8 思いきりは必要
だいぶ端折りました。それはもう。今までは何だったん長かったやんって怒るぐらいです。
「ノーラン公爵はどのような方なのですか?」
ミカエラがフラウム王子とアルジェルに尋ねる。
「どの方の夜会や催しでもお見掛けした事がありませんから……」
そう言って木陰に用意されたサンドイッチを手元の皿にそっと置く。
絵本で見たような優雅なピクニックと言ったところだ。絵に残しておきたい気分になる。
アルジェルがミカエラの質問に答える。
「ノーランの領主は基本、人前に姿を現す事がありません。王の呼び立てであっても大抵は代役の方が来られます」
極度の引きこもりなのだろうか。24年前も今回も別荘で療養だ。
そう考えながらエイシャはサンドイッチを齧った。
「今までの不参加率の高さもあり、この国の上級貴族は始めから彼を招待することはありません。下級貴族になると分かりませんが……」
「まあ……今回もそうでしたが、あまりにも不遜ではなくて……? 王相手にあんまりですわ」
ミカエラが少し怒ったように紅茶を手に取った。
少し話題を反らそうとエイシャが話をふる。
「あの、ノーラン領はどんな所なんですか?」
その質問にはフラウムが答えてくれた。
微笑みながら答えてくれるその顔は相変わらずハイビームのようだ。直視できない。
「ノーランがこの国の東端にあることは知っているな?」
それは分かっている。馬車で20日であれば大体800km強ぐらいか。恐らく東京から北海道を直線距離で結んだぐらいの距離ではないだろうか。
「ノーランは山脈に沿った広い領土だ。宝石が採れ、牧畜も農業も盛ん。領主は姿を見せないが、交易は普通に行われている。領土は半分弱ぐらいが森に覆われていて、ノーラン城は山にあるんだ」
言いながら紅茶を自分で淹れている。アルジェルが何も言わないが、きっとそれがフラウム王子の常なのだろう。
「山脈の向こう側は深い森を挟んで隣国のコバリア王国となっている」
そこから次をアルジェルが続けた。
「領民は殆どが竜人族です。ただ、彼らは自分達の事を竜の子孫だから”竜族”だと言いますが。ノーラン公爵も竜人族ですよ」
アルジェルがエイシャに紅茶のお代わりを注いでくれる。馬車旅なのに贅沢だ。
「領民は領主である公爵を大層慕っています。3年に一度だけ、姿を見られるんですよ。実はそれが聖女の涙を納める日でした。魔導師のローブを深く被って現れるので顔なんて見えないんですけどね……」
「……正直、あれも代役かもしれないよな……」
フラウムが新たなサンドイッチを手に取り話す。
フラウムが好んで取っているサンドイッチの中身はトマトとチーズだ。
「何か……人嫌い、なんですかね……」
そう言ったマリエは手元の紅茶をくるくるとかき混ぜている。
「人嫌いであっても王の前には出るべきだとは思いますわ。ですが領民が崇拝しているため、王も大きく出ることが出来ない、という事ですわね」
ミカエラがリズからナプキンを受け取った。口元を丁寧に拭っている姿さえ令嬢として完璧に見える。
「大方そうですね。元々この国の領土ではありませんでしたし、血気盛んな竜人族を敵に回すと太刀打ちするにも通常の人間や獣人では厳しいものがあります」
フラウムがアルジェルにも紅茶を淹れている。
さすがにこれにはぎょっとする。
そしてアルジェルもそれを普通に受け取っている。
この国の貴族や王族では普通なのだろうか……と思いミカエラを横で見ると、彼女も気にしている様子だった。
(なんだ……私がズレてる訳じゃないんだ……)
「ま……人前に現れない以外は問題無いんだ、領の税収も安定しているし、かと言って重い税や厳しいルールも無いからな」
そしてフラウム王子は立ち上がった。
「そろそろ行くか」
道中は楽なものではなく、雨にも降られる日もあったし、高級宿を選んでくれていても疲れが過ぎて寝付けない日も多かった。
エイシャはミカエラにあれこれと叱られることが多く、エイシャは勝手に”ミカエラお姉さま”と呼んだ。
「ちょっと、貧民が私を姉呼ばわりなど無礼が過ぎましてよ!」
その横でリズが「そうですわ」とか「図々しい」などと言っている。
だがミカエラの顔自体はちょっと満更でも無さそうだった。
「……貴族である私を慕うことは制限しませんが、その呼び方は改めなさい」
(心の中ではいいわね、やったわ。実はこのままミカエラお姉さまを攻略出来るの?出来るわね?)
乙女から百合の匂いがしてきそうだが、この世界が何の世界かはいまだに分かっていない。
そして確実に図太くなっている自分にも気づいていた。
マリエはエイシャ達のその様子を見て常にハラハラしたりホッとしたりと忙しく、引っ込み思案な性格も手伝って口を出すことも無かったが確実に心労はあった。
疲れもあったがそれなりに……楽しい道中も終わりが見えてきた。
「あれが……ノーラン城ね」
ミカエラが山に建つ白く大きな石造りの城を指して言った。
青い屋根の尖塔が4本建つその城は3分の1程が山に食い込んでいるように見える。何もなければ5本目の尖塔があるであろう部分は山だ。
「……いよいよ……ですね……」
マリエも不安そうに言う。
つられてエイシャとリズが胸に手を当てた。
その間にも馬車は着々と城に向かって進んでいく。
この領地で聖女の使いとなった4人の3年が始まろうとしていた。
最初の話書いてる時点でノーラン着いた話が頭にあったので、ついついこう…頭のギアがドライブだしアクセルガチ踏みでぶっ飛ばしそうだったんです。
ここまで我慢して書いたのって私史上初だと思います。
モンハンのアイスボーン出たら放置どころか小説の存在忘れそうなので早く終わらせような。
恋愛要素もちゃんと出していこうな。
王子ともフラグ立てた方がええんちゃう