お茶会は仲間外れもアリ
後書きでネタバレ垢の話しています。
お茶会は1階廊下から見える庭で行われた。
かつてエイシャがジヴェルから魔法を実際に扱うよう、ほんの少し指導を受けた場所だ。
ここでの思い出は……思い出すと少し照れてしまうのと、怖かったのと両方だ。
それ以降、ここでは魔法の練習は行っていない。
ジヴェル曰く、エイシャの属性はジヴェルすら見た事のない“無属性では”との事であった。
この世界の生き物は小動物にすら魔法属性があり、自身のそれを生まれながらにして自覚できる。
属性は火・水・土・風・光・闇のどれかを最低でも一つは有しており、エイシャの持つ無属性は通常であれば有り得ない種類なのだ。
エイシャにとっては、全ての魔法行使における魔力コストが倍量以上になる、もはや一種の呪いであり、エイシャは満足に魔法も扱えないまま。
だがその実、ジヴェルの考察や実験では『無属性の魔力は“恐らく”誰にでも譲渡可能であり、その魔力を受けた者は魔力増幅の恩恵を受けるものである』と推測されている。
実際、エイシャの魔力を受け取ったジヴェルは魔力の増幅がなされ、収まらずに溢れた魔力で自身の部屋をドス黒い魔力の海にした。
推測の域を出ない部分は多くあれど、軽々しく他人に知られてはいけない特徴だ。
尚且つジヴェルは嫉妬深く、独占欲の強い性格だ。自身の大切なつがいであるエイシャの魔力だからこそ、簡単に他人に知られる事は避けたかった。
魔法の練習をしなくなったのも、ここ山の上の城であろうと他人の目に付かなくするためだ。城内など、属性探知が可能なアーレラが居る中で迂闊に行えない。
ともあれ、ジヴェルにそんな思惑や感情を向けられているとも知らず、エイシャは庭に置かれたテーブルの前に着席した。
「揃いましたわね。久しぶりですこと」
目の前に座ったミカエラが全員を見渡して言う。
まだ午前の光を受けた彼女の桃色の髪は、一層ミカエラの美貌を明るみに出した。
ミカエラ、エイシャ、マリエ、そして……リズ。
ノーラン城に着いて早々、リズによる揉め事や、ジヴェルによるエイシャの軟禁など、様々な理由が重なり叶う事のなかった“聖女の使い”全員での茶会。
実際のところ、聖女の使いはここに集う令嬢以外にも居るのだが。
しかし、これがのどかな茶会になる訳などない。
もはや会合である。
「ミカエラ様とご一緒出来る機会を与えて頂き、誠に感謝しております……」
そう言って目を伏せたのはリズだ。
彼女は闇魔法を使った頃からミカエラに避けられていた。途中からはアーレラの仕業に変わったが、リズもエイシャと同じく、外に出る機会をほぼ奪われていたのだ。
一度、茶会に誘った時は既に従僕であるはずのアーレラの支配下にあり、身のある発言は出来なかった。
「構わなくてよ、わたくしこそ嬉しいの。楽にしてちょうだいな」
今のリズからは、何故か以前のような鋭い雰囲気などはなく、ミカエラの侍女であった時同様の落ち着きを感じた。
それにミカエラが軽く微笑み、つられてマリエも微笑む。
マリエは別段、何かトラブルや事情があったわけではない。
ただただ、本人の引っ込みがちな性格と、城内の様々な情報を、かなり大まかではあるが自身の従僕のノエルから聞かされていたため、安易に声を掛ける事が出来なかった面が大きい。
マリエの専属従僕であるノエルはジヴェルに言いつけられた仕事のため不在ではあるが、彼は契約上の主人であるジヴェルと、形だけの主人であるマリエ、両方に忠実であろうとしていた。
元秘書兼暗殺者であったノエルに諜報とその横流しなど難しくはない。
今日はノエルの代わりに燃える元メイド、レガがエイシャの従僕をも兼任してマリエの背後に立っている。
「さて……」
全員のカップに紅茶が注がれた、それを確認し、ミカエラが両の手を合わせて笑顔を作った。
今回集まった理由は、各々の状況からこの城の全体像を可能な限り把握する事だ。
その為には言わなければならない事がある。
「積もる話がありますのよ、わたくし達淑女ですもの、この時を待っておりましたの」
合わせていた両手で柔らかそうな頬を包み、ミカエラは続けた。
「少し恥ずかしくて……申し訳ないのですけれど……席を外しては頂けないこと……?」
そう言って自身の従僕であるリカルドを始めとして、アーレラ、レガの3人を見やる。
勿論、従僕らは目を見開いた。一番に口も開いたのはレガだ。
「そっ、それは私もですの!?」
とても心外!
