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第45話 盗賊を押しつける

 日が完全に沈みきる頃には村が見えてきた。


「あそこが、ワシの故郷であるマロン村じゃよ。帰ってくるのは久しぶりになるのう」


 看板の付いた入り口には大勢の人が集まっていた。


「おお、モルモじいさん! 遅かったから心配していたよ!」


 ランタンを持った村人たちが、馬車を取り囲む。


「手紙は受け取ってくれていたようじゃの。遅れてすまんかった。ちと道中で問題が起きてのう」


 モルモじいさんが振り返るのに合わせて、村人たちは奥をのぞき込む。


「! こ、この男たちはいったい!?」


 馬車の後ろに繋がれた盗賊たちを見て、村人が驚く。


「こやつらがその問題じゃよ。道中で馬車を襲ってきたんじゃ。じゃが、安心してくれ。この娘が退治してくれたおかげで食糧は無事じゃ!」


「こんばんはー。この村には良いモフモフはいますか?」


 モルモじいさんの隣に座ったカナタを見て、村人たちは驚きの声を上げた。


「こ、こんな若い少女が!? こんなに沢山の盗賊を一人で!?」


「都会の子って、すごいのねぇ」


「名のある冒険者だったりするのかい?」


 村人たちはカナタに感謝と好奇の入り交じった声をかける。


「さぁさぁ、まずは馬車を中に入れさせておくれ。荷も降ろさねばならんし、この盗賊たちもどこかへ縛り付けておかねば」


「しかし、モルモじいさん。今のこの村の状況じゃ、衛兵さんを呼んでくるまでこの盗賊たちを食わせておく余裕はないぞ」


 どうやら、この村は食糧難の状況にあるらしい。


 モルモじいさんが馬車いっぱいに食糧を詰め込んでやって来たのもそれが理由のようだ。


「あ、それだったら、この人たちはわたしがちょっと行って届けてきます」


「届ける?」


 届けるとはいったいどういうことだろう。


 村人たちが頭に疑問符を浮かべていると、カナタは盗賊たちに手をかざし、力ある言葉を唱えた。


「わーぷっ!」


 次の瞬間、カナタを含めた盗賊たちの姿がその場から消える。


「き、消えたっ!? ど、どこへ行ったんだっ!?」




   †   †   †




「先輩、そろそろあーしは上がりますねー」


 書類仕事をこなしていたメリッサの背中に、後輩のギルド職員が声をかける、


「ベラちゃん、今は良いけど、仕事中はちゃんとした一人称を使いましょうね」


「はーい」


 聞いているのかいないのか、入社したばかりの後輩にメリッサは軽く溜息をつく。


 ベラは愛嬌のある娘で、ミスは多いが冒険者たちからの評判は高い。評判の半分はその豊満な胸だろうが、強面の男たちに対して物怖じもしないので、受付嬢としての素養はあるだろう。


 じっくり育てて一人前に育ったら、仕事を引き継いで、自分は冒険者業に復帰したいと考えていた。


 組んでいたパーティが解散になって、一時的に現場を離れていたときに、人手不足のギルドから職員の仕事を受けたものの、そのままずるずるとこちらの仕事を続けてしまっている。


