第39話 白モフをゲットする その2
ゴブリンに捕まってしまったフェンリルは、遠くから聖女が近づいてくる気配を感じる。
ゴブリンさん、逃げてー!
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カナタの走る速度はまさしく疾風だった。
風魔法を駆使し、空気の抵抗をなくし、その類い希なる脚力と練り上げた歩法により、空を飛ぶ鷹よりも速く平原を駆け抜けていく。
『か、カナタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ど、どこへ行くのだ!? じ、事情を説明してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
振り落とされないように必死でカナタの頭につかまりながら、ザグギエルが叫ぶ。
「モッフモフぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
しかしカナタの耳には届いていないのか、ザグギエルを落とさない最低限の配慮以外は、遙か前方にいる何者かに集中している。
「くんくん、近い、近いぞ……!」
鼻を鳴らして目標の接近を確認するカナタに、ザグギエルは呆れる。
『貴公は犬か……』
神狼ですら詳細な位置が分からなかったところを、こうして正確に探り当てているカナタの嗅覚は犬並どころではないのだが、これもモフモフ愛の成せる技なのだろうか。
モフに限定して、今日のカナタの鼻は冴え渡っていた。
匂いを頼りに、野を駆け、森を越え、小川を跳び越え、山も飛び越え、谷も飛び越え、本来の旅のルートを大きく逸れて、カナタは爆走する。
そして──
「モぉぉぉぉぉぉぉぉぉっフモフぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! 見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ずざざざざぁっ、とブレーキをかけたカナタの前には、目を点にした二匹のゴブリンがいた。
長い棒をふたりで前後に抱えて、その中央に白い毛玉がくくりつけられている。
『な、なんだべ、おめー!?』
『どどど、どっから現れただ!?』
突然現れた人間の少女に、ゴブリンたちは混乱した。
こんな森の奥に人間が現れること自体が珍しい。
それもこんな若い少女がたった一人でやってくるなど、自殺行為だ。
だが、目の前の少女から得も知れない威圧感のようなものをゴブリンたちは感じていた。
『ににに、人間が、オラたちに何のようだ!』
『やるっていうなら、オーガ様が相手になるだよ!』
精一杯威嚇するが、黒髪の少女は気にした様子もなく、微笑みを湛えたままこちらに歩み寄ってくる。
『ちちち、近づくな!』
『ま、まさか、この肉が目当てだか!? 駄目だべ! この肉はオラたちの食糧だべ! オーガ様のところへ持って行かないと、オラたちが殺されるんだべ!』
「…………」
一見するとただのか細い少女にしか見えないが、その体に纏う圧倒的強者のオーラがゴブリンたちを立ちすくませる。
気がつけば肩に乗せた棒が軽い。
捕まえていたはずの白い毛玉が、少女の片腕に抱えられていた。
ほどかれた縄が遅れて地面に落ちる。
『い、いつの間に……!?』
『動くところすら見えなかっただ……!?』
白い毛玉を抱えたまま、カナタが右手を掲げると、まるで巨大な魔獣にのしかかられたような重圧がゴブリンたちを襲った。
『あ、あわわわ……』
『だ、駄目だ……オラたちはここで死ぬんだ……』
ゴブリンたちは恐怖であぶくを噴いて失神しそうになる。
「提案があるんですが」
カナタは手の平を上に向けて、ゴブリンたちの前に差し出した。
『『…………?』』
重圧で呼吸も出来なくなったゴブリンたちが訝しんでいると、カナタの手の平の上に黒い穴が出現し、食パンと卵とハムが落ちてきた。
「物々交換しましょう」
† † †
『う、うめえ! なんだべさー!? これなんだべさー!?』
『人間はこんなうめえもの食ってるべか!?』
カナタが作ったホットサンドを貪りながら、ゴブリンたちは涙した。
焼くか煮るかしか知らないゴブリンたちには未知の美味である。
先ほどまでの恐怖など忘れて、心ゆくまでホットサンドを楽しんだ。
「ふふー、交渉は成立です。この子はもう自由にしていいですね?」
大人しくしている白い毛玉を指しながら、カナタはゴブリンたちに確認を取る。
『『どうぞどうぞ!』』
お土産にたっぷりのホットサンドを持たせてもらったゴブリンたちは、嬉しそうに去って行った。
カナタは改めて、助け出した白い毛玉をのぞき込む。
先ほどまで汚れていた毛皮はカナタの魔法によって洗浄されており、見事な白銀の毛を輝かせている。
見たところ怪我もしていないようだったが、念のための回復魔法で、それも完調だ。
「……大丈夫? 捕まえられて怖かったのかな?」
元気になっているはずだが、白い毛玉はプルプルと震えるばかりである。
『なんだ、こやつは。弱そうな魔物であるな』
お前がそれを言うのかというツッコミを入れる者は誰もいない。
カナタはザグギエルと一緒に震える毛玉を見守っていると、不意にもぞりと顔を上げた。
深い海のように蒼い瞳が二つ、カナタを見上げている。
『お、おお……。やはり……間違いない……』
カナタと目が合うと、白い毛玉は蒼い瞳から滂沱と涙をこぼれさせた。
「えっ? えっ? どうしたの? お腹痛いの?」
さすがのカナタもいきなり泣き出すとは思っていなかったため、白い毛玉の突然の様相の変わり様にたじろぐばかりだ。
そんなカナタを前に、白い毛玉は感極まって飛び上がった。
『聖女さまぁぁぁぁぁぁっ! 一日千秋の思いで探しておりましたぁぁぁぁっ! ようやく、ようやく、お会い出来たのですねぇぇぇぇぇっ!!』
「おお! モフモフが自分から!? モテ期!? モフモフモテ期なの!? 魔物使いってすごい!」
尻尾をブンブンと振って胸の中に収まった白い毛玉に、カナタはキュンキュンした。
その3へ続きます。
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