そんな心の声だって聞こえる。
しかしミカエラは負けじと、困った顔をわざと作って答えた。
「わたくし、申し訳ないけれど貴女の事はあまり存じ上げませんの……次から仲良くしてちょうだいな……?」
確かに。
そんな心の声がレガの顔全体に出ている。
そうなのだ、正直ミカエラとレガの接点は少ない。
マリエは時折レガに付いて貰っているが、身体が感情に合わせて発火しようと何だろうと、実はこの城に居る従僕の中で最も毒を持たない人物では、と思っている。
特にジヴェルとエイシャの事について話している時によく発火しているが、レガに関してはノエルからも不穏な話は何一つ聞いていないのだ。
しかしそれはそれ。レガの気持ちがどうであろうとがジヴェルの部下であることは間違いない。
あの執事に詰められたら何を吐いてしまうか分かったものではないのだ。
「承知致しました! 今後は是非とも、ミカエラお嬢様とも仲良くさせて頂きたく思いますわ!」
そう言って燃える女、レガは潔く頭を垂れた。
そんな部分も含めて考えれば、レガは仕事の出来る人物だと評さざるを得ない。
アーレラは元々使用人一家の出身故、その辺りに関しては飲み込みも良く、ただ深く頭を下げて退がった。
あまり納得いかない顔でアーレラやレガと共に下がったのはリカルドだが、仕方ない。ミカエラの意図も分かってはいたが、自分も同じ場所で話の共有をしたかった。
(これも……仕方ないのかもな、後から何か聞ければ良いが……)
リカルドはそう考えながら目を伏せ、諦めたようにその場を後にした。
ジヴェルはゆっくりと闇を伝って城下町グライスの路地裏へと姿を現した。いつもの執事服では目立つため、ラフな格好に大振りのナップザックを背負い、麦わら帽子を被っている。
例の薬剤店は少し離れた場所にあるが、すぐ近くでいきなり出現する訳にはいかない。
顔の良い彼は、人目に付けばすぐに女性の視線に晒されるのだが、その日は違った。
図書室の司書として雇ったガルシアより拝借してきた、この麦わら帽子。
(ちょうどよく顔を隠せるな。ツバが広いからか……近くに寄るまでは分からないのか)
執事は今、あまり羽振りの良くなさそうな旅行者といった出立ちだ。
グライスが幾ら隣国コバリアに接している町と言えど、ここは城下町。当然のように富裕層も多く、薬剤店もそういった立地にある。
今のジヴェルのような出立ちでは、顔が良かろうとも拾うのは余程の物好きだろう。
(かと言ってこの姿のままうろつき過ぎても目立つ。溶ける事が前提か)
そう考えながら闇に溶けやすい日陰を探した。
今頃ノエルは薬剤店で辞表を出している事だろう。
普通であればこのような調査は長期間で行い、キチンと尻尾を掴んでから行うべきであり、全貌を把握してから囮を寄越すのが普通だ。だが如何せん、今のジヴェルには部下が少ない。
戦闘や隠密も行えるような部下は皆、令嬢達に付けた従僕らしか手札はないのだ。
彼らは自身の仕える令嬢の元へ、すぐ戻してやらねばならないし、令嬢らにとってもそうである。
(早くエイシャの元へ戻りたいな……)
ジヴェルとて例外では無かった。
そんなエイシャも今はミカエラの言う茶会に参加しているのだろう。
そこに自分が居ない事はかなりジヴェルの胸をざわめかせる。しかし自分で選んだことだ。
後々の甘味の為に我慢をする事も男としては必要である。
少々だろうと令嬢同士でも話をさせてやらねば。
(エイシャに自分の事を掴ませ、逃げ道を減らす為には)
そう、自分を納得させて足を運んだ。
まだ全てが手に収まった訳ではない。エイシャも、何もかも。
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本垢で載せられない絵、ツイや妄想が主です。自我めっちゃあります。
フォローくださった方への無闇な干渉は基本的にせず、6月15日の夜間に鍵をかける予定です。