 ギルド職員の仕事は嫌いではないのだが、単純に忙しいのだ。今日も書類を片付けるのに残業している始末である。


 冒険者の気ままな暮らしに戻りたいという気持ちは強くある。


 昼間からお酒飲みたい。ダラダラ寝こけたい。


 三日稼いで四日休む冒険者稼業は、あれはあれで魅力的な生活だった。


「私もこの書類を終わらせたら帰ろうかしら」


「あ、じゃあ待ちますよ。晩ご飯一緒しましょーよ」


「……奢らないわよ」


「えー、けちー」


「まったくもう」


 メリッサは苦笑しながら、最後の報告書類を確認していく。


 数日前に彗星のごとく現れた期待の新人、いや、規格外の新人がこなした数々の偉業に関する書類だ。


 賞金首の巨鳥兄弟の討伐。突如現れたドラゴンの撃退と使役化。

 王都下水道を全て清掃した上にその元凶であった死霊を浄化。

 果ては魔王軍を単独で撃破する。

 等々、無茶苦茶である。


 あまりに騒ぎが大きくなりすぎて、半分始末書のような物になっている。


「ごはん、どこで食べましょーか?」


「中街に新しいお店が出たらしいわよ。キノコをふんだんに使ったキッシュが美味しいって聞いたわ」


「おおー、じゃあそこにしましょー!」


「はいはい」


 最後の書類を机の上でトントンと整え、引き出しにしまおうとしたところで、目の前に人が現れた。


「あ、メリッサさんだ。ちょうど良かった」


「えっ!? か、カナタさん!?」


 驚くメリッサの後ろで、後輩ベラも飛び上がっている。


「え、何このおっさんら。縛られてるんですけど、ワラ」


 突然現れたカナタの後ろには数珠つなぎになった男たちが周囲を見渡している。

 男たちにも何が起こったか分かっていないようだ。


「カナタさん、どうしてここへ? 旅に出たんじゃ……」


「はい、順調ですよー」


「それは、良かったですけど……、この人たちは?」


「盗賊さんです」


「盗、賊……?」


 メリッサは嫌な予感がした。


 具体的には晩ご飯の美味しいキッシュは諦めなければならないという予感だ。


「えっと、マロン村ってところの近くで襲われたんですけど」


「えー、あー、ありますよ先輩。その周辺から目撃情報と被害届が出てます。クエストとして依頼も出ていますね」


「……そう。それで、カナタさんが退治して連れてきてくれたんですね」


「はいっ」


「それはお手柄ですね……」


 今さらカナタが何をやっても驚かないが、数十人規模の盗賊狩りは大捕物だ。


 今から衛兵の詰め所に連絡して、お小言を聞きながら盗賊たちを牢に入れてもらって、報告書をまとめてカナタにクエスト達成の報酬を支払わなければならない。


「日付が変わる前に帰れるかしら……」


「あ、じゃあ、あーしはこれで……。お疲れ様っすー……」


 カバンを抱えて去ろうとするベラの肩をメリッサはがっしとつかんだ。


「逃がさないわよ……」


「ぴえんっ」


 地獄の底から響くような声音に、ベラはすくみ上がった。


「それじゃあ、あとはよろしくお願いしますねー」


「あ、カナタさん報酬をお支払いしないと!」


「次に来たときで大丈夫ですー」


 そう言うと、カナタはまた魔法を展開する。


「あと、軽くでいいので、経緯をお聞かせもらえると、報告書をまとめるのに非常に助か──」


「……消えちゃった」


 再び消えたカナタに、二人は呆然立ち尽くすのだった。




   †   †   †




「あの娘はどこへ!?」


「盗賊たちも消えちまったぞ!?」


 混乱する村人たちの前に、カナタが戻ってきた。


「ただいまでーす」


「お、おお、お帰りカナタちゃん。しかしいったい、何をしたんじゃ……?」


「ギルドまで跳んで、盗賊さんたちを届けてきました」


「「「え、えええええええええええっ!?」」」


 空間転移は古代の超高等魔法だ。

 こんな田舎の村人はその存在すら知らない。


『空間転移は余が長年かけて、現代に復活させた魔法なのだがな……。魔王軍を送り返すときに、カナタの前で一度使ったことはあるが、たったあれだけで分析して習得してしまったのか。天性の魔法センスだ』


『さすがはカナタ様です!』


「一度行った場所にしか飛べないのは、やっぱりお約束なんだね」


 褒め称えてくるザグギエルたちを抱きかかえる。


『イメージ力が重要であるからな。相当強く念じないと正確な場所へは飛べん。一回目からいきなり成功するカナタは、やはり傑物であるなぁ』


「メリッサさんもお手柄ですねって褒めてくれたし、良いことすると気分が良いねっ」


 いきなり大量の盗賊を押しつけられたメリッサは、自らの残業が確定したことに引きつり笑いでカナタを祝福した。


 カナタが去った後、隣にいたベラには「良かったっすね。担当冒険者の活躍で、出世間違いなしですよ。労働時間も倍増ですけど」と言われて、メリッサは大きな溜息をつくのだった。



カナタに成果を押しつけられ、もとい担当冒険者が優秀なおかげで出世街道を邁進するメリッサ。

代償は労働時間の増加と睡眠時間の減少。そして、遠のく婚期。メリッサの明日はどっちだ。

一方、村に戻ったカナタたちは、村人たちの内緒話を聞いてしまう。

その内容とはいったい──


次回『オーガとゴブリンに村の食糧を根こそぎ奪われる!』

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コミカライズも3月5日から配信決定!
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― 新着の感想 ―
[一言] メリッサさん、不憫。 異世界版ピヨちゃんか…。
[一言] 残業ってマジこのファンタジー世界ではきついよな; 受付嬢組に敬礼(`・ω・´)ゞ
[一言] カナタの前世知識のオリジナル魔法ではなく 余の復活させた魔法だったのか
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