エイシャの朝、ジヴェルの朝
『3年以上更新されてないです』的なの出てるなぁ〜ってずっと思っていました☺️
後書きの下にネタバレ垢載せました。
今朝は久しぶりにジヴェルが朝の給仕を行ってくれた。
彼の姿はやはり美しく、考えていることなどは全て忘れそうになる。
「朝からあなたの世話が出来て嬉しい事この上ありません。本日のご気分はいかがですか?」
「えへ、凄く良いよ!」
全くの嘘である。
何せ不可解な事が多過ぎるのだから。
ブローデンが土の魔導師であったこと。
彼が城の地下にあった四角い金属の山を使い、動く人形を作り進めていること。
ザクラムが言うには、ジヴェルは竜人族としてはかなり不自然な人物であること。
昨日の1日…それも午前中だけでもかなりの情報量であった。
驚きはまだある。
「エイシャ、ミカエラお嬢様とのお茶に行かれるのでしたね」
そうなのだ。
エイシャがお茶会に誘われても課題を増やしたり嫌な雰囲気も出さず、平然とパンを盛ってくる。
「うん、最初は私から誘うつもりだったのに、私の方が誘われちゃった」
そう答えたが、執事は頷くように瞳を閉じただけだった。
……由々しき自体だ!
課題を増やさないジヴェルなど、ジヴェルではないかも知れない。
実は今、目の前に居る執事はジヴェルではなくヂヴェルである可能性がある。
「あのね、いつも言ってるけど、そんなにパン盛らなくて良いのよ」
取り敢えず目の前にある問題については指摘しておいた。
そう言うと瞳を閉じたままだった執事が、僅かに眼を開く。そういう顔をされると、まるで微笑んでいるかのようだ。
「申し訳ございません、朝からエイシャのお世話が出来るとなるとつい……」
白い皿には用意されていたパンの殆どが盛られているような気がする。パッと見て30個はあると思われるパンの、殆どだ。
(そもそも用意し過ぎなのよ。後は誰が食べるのかしら。使用人の皆さんだとは思うけど、残すこちらも気分が良くないのよね)
そう考えながら朝日のおこぼれのような明かりに照らされたパンを見やった。
「ああ、ご安心を。エイシャが残した物なら私共がありがたく頂戴します。食べ切れぬほど満足に用意出来た事は誇らしいですからねえ」
考えていたことを読んでいるかのようにジヴェルの声が聞こえる。
「へえ……でも食べられる分だけ取るわね、食べ物は大事だからね」
その辺に居る貧乏な少女だったのはつい最近の話だ。半年経つか経たないか程度には最近であり、未だ貧乏根性は抜けないで居る。
(どうせ、ここで勉強して職が得られなかったら意味ないしね……それに……)
何の望みがなくとも、ジヴェルの側に居たい。
それならばせめてここでメイドとして雇われるのも一つではなかろうか。
それは惨めだろうか。
考えながらパンの一つを手に取って千切り、口に運んだ。
「エイシャ、本日はグライスへ出かけて参ります。なるべく少々で戻りたいとは思いますが、長引く可能性もございます。ミカエラ嬢とのお茶会には、現在マリエ嬢に付かせているレガが兼任致します」
口早に今日の予定を報告するジヴェルはいつもの無表情だった。
その無表情はこの城の壁と同じ、石のようにも思える。
「そっか、毎日大変なお仕事だよね。気を付けてね、早く帰ってきてね」
(今日も、ずっとは居てくれないもんね)
そう考えたエイシャが、自分の願いを少しだけ、かするように……僅かでも傷になれば良いと思ってほほえみながら付け加えた。
それがどれ程執事を射抜くとも知らずに。
「何か、家族に言ってるみたいだね、えへ」
アーレラは終始目が座った状態でジヴェルの話を聞いていた。
対するジヴェルは心なしか嬉しそうで余計に腹立たしい。
エイシャの一言。それはジヴェルの心臓をブチ抜くには十分な発言だった。
家族とは言うものの、それは仕事へ出掛ける夫と見送る妻……そんな姿を想像してしまって気分が悪い訳が無い。
「それで。今日は下見なさるんですよね、ジヴェル様」
朝の余韻に引き戻されそうであったが、アーレラの声で現実へ戻ってくる。
「その通りです。ノエルは本日、例の薬剤店へ辞表を出すために向かいますが、私はそれとは別に現場をそれとなく下見して参ります」
アーレラの目は未だ座ったままだ。
どうしたものかと執務室の少年を見やる。
「承知しました」
背筋を伸ばして答える少年は完璧な使用人だ。しかし、この少年の中では思った通りに……と言うよりは気に食わない事が多くあり、それが解決し切らぬまま彼の目を座らせている。
正直なところ、ジヴェルがエイシャの一言で気分良くしているから目が座っているのではない。勿論、何があったかは分からないアーレラではあるが、“イイコト”があったのであろう事ぐらいは察しがついて拍車をかけてはいるのだが。
リズの中に居た“誰か”は取り逃がし、リカルドは不自然に闇の気配を持ったままで城内を移動している。
そして何より、この目の前に居る男から告げられた仕事の内容だ。
(ハーフのフリ!? ボクが!?)
