6話 エリーゼのために③
前話のあらすじ:日本人に核は荷が重すぎます
「…ちょっとこれはさすがにマズくないのか?トラクターは無事だったけど…」
魔王がいたあたり一面焼け野原だ。生き物もなにも残っていない。核の炎で焼き尽くされている。
「後で【治せる】からいいのよ。生物っていっても【ぷよりん】くらいしかいなかったし」
「そういう軽い気持ちで使う兵器じゃないと思うんだが…」
「貴方が日本人だからよ。魔神が生み出したトンデモ魔法が飛び交うこの世界では、貴方の世界の兵器とSFアニメで出て来るような【決戦兵器】が必要だったのよ」
「ところで魔王は大丈夫なのか?あれ絶対消滅してるだろ…」
俺は初めて目にする実際の核爆発の光景にドン引きしていた。
俺は世界で唯一の被爆国として日本人として、違う世界だとは言えども使ってはいけない兵器を【自分の欲望を優先するため】にあっさり撃ったのだ。
(…知識として知ってはいたけど、こんなものを使っていい訳が無い。反省しなければ…)
そんな俺の感情は、1秒も持たずに粉砕された。
「ふっかーつ!!」
「…お前なんで核ミサイルを撃ち込まれる前よりピンピンしてんの!?ちょっと心配したこの気持ちを返してくれない!?」
「魔神さまへの愛がある限り私は無敵なんだー。創造神でも私はコロリ出来ない。今までに何十回と創造神が送り込んだ【勇者】や【賢者】をコロリしてきたけれど、貴方は今までとは違うようだねー」
「…」
勇者と賢者はどうでもいいし興味もないが、核爆発でノーダメージな上に話も通じないし、コヤツをどうしようかと考えていた。
(お前核だぞ核!?何で生きてんの!?あり得ないだろ!?)
しかし核でも死んでなくて安心したのは事実だ。彼女は一応地球から転移してきた人間なんだ。
ユリアの腹づもり次第でコロリしてしまっては非常に後味が悪い。
…肉体的に倒せないなら、やはり精神的に崩していく他あるまい。
人間同士なのだから、肉体だけを滅ぼせばよい訳ではない。【相手の精神を崩壊させてしまえばいい】。
農家という職業は実に同業者同士の小競り合いが多い。
やれお前が水を入れたせいで水が来ないだとかお前が水を入れたせいで畑に水が乗ったどうしてくれるだとか、自分の事しか考えていないヤツらばかりだ。そこで俺は一つの能力を手に入れた。
【正論で武装すればいつか必ず論破出来る】という能力だ。
クソじじい共に常識を説いても理解されることはないので、クワとクワで殺し合いをする前に論破するスキルを身に着ける必要があったのだ。
クソジジイどもは社会経験もないので、クソ自分勝手で常識の「じょ」の字も知らない。
「お前、元の世界から魔神に連れてこられてから、どういう風に生活してきたんだ?」
「え?さっき言った通り甘やかされて…」
「お前騙されてるぞ」
「え!?」
「甘やかされてるのは本当の愛情じゃない。人生辛いことも苦しいこともたくさんある。お前は堂々と甘やかされていると言ったが、人生はそんなに甘いものじゃない。お前は調教されている。甘やかされているのではない、調教されている」
「ちょ、調教!?そんなことないわ!私と魔神さまは本当に愛し合って…」
「本当に愛し合っていれば、甘やかさない。お互いに切磋琢磨し合える関係が本当の愛だ」
「えーと…。あなたそんな崇高なキャラだっけ?」
ユリアが空気を読まずに突っ込んでくるが、人を惹きつける為には根拠のない自信や当たり障りのない良い話が必要である。
「うぅ…。ぐすんぐすん…」
「?」
エリーゼが突然泣き始めた。
「実は…」
(勝ったな)
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ぺこり。