河崎爆発ッ!その5
時計は午後11時を過ぎていた。そろそろ終電が無くなるころ。居酒屋もぼちぼち空いてきたところで、さっきから酎ハイを5本くらい飲みまくった優里奈さんがデロンデロンになっている。
「だ、大丈夫ですか優里奈さん!めちゃくちゃ酔っ払ってますよ?」
「大丈夫だよ~、これくらいまだ酔ってるうちに入らないよ!ねぇ裕子先生!」
「優里奈は酔っ払うと歯止めが効かないからな…。成人式の時も、集まった同窓会で周囲の男子をドン引きさせたという噂だが」
「アハハ!あん時はヤバかった!皆の前で異能力見せちゃうところでしたもん!」
「…気をつけろよ?異能力者が一般社会でその能力を発動するときは、たいてい酔ってるときだからな」
マジか。酒には気を付けよう。ま、俺まだ16歳だし酒飲めないんですけどね。
「どう?遥君も一杯やろうよぉ!大丈夫!一口くらいなら飲酒じゃないよ!」
「コラ!優里奈!未成年への飲酒の強要は大罪だぞ!」
「ハハハ!冗談だよぉ!でも裕子先生も、酒を最初に飲んだのは…」
「その話はやめろ!!」
なんだかんだ言って裕子先生もずいぶん酔っ払ってる。
「さて、終電もそろそろ無くなるし、この辺でお開きとするか」
「そうですね!そうしましょう」
思ったよりも早かったな。てっきり今夜は家に帰れないと思ったけど、さすがに高校生をそこまで連れまわすようなことはしないか。
でも、噴水族って噂だと凶悪で好戦的な異能力グループと聞いていたんだがな、、。優里奈さんはとてもそんな風に見えない。
「ねえ?遥くーん。遥君って強いの?」
「そんなに強くないですよ。ただの異能力者の端くれですよ」
「またまた謙遜しちゃって~。異能力者の端くれなのに河崎の爆発にそんなに興味津々な訳ないじゃん!」
酔っ払いの相手するのめんどくさい!いつもはしっかりしてる裕子先生も今は頼りない酔っ払いだし…。
「ふむ。遥君は強いぞ!優里奈なんて目では無い。なんたって、シナトラの会長だからな!」
え、今暴露しちゃったよ!?何言ってくれちゃってんの裕子先生!!
「マジで?あの『伝説』のシナトラ!?でも、シナトラって会長は確かお爺さんだったような」
「遥はその孫だ!」
工藤進。かつて名護屋、いや、東海一強いと言われた異能力者だ。
その工藤進の孫が俺、工藤遥だ。
両親は早くに亡くなり、俺はずっと爺ちゃんの下で育てられた。なぜか統也よりも弟の俺の方が強く能力を受け継いだらしく、俺がシナトラの会長を受け継いだ。と同時にシナトラにいた幹部もその座を子や孫に譲り、一気に若い異能力グループになったのだ。
って、そんなことは今はどうでもいい!俺は目立ちたくないんだ。しかもよりによって噴水族の優里奈さんに正体バレるなんて!
「最近全く聞かなくなったけど、へえ。道理でねぇ。いいわ!遥君、私と今から決闘なさい!」
「えー!!だって今優里奈さん相当酔ってますよ?」
「構わん!今から私が異世界空間を作り出す!そこで思う存分戦いたまえ!」
なんで裕子先生もそんなに乗り気なんだよ…
「しかたねえ!」
裕子先生が作り出した異世界空間は、赤茶の砂漠と山で出来た空間だった。しかも熱い!なんだこの空間はまんま砂漠じゃねえか。気温50度くらいあるんじゃねえか?
「さすがオニババ、、。悪趣味な空間作ってくれるね」
「ふむ、今なにか言ったかね?遥君」
「…いいえ、裕子先生のフィールド素敵ですッ!」
「ふむ。よろしい!では、バトル開始!」
「あはは!行くよぉ遥君!」
噴水族の大半は属性は水。こんな荒れ果てた砂漠だと一瞬で蒸発してしまうだろう。優里奈にとっては不利なフィールドだ。
「お手柔らかにね!」
右手に光の剣を顕し、下に大きく振りかざし直径100メートルのクレーターを作った。
「おっとぉ?いきなり光の剣出すんだ!?手の内隠さないんだねえ」
「どうせ隠したところで、正体バレてんだから無駄でしょ?」
「いいねえ!その姿勢、、好きだよ!!」
突然の告白に一瞬頭が真っ白になる。優里奈はその隙を見逃さなかった。優里奈は両手で魔法陣を空に作り出しそこから水龍が俺を襲ってきた。
「あはは!遥君可愛い!食べちゃいたい!さあ!水龍よ!全てを吹き飛ばしなさい!」
水龍は口から水を勢いよく噴出した!砂漠のあちこちでデカい穴が開く。危ねえ!水圧半端ねえ!
これが優里奈の属性か。
「ふふ!私が水龍出したから、水属性だと思ったでしょ?でも残念でした!私の能力は~」
なんだ!?一気に身体が動かなくなった。
「私の能力は時間よ!時を止めたり遅らせたり、速めたりすることが出来るの!」
おいおい、なんちゅうデタラメな能力だッ!?
「今遥君の半径3メートルの時間を止めたわ。どう?さすがの遥君でも時を止められたら何も出来ないよね!!」
ふん、それはどうかな!
俺は右手に魔力を込め、剣を膨張させた。
「な!?なんで?」
「時間を止められたら、空間を壊せば良いだけのこと!」
そう、光の剣を膨張させることによって優里奈が止めた時間のある空間を吹き飛ばしたのだ。
「でも、時間の能力を持ってるってことはアンタもしや」
「ふふふ!気付いた?そうよ、私が噴水族のリーダー、優里奈よ!噴水族もシナトラと同じように世代交代したのよ。私の母が先月までリーダーだったんだけどね!」
「水上優里奈、先月協会の広報に載ってた、新しく就任したリーダーってアンタのことだったのか!」
「これからはよろしくね!遥君!」
そう言って優里奈は上空100メートルくらいに飛び、そこから両手を広げ水を放った。水は俺をめがけて追いかけてきた。まるで意志があるかのように…。
剣を振りかざし水を払い飛ばすが、水は勢いよく降り注ぐ。
そうか、水のこの勢いは水圧では無い!優里奈が水のスピードを速めてるんだ!
そう悟った俺は剣で振り払うのをやめた。
勢いよく水が俺に降り注ぐ。
「あれれ?どうしたの遥君。もう終わりぃ?」
「水の冷たさは、この砂漠ではちょうどいいくらいなんでね」
そう、なにせ光の剣は熱いのだ。しかも熱い砂漠フィールドだからな。