ジヴェルから告げられたアーレラの仕事はハーフのフリをし、実際のハーフの搬入がどうなるかを試すもの。
確かに、危険な仕事をこなすとなればアーレラは打ってつけなのかも知れない。
この15歳の少年は天使のような美貌さえ備えているものの、中身は凶暴な狂戦士の体質を有する化け物だ。
隠密行動に長けたノエルとはまた違う、窮地に陥った際の戦闘力は、犯罪者であろうとその辺の常人など相手にならない。
薄暗い執務室で淡く光るアイスブルーの瞳は、そんなアーレラの不満げな目元を観察していたが……まぁそれはそうかと思う。
何せ、ジヴェルの言いつけたハーフのフリをすると言うことは、詰まるところ、獣耳や尻尾の飾りを付けて誘拐されるよう仕向ける事だ。
(私だったらしたくないですね)
自分がしたくない事は部下に押し付ける、それが一番だ。そう思って目が座った少年の顔は気にしないことにした。
そうは言うものの、ハーフのフリをさせるのであれば体格が大人と比較して小さな少年で、尚且つ天使のようなアーレラ以外にない。
仮に自分が半分でも変化を解き、常人より大きな体躯で目に水滴を垂らしておいたところで攫おうという生き物は居ないと思われる。
老若男女問わず、絹を裂くような悲鳴をあげて逃げるのが当たり前の反応だ。
そしてやはり、そんな役は自分はしたくない。
下見をした後はアーレラを飾って、アーテルの関所の近所へ放り出して置くだけだ。
あとは関所の管理をしているシルヴ伯爵……つい最近ジヴェルが配下にした狼の獣人が取り計らってくれるだろう。
何せ彼は自身の息子を探し救い出すためならとジヴェルに忠誠を誓った。
伯爵の地位を持ちながら、公爵家とは言え一介の執事であるジヴェルに頭を垂れるなど、それこそ貴族の笑い者かも知れない。
だが、シルヴは躊躇などしなかった。
子の為ならとプライドをも捨てる覚悟など、出来るとは口で言うものの実行できる者は少ない。
いや、自身の罪にたまりかねた部分が相当だったとも考えられる。
ともあれ、ジヴェルは彼の命も預かったのだ。結果を出さねば誰の顔も見れたものではない。
「現場の下見の後、もう一軒気にしているところがあるので、そこを見に行ってきますね」
そのもう一軒とは、ザクラムに監視させている空き家のことだ。
ザクラムの“僅かに灯りが灯ったが人の出入りは無い”という報告が正しければ、そこは空き家ではない可能性が高い。
そして購入を断った不動産屋は、それに関与していると見て間違いないのだ。
住まう人物が居れば当然『人が住んでいる』と断るはずだが、あの不動産屋はそうとは言わず、“持ち主が居る”事だけを歯切れ悪くも仄めかした。
そして実際に持ち主が居るのであれば、不動産屋が介入などしない。当たり前だが、それは持ち主同士との話になる。
(何が居るのかは知りませんが……限定的に明かりを灯すのであれば……暗いと視認が難しく、明かりを灯す知恵のある生き物。つまり……)
獣人か、人間か。
「なのでアーレラ、今日は十分にお嬢様方のお茶会をサポートするのですよ?」
「……はぁい、仰せのままに」
あまり腑に落ちてはいない。そんなアーレラの返事が薄暗く、滝の音が響く執務室で聞こえた。
誰が裏を掻くかは分からない。
広告挟んだ下の方にネタバレ絵垢のリンクを置いています。
大体公表した部分のみで、未公表部分に関しては載せません。本垢で載せられない絵、つぶやきなどが主です。自我めっちゃあります。




