第40話 白モフをゲットする その3
ゴブリンから平和的に白モフを救助したカナタたち。
助けた白モフはカナタに飛びつくなり、聖女様と喜び出すのだった。
「は、はわわ……モフモフ……白くて柔らか……しっぽふりふり……可愛い……可愛い……」
胸に飛び込んできた白モフに、カナタは感動で身を震わせた。
幼い頃からモフモフに触れようとするたびに逃げ回られていたカナタにとって、モフモフが自ら尻尾を振って接してくるなど、想像もしていなかった喜びだ。
カナタの思考はモフモフの柔らかさを感じること以外に、どこにも向けられなくなっていた。
『聖女様! お会いしたかった! お会いしたかったのです!』
キャンキャンと鳴きながら、白いモフモフは念話でカナタに喜びを伝えてくる。
ただの動物が魔力を必要とする念話を使えるはずがない。
何よりただの動物であれば、カナタが無意識に発している強者の威圧に耐えられるとは考えられなかった。
この白モフが何らかの魔物であったとして、いったい何者なのだろうか。
【伝説の魔物使いアルバート・モルモが記したモンスター辞典(全部含めてタイトル)】を読み込んだカナタも知らない新種のようだ。
『聖女様ーっ!! 聖女様ーっ!!」
しかも、この白モフな魔物は何か勘違いをしているようだ。
感極まった様子でカナタのことをしきりに聖女様と呼んでくるが、カナタは聖女の職業を選んでいない。
記憶を振り返っても、この白モフと出会ったのが今日が初めてであることは間違いない。
こんなに愛らしい白モフと過去に出会っていたら、カナタの永久記憶に焼き付いているはずだ。
おそらくこの白モフは、カナタのことを誰か別の人間と勘違いしているのだろう。
「白……モフ……かわ……かわわ……」
しかし、ゾンビ並みに思考力が落ちたカナタにはそんなことを考えている余裕はない。
ただただモフモフの感触に幸せを感じるばかりだ。
『我です! あなたの忠実なる従僕です! お願いします! また我の名を呼んで下さい!!』
白モフはしゃがんだカナタの胸に飛び込んだまま、ぐりぐりと顔を押しつけ、尻尾を捻挫しそうな勢いで振りまくっている。
そのふたりを見て、ぐぬぬと憤る者がいた。
『ぬぉいっ! 貴様ぁっ!』
先住モフモフのザグギエルである。
『余の主になれなれしいぞ! 疾く離れよ!』
カナタの頭上から、フシャーッ! と毛を逆立てて威嚇する。
その怒気を感じて、ようやく白モフがカナタの胸から顔を上げた。
『……む、なんだ、この黒い毛玉は?』
『け、毛玉!? そう言う貴様こそ、白い毛玉だろう!』
『誰が毛玉だ! 無礼な毛玉めが!』
『だから貴様も毛玉だろうがぁぁぁぁぁっ!』
キャンキャンメウメウと吠え合う二匹。
一向にカナタから離れようとしない白モフに業を煮やしたザグギエルは、カナタの頭から飛び上がり、太陽を背に急降下する。
『言って分からぬ愚か者めが! 食らえい!』
体を丸めて回転力を加え、黒い球体と化したザグギエルは、渾身の体当たりを白い毛玉にお見舞いした。
そして、ぽよんと柔らかく当たって跳ね返り、もう一度落下してきて同じくカナタの腕の中に収まった。
「ほ、ほわわわわわわっ……! ダブルでモフモフ……!? そ、そんな、そんなことって──」
両手に花ではなく両手にモフモフとなり、カナタの幸福は最高潮に達した。
そして何かがぷつりとキレる音がした。
「ふ、ふ、ふ、ふふふふふふふ……」
『『ふ?』』
カナタの異変に、争っていた二匹がキョトンと顔を上げる。
『どうした、カナタ?』
『如何なされました、聖女様?』
つぶらな瞳で見上げてくる二匹の愛らしい姿に、カナタの理性は沸騰して気化して消滅した。
「ふ、ふふ、ふたりが、ふたりが悪いんだからね……」
『……?』
キョトンとしたままの白モフに対して、その言葉に聞き覚えがあったザグギエルはビクッと体を震わせた。
『い、いかん! カナタよ、落ち着け──』
『せ、聖女様? 我が何か気に障ることでも──』
声をかける二匹に、爛々と輝くカナタの瞳が向けられる。
はぁはぁと呼吸は荒く、興奮で汗をかいている。
見開かれた目は赤く、暴走状態にあるのは明らかだ。
「はぁ……はぁ……。ダブルでモフモフ可愛いなんて……そんなの、そんなの耐えられるわけないじゃない……!」
『や、やめよ、カナタ! そのようなこと、婦女子がすることでは──』
『聖女様!? 聖女様!? 何をなさる気ですか!?』
「ふたりがそんな愛らしい姿で、わたしを誘惑するからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ!!
ダブルで吸引。
それは人にはとても見せられない光景だった。
カナタは思う存分、二匹を吸いに吸いまくる。
人里離れた森の奥深くで、メゥゥゥゥゥゥゥッ! キャフゥゥゥゥゥゥゥッ! とふたつ悲鳴がこだまするのだった。
カナタの拾ったモフモフはいったい何者なのか。
拾われてそうそう洗礼を受けた白モフは自らの名を名乗る。
白モフの正体とはいったい──
次回『我が名は神狼フェンリル』
追記:コミカライズ版の『聖女さま?』が更新されていますので、そちらもぜひぜひお楽しみ下さいー!