現れるようになったからだ。
まだ魔王を相手に人々が一致団結していた頃のほうが平和だったかもしれないというのは、なんとも皮肉な話である。
「……ともかく衛兵よ、ケイズが本当に死んだとはまだ限らん。すぐに探索部隊を組んで銀狼の森に向かわせなさい」
「なっ、それはかなり危険ではっ!? シルバーウルフどもにケイズ殿を打ち倒すほどの実力があるのなら、その者たちもやられてしまう可能性が……」
「フンッ、こんな時のための『黒髪の者』だろう? 奴らは困窮しているからな。協力金をエサにして街中からかき集め、いざという時の肉壁としなさい」
「ハ、ハッ!」
冷酷な判断を下すポルン。だが領主たるもの時には非道になることも大切だと彼は自負していた。
それに、所詮散るのは黒髪の者の命である。ケイズほど彼らを酷く思ってはいないポルンだが、それでもいざとなれば使い潰すことも辞さない程度の扱いであった。
「さて、これ以上トラブルがなければいいのだが……」
そう呟きながら、ポルンが執務室の椅子に深く座り込んだ――その瞬間、
「し、失礼しますッ! 領主殿に緊急報告がッ!」
「むっ!?」
突如として、別の衛兵が部屋に飛び込んできたのである。
一体今度は何なんだと顔をしかめるポルン。そんな彼に、衛兵は震えながら言い放つ。
「ぎ、銀狼の森を囲うように、突如として超大量の瘴気が発生! 一切の侵入が不可能になりましたぁーーーーーッ!」
「はぁああああああああーーーーーーーっ!?」
意味の分からない報告に、領主ポルンは絶叫する――!
瘴気というのは人間の魂を汚して死に至らしめる魔の毒霧だ。どうしてそんなものが銀狼の森から放たれたというのか?
「う、嘘だろう……! 瘴気など、世界でも噴出している地域はせいぜい八か所ほどとされているというのに……それがなぜ我が領内に……!?」
冷や汗をかきながらポルンは意識を朦朧とさせていく。
――これではケイズの探索を行えないどころか、領地に訪れる観光客も激減し、外貨もほとんど得られなくなってしまうだろう。さらには街の付近で瘴気などが発生すれば、民心も間違いなく荒れるはずだ。
最強魔術師の失踪に、領内の貧困化に人心の乱れ。
そんなものが重なれば、治安などあっという間に悪化してしまうに決まっている。
「ど、どうしてこんなことになってしまったのだぁ~……!?」
胃をズキズキと痛めながら、領主ポルンは悲鳴じみた声を上げるのだった……!
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