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第43話 盗賊とお話しする

神狼フェンリルにフェンフェンという新たな名前を与え、仲間になってもらったカナタ。

しかし魔王ザグギエルとの相性は悪いのか、さっそくケンカを始める二匹だが、戦闘力がない同士なので戦いにならない。

白黒二匹のモフモフに顔を挟まれてご満悦なのだった。


『ところで、カナタ様。ここはいったいどこなのでしょう?』


『カナタの思うままに駆けてきたゆえ、余も帰りの道は覚えておらんな』


 西の聖都から逃げてきたフェンリルは途中で川に転げ落ちて流された上に、ゴブリンに捕まって連れ回されていた。当然、道など分かるはずもない。


 カナタの肩に乗って飛ばされまいとしがみついていたザグギエルも同様だ。


「もちろんわたしも分からないよっ。モフモフの匂いに釣られて走ってきただけだからねっ」


 詰まるところ、彼らは迷子だった。


『そろそろ日も沈もうとしている。余としては野宿は避けたいところだが……』


『うむ、我々は良いが、カナタ様にそのようなことをさせるわけには行かないからな』


「わたしは良いけど、ザッくんとフェンフェンはフカフカベッドで寝させて上げたいもんね」


 カナタが魔法で生み出したアイテムボックスには寝袋やテントも入っているため、野宿をしようと思えばできる。


 ギルドでたびたび世話になった受付嬢メリッサ一押しの品だ。


『おい、白毛玉。貴様、狼なのだろう? ならば鼻が利くだろう。人里の匂いを嗅ぎ分けろ』


『うるさい、黒毛玉。この体になってから、鼻の調子が悪いのだ。お前こそ魔王ならば、魔法で何とかして見せろ』


 ぐぬぬ、とカナタを間に挟んで火花を散らし合う。


「はー、ケンカするモフモフ可愛い……」


 カナタは相変わらずだった。


 このままでは夜になっても街道を見つけるのは難しい。野宿は避けられなさそうだ。


 しかし、その予想は大きく外れることになった。


 遠方から轟いてくる馬の足音に一人と二匹は気づく。


 かなりの速度で走っているのか、未だ距離は遠いにもかかわらず、しっかりとその音は聞こえてきた。


「人の声も聞こえるね。車輪の音も混ざってる。馬車かな」


 二匹の獣よりも優れた耳で、カナタは駆けているであろう馬の集団の方向を向いた。


『カナタ様、通行人ならば、馬車に乗せてもらえるかも知れませんぞ!』


『乗せてもらえずとも、人里までの道くらいは教えてもらえるだろう。少なくとも足音の方向へ向かえば道には出られるはずだ』


「だね! 行ってみよう!」


 カナタは二匹を抱え、暗くなり始めた森の中を駆け抜けた。




   †   †   †




「ひゃっはー!! その馬車を置いてけや、ジジィ~!!」


「こ、この馬車の荷は、村へ届けねばならんのじゃ! 明日への希望なんじゃー!」


「うるせー! 知るかー! 命が惜しけりゃ、馬を止めやがれー!」


「金目のものなんか何もないんじゃ! 諦めて帰ってくれー!」


「金目のものかどうかは俺らが見て決めるぜ! 止まれジジィ~っ!」


「い、いやじゃー!!」


 老人が操る幌付き荷馬車を、十数人の男たちが追いかける。


 薄汚い格好でたいまつを持ち、もう片方の手には物騒な得物を携えている。


「バイコ! 頑張るのじゃ! このままでは追いつかれてしまうぞい!」


 老人は手綱を振って馬を急かす。


 しかし、積んでいる荷が重いのか、徒歩で追いかけてくる盗賊たちを引き離すことができないでいる。


 道路がそれほど整地していない畦道であることも一因だろう。


 車輪の軸はがたつき、嫌な音を立て始めている。


 このままでは追いつかれるのは時間の問題だった。


「あの馬、中々頑張りやがるぜ!」


「……なぁ、あの馬、なんか山羊みたいな角が生えてないか?」


「ああ? 薄暗くてよく分かんねぇよ」


 青黒い毛並みの馬は、バヒンバヒンと息を荒げながらも、畦道を力強く踏み、盗賊が馬車に乗り移るのを何とかしのいでいた。


 だが、それももう限界のようだ。徐々に速度が遅くなっている。


 盗賊たちもそのことに気がついていた。スパートをかけて、馬車に肉薄する。


