第55話 喜捨を渡す
「行け! 進め! 押し返せぇぇぇぇっ!」
「無理です! まったく止まりません!」
「泣き言を言うなぁぁぁぁぁぁっ!」
「むしろ泣きたいです! なんなんですかあれはぁっ!?」
突撃する聖騎士たちは、なすすべなくカナタの障壁に勢いを殺され、両脇に押しのけられていく。
そしてその後ろを、祈りを捧げながら付いていく聖都の民たち。
まるで物語に歌われる始まりの聖女の行進だ。虐げられていた民たちを救い、困難の先頭に立って導いたという伝説の再現に他ならない。
聖騎士の中にも、自分は奇跡を目の当たりにしているのではないかと思う者まで出始めていた。
「モフモフ……モフモフ……ふふ、うふふふふ……」
実態はモフモフ目当てに大聖堂を目指しているので、特に民を救いも導きもしていないのだが、事情を知らない者たちからすれば神々しい奇跡にしか思えなかった。
ついにカナタは大聖堂へと繋がる一本橋のところまでやって来た。
「ひ、ひぃっ……!?」
以前、カナタを追い返した門番が、恐れのあまり腰を抜かして尻餅をついている。
「あ、これ、金貨百枚です」
門番の騎士に喜捨が入った袋を渡し、カナタは橋を渡った。
「みんな、ここまでだ。ここで真の聖女様のなさることを見守ろう」
「そうだ、何が起こるか知らないが、きっと凄い奇跡が起きるんだ」
「予感がするの。きっと今日聖都は生まれ変わる。それだけの何かが起ころうとしているんだわ」
カナタの後をついてきた民たちは、橋を渡るカナタに祈りを捧げて見送る。
上辺だけの神聖さを重視し、金を集めることに終始し、弱きものを救わず、裏でのうのうと悪事を働く。
聖都の民は薄々気づいていた。この街の歪さに、神聖教会の裏の顔に。
だが、誰も言えなかった。疑問の声を上げれば、それは背教と見なされるからだ。
恐ろしかった。背教者と指を差されることが。世界を敵に回すことが。神の怒りに触れることが。
それが今日変わる。
聖都の民たちはそんな予感をひしひしと感じていた。
聖都の民たちはその日、奇跡を目の当たりにした。
腐敗した教会を破壊し、真なる信仰をお与え下さるのだ。
しかし、その聖女の頭の中はモフモフのことしか考えていないことを彼らは知らない。
一方、教会への侵入を知らされた偽聖女マリアンヌは──
次回『火炎、吹雪、猛毒、呪詛、催眠! 何をやっても効かない!? ば、化物ぉ!?』