「追い剥ぎ歴一〇年を舐めるんじゃねぇぜぇ~!」


「「「ひゃっはー!」」」


 先頭を走る盗賊の指が、荷馬車の後ろにかかりそうになったその時だった。


「こんにちはー」


 少女の涼やかな声が真横から聞こえた。


「えっ?」


 黒髪の少女が併走している。


 まるで風に乗って浮かんでいるような静かな走り方だ。


「な、なんだお前ぇ!?」


 盗賊の誰何に、少女はにっこり笑って答えた。


「通りすがりの魔物使いです」


「ま、魔物使い? い、いや俺はどこから現れたのか聞いてるんだが……」


「あっちの方ですね」


 こんな森沿いの畦道になぜこんな少女がいるのか。足が自慢の盗賊団に追いつき、当たり前のように挨拶してくるのか。


 まるで意味が分からなかった。


「ちなみに、今は何をしてるんですか?」


「は、はぁ!? 見て分からねぇのか! 俺たちゃ盗賊! 追い剥ぎだよ! というか、何なんだお前は!? 邪魔する気か!?」


「邪魔というか、道を教えてもらいたくて」


「面倒だ! この女もさらって売っちまおうぜ!」


「「「ひゃっはー!」」」


 各々の武器を振り上げ、盗賊たちは叫ぶ。


「なるほどなるほど、あなた達は悪い盗賊さんなんですね」


「だから、そう言って──」


 ぷんっ、という空気が高速で擦れる音が聞こえたかと思ったら、少女の姿がかき消えた。


 煙のように消えた少女に驚くと同時に、近くにいた盗賊が意識を失ってその場で崩れ落ちる。


「えっ!?」


 後方に転がり消えていった仲間を目で追いかけ──その盗賊が見た景色はそれが最後だった。


 その盗賊もまた首筋に衝撃を与えられ、一瞬で意識を絶たれる。


「な、なんだ!? 何が起こってるんだ!?」


 たいまつを振り回すが、そこには何もいない。


 次々と盗賊たちが倒れていく様を見せつけられていくだけだ。


 少女によって行われたのは一方的な蹂躙である。


 彼らが全滅するまで、十秒もかからなかった。


 捕縛されギルドに突き出された盗賊たちは、のちにこう述懐している。


「ええ、影です。俺たちのたいまつが照らす薄暗がりの森の中を、黒い影だけが素早く飛び回って、音もなく俺たちを気絶させていったんです」


「正確に首筋を、気を失うだけの最小限の威力だけで打ち抜いていった。俺は盗賊になる前は闘技場でそこそこ名の売れた拳闘士だったんだ。だから、あの打撃がどれほどのものか分かる。あんな神業、人間に出来るわけがない。あれはきっと、森の精霊だったんだ!」


「すみませんごめんなさいもうしませんくいあらためますゆるしてくださいしにたくないたすけて」


 盗賊たちの証言をまとめたメリッサは、調書を閉じ、深く溜息をついたそうな。


盗賊を退治し、馬車を守ったカナタたち。

馬車で荷を運んでいた老人に声をかけると、驚きの事実が判明する。


次回『伝説の魔物使い(自称)アルバート・モルモ』


追記・コミック版の聖女さまも更新されておりますー。合わせてお楽しみくださいませ!

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『聖女さま? いいえ、通りすがりの魔物使いです!』が2020年3月10日にKADOKAWAブックスより発売されます!
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コミカライズも3月5日から配信決定!
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― 新着の感想 ―
[一言] ヒャッハー!どもに襲われる老人。 きっと運んでいるのは伝説のアイテムTANEMOMIに違いない。(北斗神感)
[一言] キタキタ、待ってました。 相変わらず、人外ですねー カナタちゃん。 ホント、襲う相手を心配しますね。 白と黒の毛玉も可愛すぎる。(^o^)
[良い点] > 「女性の一人旅は危険、と言いたいところですが、姉上ですしね……。むしろ襲われるようなことがあれば、相手を心配します」
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